洛和会音羽病院 泌尿器科では10月に導入した手術支援ロボット「ダヴィンチ」を用いて、前立腺がん、膀胱がん、腎がんを対象に、体の負担が少ない治療を行い、患者さんの生活の質の向上と早期在宅復帰を支えています。
洛和会音羽病院 泌尿器科
部長 赤尾 利弥(あかお としや)
専門分野
尿路悪性腫瘍、体腔鏡手術
専門医認定・資格など
日本泌尿器科学会認定専門医/指導医
臨床研修指導医
泌尿器腹腔鏡技術認定医
前立腺とは男性にのみある臓器で、クルミの実のような大きさと形が特徴的です。精液の一部である前立腺液を分泌する機能があります。
増え続ける前立腺がん
高齢化・食生活の西洋化により前立腺がんは増加傾向にあります。男性におけるがんの全体の15.8%を占め、胃がんに続く第2位の多さです。ただ比較的進行が緩やかで、早期発見できれば十分に根治が望めます。
PSA検査が有効
前立腺がんは尿道から離れた部位から発生することが多いため、初期はほとんど自覚症状がありません。排尿困難や血尿などのトラブルに気付いたときには、すでに進行がんになっている可能性が高いです。早期発見のためには前立腺腫瘍マーカーPSA(前立腺特異抗原)と呼ばれる検査が有効です。採血によって前立腺に特異的なタンパク質の一種「PSA」の値を測定し、前立腺がんの可能性がある人を見つけるのです。PSAの値が高い人ほど前立腺がんが発生している確率が高くなります。基準値以上の値が出たときは専門医を受診していただき、生検を行うことで早期発見につながります。PSA検査を受けることで、前立腺がんで命を落とすリスク、がんが転移するリスクが下がるとされています。
ダヴィンチによる前立腺がん手術
「ダヴィンチ」は、1990年代にアメリカで開発された手術支援ロボットです。体に負担が少ない腹腔鏡手術の特徴を生かしながら、ロボット機能の支援によって、手術医がもつ柔軟性と機械がもつ精密性を合わせた手技が可能で、従来の手術方法である、おなかの皮膚を切開して行う開腹術や、おなかにカメラを入れて最小限の皮膚切開で行う腹腔鏡手術よりも精緻な手術ができるようになりました。
手術はまずおなかに小さな穴を6カ所あけ、ダヴィンチをドッキング(装着)し穴からロボットの鉗子やカメラなどを挿入して開始します。
次に前立腺と膀胱の間を切離し、それから前立腺および精嚢の周囲を剥離します。さらに前立腺と尿道を離断して前立腺を取り除き、最後に膀胱と尿道をつなぎ合わせます。骨盤の奥にあるため特に難易度が高いのですが、ダヴィンチでは細かい連続縫合が可能なおかげで手術時間も短く縫合不全による合併症も少なくなります。
根治を目指す前立腺全摘除術
ダヴィンチによる前立腺の全摘出にかかる手術時間は通常2~3時間程度で、入院は2週間程度必要になります。腫瘍の取り残しが少なく、がんが前立腺内にとどまっている患者さんにおいては、根治の可能性が高い治療法です。一方、周りの器官にがん細胞が広がっている患者さんの場合は、はじめに男性ホルモンの分泌や働きを抑える内分泌療法でがんを小さくしてから手術を行ったり、手術の後に放射線療法や内分泌療法を行ったりすることで根治できる可能性が高くなります。
ダヴィンチの優位性
手術後の尿失禁と性機能障害の早期回復
前立腺の全摘出手術では尿失禁や性機能障害などといった合併症がある程度あります。尿失禁は術中に前立腺のすぐそばにある括約筋が損傷されることにより起こる合併症です。通常、手術直後は尿もれパッドが必要なぐらいですが時間が経つにつれて改善し、3カ月前後で元のように戻ります。ダヴィンチではなるべく周囲の組織を損傷せずに手術することができるので、従来に比べて尿失禁の回復が早くなります。
性機能(勃起機能)障害は前立腺のすぐ脇にある神経や血管が一緒に切除されることにより起こります。ダヴィンチでは、より精緻な手技によって勃起神経や血管を傷つけることなく前立腺を取り除くことが可能ですので、こちらも早期回復が見込まれます。ただし、腫瘍の位置や大きさによってはこれらの神経や血管を温存することによる〝取り残し〟のリスクが高まるので、事前に十分な検討が必要です。
早期発見で重症化を防ぐ
前立腺がんは食生活の欧米化や高齢化によって、これからも増加し続けるという予測もありますが、近年普及しているPSA検査によって早期発見が可能となっています。特に顕著に罹患率が増える50歳代以上の男性で、まだ受診したことがない方は一度検査を受けられてもよいかもしれません。
※本年1月から始まる婦人科疾患のダヴィンチを使った手術については1月以降のらくわプラス医療のはなしで取り上げます。ぜひご期待ください。
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手術支援ロボット ダヴィンチ(da Vinci Xi)
洛和会音羽病院 泌尿器科
以下の病院でも泌尿器疾患の治療を行っています。
洛和会丸太町病院 泌尿器科
公開日時 : 2022年01月04日 (火)