悪性腫瘍(がん)は、日本人にとって最も深刻で重要な疾患と位置づけられています。
洛和会音羽病院は、京都府の「がん診療推進病院」に認定されており、がん治療成績の向上を目指して日夜努力しています。
この特集では洛和会音羽病院のがん診療の特長と院内連携について紹介します。

外来治療センター センター長 兼務
佐々木 康綱(ささき やすつな)
■ 専門領域
腫瘍内科、がん薬物療法
■ 専門医認定・資格など
本内科学会認定内科医
日本がん治療認定医機構教育医/治療認定医
日本肉腫学会専門医
日本癌学会・日本臨床腫瘍学会名誉会員
米国臨床腫瘍学会(ASCO)・米国癌研究学会(AACR)会員
国立がん研究センター東病院腫瘍血液内科 元医長
昭和医科大学腫瘍内科学前主任教授(現客員教授)

がん診療の流れ
「がんかもしれない…」から確定診断、治療方針の決定まで
多くのがん患者さんは、痛みなど何らかの症状をきっかけとして、がんが見つかります。検診によって見つかる場合や、他の病気で受診中にCTなどの画像検査を受けて偶然にがんが見つかる場合もあります。
まずは、CT・MRIやPET-CTなどの画像診断によってがんの可能性があるか、またがんであった場合には、局所にとどまっているか、遠くの臓器に転移しているかを調べます。最終的にがんと診断するためには、内視鏡検査や病変に針を刺すことによって、組織を採取し病理医ががんかどうかの判断をします。また、腫瘍マーカーと呼ばれる血液中のがん反応を調べることも診断の補助となります。
基本的には、がんの診断がついた後、関連する複数の診療科のがん専門医が治療方法について協議する「キャンサーボード」と呼ばれる会議を通じて、治療方針を決定します。「キャンサーボード」は、それぞれの臓器がんについて毎週開催され、迅速に治療方針が決められます。
患者さんにとって最適な治療を
原則として病変が局所にとどまっている場合には局所治療である手術療法や放射線治療が選ばれます。がんが骨、肺、肝臓などの原発巣から離れた臓器に転移している場合には、全身治療である薬物療法が選ばれます。
がんが進行して積極的な治療に耐えられなかったり、かえって寿命を縮めてしまったりする可能性がある場合には、がんのつらさを軽減する専門診療科である緩和ケア内科が対応します。
病理診断
がん診療に欠かせない「病理診断」を院内で迅速に実施
「病理診断」は、組織や細胞に現れた病変を、「病理医」が顕微鏡を通して詳細に観察して行うもので、胃・腸・肺・乳腺など、あらゆる臓器を対象にしています。病理診断の結果は速やかに主治医に報告され、診療に生かされます。特にがんに対しては、より有効な治療を行うために、病理診断は不可欠です。当科では、臨床医・臨床検査技師をはじめとするスタッフとの連携のもと、細胞診断、生検組織診断、手術で摘出された組織の病理診断、手術中の迅速診断を行っています。また、130種以上の抗体を用いた免疫組織細胞化学や蛍光抗体法、HER2遺伝子検査といったFISH検査、液状化細胞診など、より詳細な検査を院内で実施しており、患者さんに対する医療の質向上に貢献しています。
手術療法
スペシャリストによる手術療法

