腎臓病患者さんの生活を支える 腎臓リハビリ

腎臓病患者さんの生活を支える 腎臓リハビリ

腎臓リハビリテーション
一般的にリハビリテーション(以下、リハビリ)というと、骨折や脳梗塞などの後に機能を回復させるためにするものといったイメージがあります。しかし、リハビリとは、単なる機能改善を目的とするだけでなく、患者さんの円滑な社会復帰を支えるためにあらゆる治療、サポートを行うことです。洛和会音羽記念病院では腎臓の機能が低下した慢性腎臓病や透析の患者さんを対象とした腎臓リハビリを行い、ご希望に沿った生活ができる状態に戻ってもらうことを目指しています。

洛和会音羽記念病院 リハビリテーション部 課長 白井健雄(しらい たけお)
洛和会音羽記念病院
リハビリテーション部 課長
白井 健雄(しらい たけお)

専門医認定・資格など

理学療法士
3学会合同呼吸療法認定士
認知症ケア専門士
介護支援専門員
福祉住環境コーディネーター2級
福祉用具プランナー

大切な腎臓のことをご存じでしょうか

腎臓は、腰よりやや高い位置の背中側にあるそら豆のような形をした臓器で、血液中の不要なものを取り除くだけでなく、血液をつくる働きを助けたり、血圧の調整、骨の量や質の維持など、生存に必要な役割を担っています。腎臓には1分間に約1,200mlもの血液が流れ込んできます。腎動脈から流れ込んできた血液は、腎臓の中の小さな血管に枝分かれし、さらに無数の毛細血管に分かれて腎臓全体に行き渡ります。ここで血液は一部ろ過されて尿細管に流れていきます。
腎臓の機能が低下すると、血液のろ過が十分に行えず体内の水分や老廃物のコントロールができなくなります。さらに進行して腎不全になると、浮腫、高血圧、尿毒症、骨の量や質の低下、貧血などさまざまな異常を招き、放っておくと生命の危機につながります。腎不全の状態は腎臓専門医による定期的な診察が必要で、腎機能の程度によって対策を検討していくことが必要です。もし末期腎不全となった場合、腎臓のすべての役割を果たす治療は腎移植しかありませんが、さまざまな腎機能のうち、余分な水分や塩分、老廃物などの排せつを代行する治療として透析療法があります。

腎臓リハビリとは

従来、透析患者さんは、尿タンパク値や腎機能障害を悪化させないよう安静にした方がよいという考えが主流でしたが、現在では適度な運動により、持久力や体内に酸素を取り込む力、歩行機能、思い通りに体を動かす能力などの改善効果が得られることが分かってきています。
洛和会音羽記念病院では、透析患者さんを対象に、腎臓リハビリを行っています。腎臓リハビリとは、身体的な症状を改善するための運動療法、食事療法、薬物療法や教育だけでなく、腎臓病患者さんの職業的状況を改善し、身体的・精神的負担を軽減させ、ご家族を含む周囲の方とのコミュニケーションを大切にしながら、患者さんが自分らしい生活を送ることを目的とした長期的な包括的プログラムです。

重症化につながるサルコペニアとフレイル

透析患者さんは、透析治療でベッドに横たわる時間が長いことや食事制限などにより筋肉が落ちやすく、サルコペニアやフレイルの状態に陥りやすいといえます。

サルコペニア…筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態
フレイル…加齢に伴い、心身が老い衰えた状態で、健康障害を起こしやすくなった状態。早期発見・介入により進行抑制や改善が期待できる

サルコペニアが進行すると筋力やバランス能力が低下し、転倒や活動度低下が生じやすく、フレイルが進行して要介護状態につながる可能性が高くなります。運動機能、身体機能を低下させるばかりでなく、生命予後をも低下させてしまう場合が多く、その対策が必要です。近年、透析患者さんのうち約8割が、プレフレイルを含むフレイルを合併しているといわれています。
洛和会音羽記念病院では、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)が、医師・看護師・薬剤師・管理栄養士など多職種と連携しながら、患者さん個々に合わせたプログラムで、患者さんとともに腎臓リハビリに取り組み、それらの重症化予防に努めています。

転倒による危険を減らしたい

洛和会音羽記念病院 リハビリテーション部
副係長 理学療法士 山本 麻奈美(やまもと まなみ)


透析患者さんは食事制限により、筋肉を構成する栄養素が不足したり、活動量が落ちたりします。カルシウム再吸収力が低下して骨が弱くなり、さらには筋肉量の低下によって、転倒しやすくなることが分かっています。そこで重要なのが転倒予防です。

