研修指導医日記

自己免疫性脳炎

みなさまこんにちは/こんばんは。総合内科のTです。

このところなにかと日常の診療や業務のいろいろな方向に顔を向けているうちに、前回このブログを書かせていただいたのが約2カ月であることに気づきました!こうやっていつのまにか間隔があいていくんですね・・・すみません。

さて、今日のお題は、自己免疫性脳炎(autoimmune encephalitis; AE)です。

これまでの話題でもありましたが、あまりに長文となりそうなので、要点を絞って書かせていただこうと努力します。

これまで小児科ではあまりマイナーな領域ではなかった本疾患なのですが、成人でも実は決して少なくはありません。頻度もヘルペス性辺縁系脳炎と比しても同等かもしれない、との報告もあるくらいです。

2007年に「卵巣奇形腫に関連する傍腫瘍性抗NMDAR脳炎」が報告されて以来、AEが次々と報告されてきたようです。そしてこのように「傍腫瘍性」脳炎であることが多いです。例外は橋本脳症など少数です(また橋本脳症は古くから知られているAEです)。通常神経ループスなどのこれまで知られている膠原病からの脳炎/脳症はAEの中に入れません。しかし小児で多いADEMは一応このカテゴリーに入れるようです。

AEは当科でも時々お目にかかります。ほんと、悩ましい病気です。

悩ましいのはなぜか。

まず、いの一番に、診断基準はあるにはあるが※1、漠然としている、ということです。※1はこれでも2016年に改善されたものです。※1を見ますと、AE診断アルゴリズムの表に従って進めていくと”definite”、”probable” と診断がついていくことになります。しかし、実際は、かなり幅があり、本当にAEなのかという不安が付きまとう進めとなります。ちなみに診断基準自体は、probableとdefiniteの2つがあり、difiniteにはlimbicとdiffuseの二つの基準があります。probableの診断基準をちょこっと書きますと(※2に※1の診断基準の日本語訳あり)、「1.作業記憶障害,記銘障害,意識変容,傾眠,性格変化,または精神症状が亜急性(3ヶ月以内)に進行する.」「2.少なくとも以下の一つが確認できる. 新たな局所神経症候 過去に見られたことのない痙攣発作 髄液細胞増多(5/mm3以上) 脳炎を示唆するMRI所見」「3.臨床的に他疾患の可能性を除外できる.」でして、ごらんのとおり、3.が問題となります。difiniteの診断基準※1にも「3.reasonable exclusion of alternative cause」と、やはり悩ましい除外規定があります。

 

検査も、自己抗体も保険適応外です。さらに、その抗体の感度もわからない。そもそも脳炎としても、MRIに所見として出てこないことも多く、当科での自験例ではほぼ所見を認めないことが多い傾向にあります。上記した診断基準に乗りにくいものも多いわけです。さらに、傍腫瘍性脳炎が多いと上記しましたが、腫瘍が発見されるまで1-2年経ったというものもあり、脳炎時に”傍腫瘍で無い”ことも多いのです。

これで、比較的on timeに、ほぼ自己免疫性脳炎で間違いないから進め!と自信持てるかです。もちろん、他の脳症、電解質異常・ビタミン欠乏症、結核性脳髄膜炎、クリプトコッカス脳炎・髄膜炎でない、などの除外をしっかりしてはいるのですが・・・

 

かつて某映画がじつはNMDA脳炎の患者さんがモデルであった、と言われているものもあります。症状も”なにかしらの精神病”さらには”悪魔が憑りついた”なんてものもあり、医者でなく祈祷師が治療を担当していた、なんて話もあるようです。

 

以上、自己免疫性脳炎について書かせていただきました。原因不明の脳症・脳炎症状があると、自己免疫性脳炎に向いてしまうクセは仕方ないでしょうか・・・NORSEといった別の病態もありうり、まだまだAEと診断するにあたり混沌した状態が固まってくる感じがしません。いわんや、治療をや、で治療もステロイドで効かないものもあり(橋本脳症は著効する)、サイクロホスファマイドやリツキシマブを併用、とか書かれています。

どんどん新しい病気がでてきたりわかるようになったり・・・我々医者はCME(cotinuing medical education)が必要なわけです。医者を辞めるまで勉強です。

参考文献

※1 Graus F, et al : A clinical approach to diagnosis of autoimmune encephalitis. Lancet Neurol 15 : 391―404, 2016

※2 山村隆:自己免疫脳炎・脳症の臨床、日内会誌 106:1539~1541,2017