研修指導医日記

ANCAについて

みなさん、こんにちは/こんばんは。総合内科のTです。

いきなりですが、ANCAって知ってますか?

馬鹿にしたような質問ですみません。もはや医学生でも知っている、言わずと知れた血管炎(小型血管炎)の自己抗体です。

1994年にChapelHillで開かれた国際会議で、これまで結節性多発動脈炎(periarteritisnodosa:PAN)と診断されていた患者さんのうち、中型の筋性動脈に限局した壊死性血管炎のみがPANと定義され、小血管(毛細血管、細小動・静脈)を主体とした壊死性血管炎は別の疾患群として区別されました。後者が、血管壁への免疫複合体沈着がほとんどみられないことと抗好中球細胞質抗体(antineutrophilcytoplasmicantibody:ANCA)陽性率が高いことを特徴としたANCA関連血管炎症候群(AAV;ANCA-associatedvasculitis)と称されることとなりました。

小血管炎(SVV;smallvesselvasculitis)には「ANCA関連」以外に「免疫複合体性」がありますが、ANCA関連は上記したように免疫複合体の沈着をほとんど認めない(微量免疫(pauci-immune))壊死性血管炎です。

ANCAは、1982年にオーストラリアのDaiviesらが腎炎と多発関節痛を有する症例から蛍光抗体間接法(indirectimmunofluorescenceassay:IIF)を用いて発見したヒト好中球細胞質に特異的なIgG型自己抗体です。蛍光染色パターンが2種類あり、C-ANCAとP-ANCAといいます。Cは細胞質型(cytoplasmic)、Pは核周辺型(prrinuclear)の意で、それぞれC-ANCA、P-ANCAと称されます。1990年代に、それぞれの対応抗原が同定され、それぞれPR3-ANCA、MPO-ANCAとなっています。ELISA法で測定されます。AAVは3つあり、顕微鏡的多発血管炎(MPA;microscopicpolyangitis)、多発血管炎性肉芽腫症(GPA;Granujlomatosiswithangitis)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA;eosinophilicGranujlomatosiswithangitis)です。MPA、EGPAでMPO-ANCAで、PR3-ANCAはGPAで効率に認められますが、PR3-ANCA陽性のMPAやMPO-ANCA陽性のGPAが存在することに注意が必要です。

現在、AAVが疑われたときは、ELISA法でMPO-ANCAやPR3-ANCAをチェックします。IIF法のP-ANCAやC-ANCAをオーダーすることは、まずありません。上記の通りMPAではMPO-ANCAが高率に陽性となるとはいうものの、一般的に感度60%程度、特異度90%程度ですのでMPO-ANCA陰性のMPAが実際まあまああるわけです。ちなみに、AAVはANCA陽性が必須条件ではありません。

“ANCA陰性ANCA関連血管炎”という奇妙な(?)用語があります。臨床的にAAVなのですが、ANCAが陰性となったものです。AAVの可能性が高くANCAが陰性のときは試薬を変えて再検するとMPO-ANCAが陽性となることがありますし、またIIF法によるP-ANCAを測定する、という手もあります。ANCA陰性ANCA関連血管炎には、現在の方法では検出できないANCAのある可能性,またANCAの全く関与していないAAVが報告されています。

ところで。

このANCA、現在10種類以上あることをご存じでしょうか。
MPO、PR3以外の代表的な対応抗原に、エラスターゼ、カテプシンG、ラクトフェリン、アズロシディン、BPI、h-lamp2、HMG1/2があります。ANCA陰性ANCA関連血管炎と思われるときは、IIFでP-ANCA、C-ANCA測定してみるといいと思います。ELISA法で同定された前記した対応抗原は、IIF法でほとんどP-ANCAかC-ANCAが陽性となります。MPO-,PR3-ANCA陰性でP-,C-ANCAが陽性となったときは、これらの新しいANCAが陽性となる「その他のANCA陽性例となる血管炎(minorANCA陽性)」かもしれません。ちなみに、これらのあたらしいANCAは、AAV以外の自己免疫性疾患でも陽性となることが知られています。潰瘍性大腸炎、原発性硬化戦胆管炎、自己免疫性肝炎などで、陽性となるようです。

AAVも増えてさらにややこしくなる(?)時代がやってきそうです。

そして。今回のブログでは、AAVとかSVVとか・・・似たような略語が飛び交い、ややこしかったですね。すみません。

保険適応外の検査

みなさん、こんにちは/こんばんは。総合内科のTです。

診断をつけるのに、やれ病歴が大切だ、身体所見だ、と、このブログでも謳ってまいりました。それはこのブログの根底に常にあるものです。最終的には採血や画像診断などで確定診断がつく、stagingをするなどとなりますね。

ところが。

診断をつけるのに、成書や教科書、インターネットの専門サイトにある”正しい検査方法”ができないことがあります。

その一つが「保険適応」です。

これは検査だけでなく、治療でもそうです。いろいろ悩まされます。

人物などが特定されるといけないご時世なので、ぼやかしますが、これまでTが保険適応でなく苦しめられた?検査をいくつか挙げてみます。

1.コクシエラ・バーネッティ(Coxiella burnetti)

不明熱の原因として考えないといけないときがある感染症です。「Q熱」の原因病原体として知られます。リケッチアですが、他のリケッチアのような皮疹を呈しません。家畜・愛玩動物からの感染です。急性Q熱では、通常の不明熱の鑑別を行っていく中で、感染症のようだが抗生剤無効などで通常細菌や抗酸菌以外をチェックしていくことにより疑われます。もちろん、前記した動物との接触歴を確認しておく必要があります。疑わしくても保険適応の検査がないため検査があまりされず、本邦における感染の実数は未だ不明とされています。

検査としては、DNAのPCR、また間接抗体法ですが、保険適応がないばかりか一般検査機関での検査も限られています。

2.バルトネラ(Bartonella henselae)

いわゆる「ねこひっかき病」の原因菌です。ねこにひっかかれたことがある、またはキズがあり、そして腋窩リンパ節、頚部リンパ節腫脹している例は、比較的診断がつきやすいです。患側の滑車上リンパ節腫脹は猫ひっかき病くらいしか腫れません(鑑別として悪性リンパ腫は大切です)。

これまで、亜急性の発熱の片側頚部リンパ節・鎖骨上リンパ節腫脹を主訴にこられた中年男性など、何例か同病を疑うも典型的な病歴でなく、他疾患をrule outしていく中で相対的に疑わしさが上昇した症例があります。上記のようなわかりやすい状況ではなく、発熱と頚部の局所リンパ節腫脹の鑑別を要する状態です。女性ならば壊死性リンパ節炎を疑ったり(もちろん男性例もあるのですが、典型的には女性)しますし、中年なのでEBVよりはCMV感染症が疑われたりします。結核ももちろん疑いました。究極的には、悪性リンパ腫をrule outするところまでいくcaseも多く、リンパ節生検を耳鼻咽喉科にお願いさせていただくことも多いです。FNA(針吸引生検)で診断がつき(悪性リンパ腫でないとの診断)、リンパ節生検までいかなかった例もありますが、バルトネラの診断がたやすくつけやすかったらなあ、という経験はあります。

上記以外にもまだまだ保険適応外の検査はあります。必要であればもちろん検査をオーダーしますが、そう簡単にする、しない、と決められないcaseが多く、保険適応外でも敢えて検査するか、頭を悩まされます。

みなさんはどうでしょうか。