研修指導医日記

またまたお久しぶり・・・です

みなさまこんにちは。総合内科のTです。

プライベートではブログを書いたりしていませんが、原稿依頼で文章を書いたりもしていて、決して文章を書くのは嫌いではありません。でも筆まめ、でもなさそうです。

・・・いきなり何?ってはなしですが・・・ブログが久方ぶりとなった言い訳からぶっこんでみました。

前回の作が昨年2022年5月なんですね。8か月が過ぎていました。あ、ブログ、というタイミングは何回もあったのですが、こんな軽い平易な文章ながら、やはり考えたり書く内容の裏をとったりと地味で時間のかかる準備を経て作っていますので、思いついたら、徒然なるままにささーっと書けるものでないのですね。なのでブロブ書こう、と思ったタイミングをたびたび逃してきました。言い訳終了。

では今日は??--まとまった時間の寸前にブログを書こう!と思いつけたのですね!なので、ちょっと書き損ねていた音羽病院の初期研修にまつわる報告なんかを書きたいと思います。

9名の1年目研修医の先生たちは、これまでの研修医たちと同様、すでに逞しく育っています。2年目になるとさらに加速して急に上級医となるので、彼らの成長は毎年目を見張るものがあります。

医学知識の量や研修医を取り巻く環境は私たちの研修医の時とかなり変化しており大変だなあと客観的に思っています。しかしやはりIT世代の研修医たちはこうしたこちらの見えないところでの心配をよそに邁進し続けています・・・学会で受賞したり、某医療情報業者のweb上の大会で(レ〇王)で優勝メンバーのひとりとなったり・・・音羽の研修医は底力があると思います。ありがとう!!

来年の新1年目研修医9名も決まっており、昨月病院に来られた時に会わせてもらいました。フレッシュでした。医学生が医師になる瞬間に私たちは立ち会えるのだなあ、と年寄臭い心境となっていました。(ちなみにマッチングが始まって19年ですが、19年連続フルマッチと記録更新中です!)

こんな素晴らしい研修医たちなので、私たち指導医もウカウカしていられません。そんなんで・・・ああ、次のブログを書く閑暇もなかなかないだろうなあ・・・(次回がかなり先になってもいいように予防線を張っておこう・・・)

今年度1回目の投稿ーー

皆様こんにちは。総合内科のTです。

半年ぶりです。半年の間にいろいろありましたが、昨年度はもう賞味期限として、今年度ネタを行きたいと思います。
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1.元気な1年目新研修医9名が入ってきました!
2.総合内科も2名増員
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2.は、このブログの趣旨から外れるので置いときます。

1.ですが、フレッシュな研修医が来ました!5月ですからもう1か月経ちますが、4月いっぱいは事実上いろいろな部署に研修に行ってもらったり、採血・ライン確保実習、縫合実習、ICLS参加などがありましたので、今事実上船出した、というところと思います。

自分の1年目をよく覚えています。20年+〇年前なのでいろいろと状況は違いますが、”熱い鉄”であることは同じです。1年目もちろん2年目も良い研修をさせてあげて”よい鉄”になるようにしてあげたいと切に思います。

やはり年によってカラーが違います。昨年ははからずも男性のみ9名だったこともあり、とても肉体派なカラーでした。しかし文武両道で、医療の方もしっかり頑張っている学年です。今年は女性2名がおられ、男性も若干大人しめに見えます。それぞれの学年の研修医たちにはそれぞれの夢をしっかり追いかけていってほしいと思います。

Tも今年度から洛和会音羽病院教育センターのセンター長を拝命し、また初期研修プログラムディレクターを継承しました。しっかり教育に関わっていきたいと思います。また前任ディレクターであらせられるカリスマ酒見先生のこれまでの積み上げてこられた伝統をつぶさぬように参りたいと思います。

今年度も宜しくお願い致します!

