認知症は、脳の病気や障害などさまざまな原因により、認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態をいいます。原因の多くは加齢に伴った病気と考えられていますが、高齢者だけでなく、働き盛りの世代でも発症します。2020年の統計では、65歳以上のうち、実に6人に1人程度の方が認知症といわれており、現在も増加の一途で2025年には5人に1人になると見込まれています。洛和会音羽リハビリテーション病院では、入院・在宅を問わず、認知症の患者とそのご家族へのケアが行われています。今回は病院による認知症ケアの“今”をご紹介します。
今回お話を伺った洛和会音羽リハビリテーション病院の職員
(左)洛和会音羽リハビリテーション病院 看護部 2A病棟 主任 大橋 由基(おおはし ゆうき)
(右)洛和会音羽リハビリテーション病院 看護部 2B病棟 主任 認知症看護認定看護師 古久保 侑実子(ふるくぼ ゆみこ)
お二人とも、奏でるチームのメンバーです。
認知症の種類と症状
認知症を起こす代表的な病気には、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症があり、これらを4大認知症といいます。
アルツハイマー型認知症 | 認知症の中で最も多く、脳神経が変性して脳の一部が萎縮していく過程でおきます。脳内にアミロイドβというタンパク質が蓄積して、それが神経細胞の変性に関係するという仮説(アミロイド仮説)が有力と考えられています。 |
血管性認知症 | アルツハイマー型に次いで多いのが脳梗塞や脳出血、脳動脈硬化などによって、一部の神経細胞に栄養や酸素が行き渡らなくなり、脳血管障害を起こします。 |
レビー小体型認知症 | レビー小体という構造物が神経細胞にたまって、幻視・幻覚、妄想や手足が震え、歩幅が小刻みになって転びやすくなる歩行障害が生じることが特徴です。 |
前頭側頭型認知症 | 前頭葉や側頭葉が萎縮することで血流が悪くなり、その部分の機能が低下して人格の変化や非常識な行動をするなどの症状が起こります。 |
一方、全体の1割以下ですが、認知症の中には治療効果が期待できる病気があります。甲状腺機能低下症、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、ビタミン欠乏症がこれにあたります。これらの多くは、早期発見できれば、治療が可能です。
<脳の構造>
当院における認知症への取り組み
洛和会音羽リハビリテーション病院では、入院患者さんには認知症ケアチームである「奏でるチーム」が認知症患者さんのケアにあたり、さらに「眠りSCAN」や「顔認証システム」を導入したことで、入院時の安心・安全を確保しています。
また、メモリークリニック(物忘れ外来)や「認知症電話相談窓口」や京都市委託事業の「認知症初期集中支援事業」など、地域にお住まいの方にも認知症の検査・治療・相談に深く関わってきました。
入院患者さんを見守る「奏でるチーム」
認知症の人は、環境の変化や対応の仕方で行動・心理症状が見られることもあります。そんな時こそ患者さんに対して、「多職種でいろいろな音色(アイデア)を奏でたい」という思いから、看護師・管理栄養士・薬剤師・リハビリセラピスト・医療ソーシャルワーカー(MSW)・公認心理士・音楽療法士で構成された「奏でるチーム」が誕生しました。
対象となる患者さんの症状はさまざまです。急性期病院からリハビリのために転院し、せん妄を発症して、認知機能の低下を起こしている方、今までは在宅で生活できていたが生きづらさがある人、他の人が短期記憶障害であるのではないかと気付き、家族や住民からご相談があった方…。自分が認知症であることを理解していない患者さんも多く、適切な治療やリハビリを実現するためには、多職種が関わる必要があります。
奏でるチームでは、患者さん・周囲の方に寄り添い、人の尊厳を守り続けるために、それぞれの症状に合った質の高い認知症ケアを提供するために医療従事者間でカンファレンスを行います。その得られた情報を元に支援が必要な患者さんを訪れるなど、週2回活動しています。
ご自宅でお困りの方に「認知症電話相談窓口」
当院では、認知症の専門医・指導医が診療するメモリークリニック(物忘れ外来)を開設しています。そのほか、専門的な知識を持った看護師(認知症看護認定看護師)が患者さんやご家族からの療養生活上の相談をお伺いする認知症電話相談窓口を設けています。相談にかかる料金は無料です。自宅で暮らし続けるにはどう対処すれば良いのか、認知症の方やその家族の支援内容はどのようなものがあるのかなど、なんでもお気軽にご相談いただければと思います。対象は軽度認知障害(MCI)や認知症の診断を受けた方とそのご家族、認知症が疑われる方とそのご家族、地域で暮らす方です。お気軽にご相談ください。また、京都市からの委託事業で認知症初期集中支援チームとも連携し、認知症の医療機関や対応する介護サービスとつなげ、ご本人やご家族と一緒に在宅生活を続けるための支援を行っています。
大切な眠りを確保する「眠りSCAN」
認知症の方は睡眠障害が出やすい傾向があります。日ごろの排泄ケア、つまり夜間のトイレ誘導や深夜のおむつ交換が睡眠の妨げになっていないかを考える必要があります。当院ではベッドマットの下に敷いて、呼吸数や心拍、睡眠状況などを計測するパラマウントベッド社製「眠りSCAN」を導入しています。患者さんの体動を検知することで、眠りから覚醒されたかどうかの把握が容易になり、そのタイミングでトイレ誘導やおむつ交換を行うことができます。ぐっすりと睡眠をとっていただくことができるのではないかと考えています。それにより日中の過ごし方や就寝前の飲み物の工夫、室温調整、薬剤調整などでも睡眠の質を高める工夫をしております。そうすることで周辺症状の抑制にもつながります。
患者さんの心を守る「顔認証システム」
病院の出入り口に「顔認証システム」を導入いたしました。このシステムによって、離棟・離院が発生した要介護者への迅速な対応が可能で、患者さんご本人の安全確保・ご家族の安心感につながります。ただし、患者さんを無理に制止することは避けるべきです。患者さんが施設外に出て行ってしまった場合、すぐにお声掛けして引き留めてしまいがちですが、どういう理由で出て行かれるのかを確認し、対応することが大切です。顔認証システムによって、行動を制限するという視点ではなく、見守る目が増えたという考え方で取り組むことで、心に余裕ができ、患者さんに寄り添ったより良いケアへとつながります。
仮に認知症と診断されても…
日本は超高齢社会になり、山科区周辺でも高齢の方が多くなりました。患者さんには、自分たち自身で生活をするためにさまざまなサポートを受けながら、住み慣れた地域で暮らしてもらうことが大切です。当院では外来・入院を通じて、ご本人が安心できる生活環境を整え、生活習慣を改善するなど、適切なケアを受けることができれば、病状の進行を抑え、平穏な生活を続けることが可能です。まずは当院の認知症電話相談窓口や認知症初期集中支援事業をご利用いただき、早期発見を行いましょう。
早期の認知症診察についての動画もぜひご覧ください!
認知症は早期の診察と早期の治療が肝心です。早期受診は、認知症でなかったとしても危険な兆候を発見でき、日常生活の悩みの解消に役立ちます。気になることがあれば早めに相談ください。
公開日時 : 2021年11月01日 (月)