診療実績
※診療実績件数は2024年1月~12月(1年間)のデータです
※多数の診療実績の中から、がん治療に関するデータのみ抜粋して掲載しています
外科・下肢静脈治療センター
- 大腸がん:87件
- 胃がん:32件
- 肝胆膵悪性腫瘍:30件
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
(2024年4月~2025年2月の11カ月間)
- 耳下腺腫瘍:39件(うち悪性腫瘍4件)
- 甲状腺腫瘍:24件(うち悪性腫瘍12件)
- 中咽頭がん:11件
- 喉頭がん:8件
- その他の頭頸部 扁平上皮がん:8件
- その他の頭頸部 頸部郭清術:13件
乳腺科
- 乳房手術:71件
- ・(内)乳房切除手術:53件
- ・(内)乳房温存手術:7
産婦人科・産婦人科腹腔鏡手術センター
- 卵巣がん:33件
- 子宮体がん:29件
- 子宮頸がん:10件
泌尿器科・泌尿器腹腔鏡センター
- 膀胱がん:119件
- 前立腺がん:108件
- 腎盂尿管がん:23件
- 腎がん:24件
脳神経外科
- 脳腫瘍 神経膠腫:1件
- 脳腫瘍 髄膜腫:5件
- 脳腫瘍 神経鞘腫:2件
- 脳腫瘍 転移性脳腫瘍:7件
- 脳腫瘍 その他:2件
呼吸器外科
- 肺がん:66件
- 転移性肺腫瘍:6件
京都口腔健康センター 口腔外科
- 腫瘍性疾患(口腔がん・良性腫瘍):47件
薬物療法
日々進化する薬物療法 ~適切な選択が治療効果を上げる~
20世紀のがん薬物療法は、化学療法が中心であり、脱毛や強い吐き気といった副作用が患者さんの大きな負担になっていました。21世紀に入ると、化学療法に加えて、新たな治療法として分子標的療法と免疫療法が登場しました。これらの薬物療法は、化学療法の効果をさらに増強し優れた延命効果やがんに伴う症状の緩和をもたらしました。さらに化学療法の効果が乏しい疾患に対しても優れた治療成績を示し、新たな治療法としての地位が確立しています。
特筆すべき点は、化学療法の時代には存在しなかった「バイオマーカー」と呼ばれるがんの持つ遺伝子などの情報を用いて、あらかじめ効果を予測することが可能となったことです。しかし化学療法による脱毛や強い吐き気といった副作は少ない代わりに、肺毒性、肝毒性や、特に免疫療法では活性化されたリンパ球が正常細胞に作用した結果引き起こされる免疫関連有害事象と呼ばれるさまざまな副作用が問題となります。
つまり、効果が期待される薬剤を選択し、副作用を管理しながら薬物療法を行うことが現代のがん薬物療法の基本方針です。

働きながら外来で治療できる ~外来治療センター~

がん専門の医療チームで多角的にサポート
当院の外来治療センターには、医師だけではなく、がん薬物療法に精通した看護師と薬剤師が常駐し、また、ソーシャルワーカーによる就労支援も実施しています。がん患者さんが、働きながら、日常生活を大切にし、安心して治療を続けていただけるようチームでサポートしています。
診療実績
※診療実績件数は2024年1月~12月(1年間)のデータです
※多数の診療実績の中から、がん治療に関するデータのみ抜粋して掲載しています
消化器内科・内視鏡センター
- 胃がん:30件
- 膵がん:15件
- 大腸がん:6件
- 胆のう・胆管がん:11件
- 食道がん:2件
- 肝がん:7件
- 上部内視鏡検査:5,992件
- 下部内視鏡検査:1,731件
腫瘍内科
- 外来化学療法件数 全診療科:2,841件
- 外来化学療法件数 腫瘍内科のみ:1,247件
血液内科
- B細胞性リンパ腫:27件
- その他:18件
- 骨髄異形成症候群:13件
- 急性骨髄性白血病:37件
- 多発性骨髄腫:14件
- その他のリンパ腫:16件
- 特発性血小板減少性紫斑病:2件
- リンパ性白血病:2件
呼吸器内科・洛和会京都呼吸器センター
- 呼吸器系 悪性新生物:195件
放射線治療
ピンポイント照射で体への負担を最小限に

緩和ケア
患者さん、ご家族のさまざまなつらさをチームで支えます
緩和ケアとは、重い病を抱える患者さんやご家族の、体や心のさまざまなつらさを和らげ、より豊かな人生を送ることができるよう支えるケアです。洛和会音羽病院では、がんの治療期から、痛みなどのつらい症状がある場合に、緩和ケア外来や緩和ケアチーム(入院中)にご相談いただけます。また、緩和ケア病棟では、つらい症状を和らげる治療・ケアに加え、ご自宅で過ごすための準備やレスパイト入院※なども行っています。私たちは多職種によるチーム医療で、病気になっても患者さんとご家族が地域で安心して生活できるようサポートしていきます。どうぞお気軽にご相談ください。
※ご家族の休息のための一時的な入院

洛和会音羽病院では、これまで以上にがん治療の質向上を目指し院内の改革を行うとともに、新たな治療装置を導入するなど、挑戦を続けています。さらなる治療成績向上のためには、患者さんからのご意見が重要な情報源となります。常に患者さんとともに地域に根差したがん医療を提供していきたいと思います。
洛和会音羽病院 腫瘍内科 参与
外来治療センター センター長 兼務
佐々木 康綱
お問い合わせ
- 洛和会音羽病院 腫瘍内科
TEL:075(593)4111(代) - 医療機関さまからの紹介・お問い合わせ窓口
洛和会音羽病院 地域連携課
TEL:075(593)7725(直通) - 当院のがん診療についてはこちら
公開日時 : 2025年04月25日 (金)