研修医ブログのほうが更新が早いのでとてもついていけませんが、カタツムリでも頑張っていこうと思います。

自己免疫性脳炎

みなさまこんにちは/こんばんは。総合内科のTです。

このところなにかと日常の診療や業務のいろいろな方向に顔を向けているうちに、前回このブログを書かせていただいたのが約2カ月であることに気づきました!こうやっていつのまにか間隔があいていくんですね・・・すみません。

さて、今日のお題は、自己免疫性脳炎(autoimmune encephalitis; AE)です。

これまでの話題でもありましたが、あまりに長文となりそうなので、要点を絞って書かせていただこうと努力します。

これまで小児科ではあまりマイナーな領域ではなかった本疾患なのですが、成人でも実は決して少なくはありません。頻度もヘルペス性辺縁系脳炎と比しても同等かもしれない、との報告もあるくらいです。

2007年に「卵巣奇形腫に関連する傍腫瘍性抗NMDAR脳炎」が報告されて以来、AEが次々と報告されてきたようです。そしてこのように「傍腫瘍性」脳炎であることが多いです。例外は橋本脳症など少数です(また橋本脳症は古くから知られているAEです)。通常神経ループスなどのこれまで知られている膠原病からの脳炎/脳症はAEの中に入れません。しかし小児で多いADEMは一応このカテゴリーに入れるようです。

AEは当科でも時々お目にかかります。ほんと、悩ましい病気です。

悩ましいのはなぜか。

まず、いの一番に、診断基準はあるにはあるが※1、漠然としている、ということです。※1はこれでも2016年に改善されたものです。※1を見ますと、AE診断アルゴリズムの表に従って進めていくと”definite”、”probable” と診断がついていくことになります。しかし、実際は、かなり幅があり、本当にAEなのかという不安が付きまとう進めとなります。ちなみに診断基準自体は、probableとdefiniteの2つがあり、difiniteにはlimbicとdiffuseの二つの基準があります。probableの診断基準をちょこっと書きますと(※2に※1の診断基準の日本語訳あり)、「1.作業記憶障害,記銘障害,意識変容,傾眠,性格変化,または精神症状が亜急性(3ヶ月以内)に進行する.」「2.少なくとも以下の一つが確認できる. 新たな局所神経症候 過去に見られたことのない痙攣発作 髄液細胞増多(5/mm3以上) 脳炎を示唆するMRI所見」「3.臨床的に他疾患の可能性を除外できる.」でして、ごらんのとおり、3.が問題となります。difiniteの診断基準※1にも「3.reasonable exclusion of alternative cause」と、やはり悩ましい除外規定があります。

 

検査も、自己抗体も保険適応外です。さらに、その抗体の感度もわからない。そもそも脳炎としても、MRIに所見として出てこないことも多く、当科での自験例ではほぼ所見を認めないことが多い傾向にあります。上記した診断基準に乗りにくいものも多いわけです。さらに、傍腫瘍性脳炎が多いと上記しましたが、腫瘍が発見されるまで1-2年経ったというものもあり、脳炎時に”傍腫瘍で無い”ことも多いのです。

これで、比較的on timeに、ほぼ自己免疫性脳炎で間違いないから進め!と自信持てるかです。もちろん、他の脳症、電解質異常・ビタミン欠乏症、結核性脳髄膜炎、クリプトコッカス脳炎・髄膜炎でない、などの除外をしっかりしてはいるのですが・・・

 

かつて某映画がじつはNMDA脳炎の患者さんがモデルであった、と言われているものもあります。症状も”なにかしらの精神病”さらには”悪魔が憑りついた”なんてものもあり、医者でなく祈祷師が治療を担当していた、なんて話もあるようです。

 

以上、自己免疫性脳炎について書かせていただきました。原因不明の脳症・脳炎症状があると、自己免疫性脳炎に向いてしまうクセは仕方ないでしょうか・・・NORSEといった別の病態もありうり、まだまだAEと診断するにあたり混沌した状態が固まってくる感じがしません。いわんや、治療をや、で治療もステロイドで効かないものもあり(橋本脳症は著効する)、サイクロホスファマイドやリツキシマブを併用、とか書かれています。

どんどん新しい病気がでてきたりわかるようになったり・・・我々医者はCME(cotinuing medical education)が必要なわけです。医者を辞めるまで勉強です。

参考文献

※1 Graus F, et al : A clinical approach to diagnosis of autoimmune encephalitis. Lancet Neurol 15 : 391―404, 2016

※2 山村隆:自己免疫脳炎・脳症の臨床、日内会誌 106:1539~1541,2017

シャーロックホームズ

みなさん、こんにちは/こんばんは、Tです。

おそらく標題を見て「医療とシャーロックホームズの関係はあるの?」と思われた方は、実は少ないか・・・と思います(変な書き方ですが・・・)。

シャーロックホームズと診察・・・これは、これまでたくさんの総合診療医の先生方がネット上でも意見を展開されてきています。私も昔からひとつのテーマとしてきていました。また何回か、このテーマでの講演なども依頼されしてきた経緯があります。最近もありました。