腎臓リハビリを進める前には、まず検査を行い、サルコペニアやフレイルの度合いを確認します。

検査項目 検査内容
握力 ものを持ったりするときに必要な手の握る力を測ります
SPPB(Short Physical Performance Battery) ・バランステスト
・4m歩行テスト
・5回の椅子立ち上がりテスト
体成分分析(InBody) 体脂肪、筋肉量などを測定します
膝伸展筋力 歩いたり階段を上り下りするときに必要な足の力を測ります

リハビリは、有酸素運動、レジスタンストレーニング、バランストレーニングなどで負荷をゆっくりかけるなど、無理なく運動を行います。特に足の血管に障害があり、血流が十分でない人はすぐに疲れる傾向があります。また、糖尿病や高血圧の合併症のある方も多く、無理せずに体の状態に合わせたリハビリプログラムを組むことが大切です。そのほか、ご自宅での活動状況も考慮しながら、行っていく必要があります。普段運動をしていない方に日常生活に運動を取り入れてもらうのは難しく、透析が必要になる前の腎臓が弱ってきた段階から運動の意識をもってもらうことも大切です。

希望の暮らしを実現してもらいたい

洛和会音羽記念病院 リハビリテーション部
係長 作業療法士 志村 邦康(しむら くにやす)


作業療法では、日常生活活動や作業を通して対象者のリハビリを支援しています。治療や支援の対象となる生活上の課題は人それぞれで、食事や排せつ、歩行、入浴、更衣など日常生活活動が主になりますが、それらの活動に関わる認知・身体の機能障害になることもあります。
主治医からの処方を受けた後、初回の関わりでは日常生活活動や心身機能の評価に加え、療養生活を安心して過ごしていただけるようにリアリティ・オリエンテーション(院内の案内など)も行っています。治療方針は対話を重視して、その人の考え方や心理状態に合わせながら、療養生活の質の向上と今後の生活に希望を抱いていただけるよう心掛けています。
血液透析は身体的・精神的・時間的な制限などがあり、治療中に限らず、生活の中でもストレスが山積します。日々のストレスに加え、合併症増悪やシャントトラブルなどから入院が長期化すると「何をしたかったのか」「どうあるべきなのか」について考える能力が低下することがあります。「何したいのか」「何をしなければならないのか」「何を期待されているのか」について、ご本人やご家族、支援担当者からお聞きして、そのために必要な心身機能と日常生活活動の改善に向けて、個別性を重要視した作業療法プログラムを実施します。また、対象者を取り巻く地域・療養環境(物理的、制度的、社会的、文化的)の調整についても、多職種と協力しながら心地良く生活できるように取り組んでいます。
リハビリは多くの職種で行う分業と協業です。治療対象が食事の場合、誤嚥(ごえん)や食べこぼし、姿勢、手の扱いなどが主な課題になります。作業療法での分業としては、スプーンを加工するなどその人に合わせた自助具を作成・調整などを行うことが一つの役割です。さらに多職種と協業して食事の質が高まるよう誤嚥予防、効率性と姿勢保持の改善、自己摂取量の確保、対象者の満足度の向上を目指しています。
その人にとって意味のある生活行為に寄り添い、改善するように働き掛けることが私たち作業療法士の仕事だと考えます。

食べることと生きること

洛和会音羽記念病院 リハビリテーション部
言語聴覚士 梅田 大五(うめだ だいご)

当院では言語聴覚士は主に摂食嚥下障害、構音障害、呼吸障害へのリハビリを行い、その中でも摂食嚥下障害、すなわち食事に対するリハビリオーダーが最も多いです。透析を受けられる方は食事に対して強いこだわりを持っている方が多くいらっしゃいます。食べることを強く希望したり、逆に透析食では味がしないと食事を拒否される方もおられる一方、入院中は身体的にも精神的にも制限が多く、楽しみは食事しかないと仰る方もおられます。食事に対する向き合い方はその方の人生観の一部であり、QOL(生活の質)を向上させるためには重要であると私は考えています。その方にとっての食事に対する向き合い方に可能な限り寄り添い、もっとも安全な形で希望を叶えることを心掛けています。

現在、入院患者さんを対象にした腎臓リハビリを行っていますが、ゆくゆくはそれを外来透析患者さんや腎臓の機能が落ちてきた腎臓病の方にも適用させていきたいと思っています。腎臓リハビリを早期に導入することで、フレイルやサルコペニアなどの重症化を防ぎ、患者さんの社会生活を支えていきたいと考えています。

<関連ページ>
洛和会音羽記念病院 リハビリテーション部
洛和会音羽記念病院

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