病歴を丁寧に聴取し医療面接を行い、それに基づき身体診察をする。そしてプロブレムを挙げてそれに対してアセスメントとプランを立てる。いまさらこんなに書き綴るまでもない当たり前の診療のプロセスですが、ここにちょこっと一コマ入れていただきたいのであります。

実は一コマ、というほどではないのです・・・上記したシャーロックホームズとは・・・身体所見の一部なんです。こちらから診察して所見を取りにいくまでもなく、”患者さんが勝手に出しているサイン”を見つける身体所見なんです。つまり気が付くかどうか、です。原則こちらが触って叩いて聞いて、をしない身体所見ですね。しれっとでているのを察知できるかどうかカギとなります。バイタルサインも患者さんがしれっと出しているものですが、これは血圧計など器具を用いてこちらから手を加えないとわからない所見なので、この部類には入れません。

(外傷診療のprimary survey(PS)では器具を用いずバイタルサインをみますが、橈骨動脈を触れる・皮膚の湿潤を確認する、などの”手を加えて”所見を取ってますから、これもシャーロックホームズには入れません。)

例えばストレッチャーの上で座り続ける。看護師さんに横になるように促されてもすぐ座位になる・・・などがこれで、しれっと態度で示しています。これは起坐呼吸の可能性があります。もちろん、同時に呼吸状態が不安定で頻呼吸であったり呼気延長があったりしますので、実際はすぐに起坐呼吸であると気がつくことでしょう。(これらもまた患者さんがしれっとだしているシャーロックホームズ的なサインですね。)

ERで初めてみたCOPD患者さんの指がばち指・・・知らないとCOPDなのだからばち指があって当たり前、なんて考えてスルーしてしまうことでしょう(そもそも指をみないかもしれませんが)。COPD単独でばち指にはなりませんので、間質性肺炎や肝硬変症もある、またむかしからある(先天性でない)なら、肺癌を疑うべきです。見逃すと先々こわいことになります。

病歴にも、”シャーロックホームズ”はあります。

中年男性が;

「朝起きた時から手足が動かず這ってトイレに行った。少し様子見てたが全くよくならないので、携帯で救急車を呼んだ。こんなことは初めて。これ関係あるかな?昨日夜に久しぶりに時間ができたからずっと行きたかったジムで20km走って、その後家でがっつり暴飲暴食したんだけど・・・」

・・・なーんて言ってたら、知っていればそのまま患者が病気を語っているわけです。周期性四肢麻痺の可能性ですね。教科書的に低カリウム性周期性四肢麻痺の病歴にでてきます。東洋人の中年男性なので思わず「未治療の甲状腺機能亢進症はありませんか?治療中断していませんか?」なんて聞きたくなります。

まさに、

“Listen to your patient, he/she is telling you the diagnosis.”    ~ William Osler ~

ですね。

p.s. 連載を開始しました「研修医のためのレクチャー」で、今回シャーロックホームズをテーマにお送りしております。タイアップですね(笑)

ANCAについて

みなさん、こんにちは/こんばんは。総合内科のTです。

いきなりですが、ANCAって知ってますか?

馬鹿にしたような質問ですみません。もはや医学生でも知っている、言わずと知れた血管炎(小型血管炎)の自己抗体です。

1994年にChapelHillで開かれた国際会議で、これまで結節性多発動脈炎(periarteritisnodosa:PAN)と診断されていた患者さんのうち、中型の筋性動脈に限局した壊死性血管炎のみがPANと定義され、小血管(毛細血管、細小動・静脈)を主体とした壊死性血管炎は別の疾患群として区別されました。後者が、血管壁への免疫複合体沈着がほとんどみられないことと抗好中球細胞質抗体(antineutrophilcytoplasmicantibody:ANCA)陽性率が高いことを特徴としたANCA関連血管炎症候群(AAV;ANCA-associatedvasculitis)と称されることとなりました。

小血管炎(SVV;smallvesselvasculitis)には「ANCA関連」以外に「免疫複合体性」がありますが、ANCA関連は上記したように免疫複合体の沈着をほとんど認めない(微量免疫(pauci-immune))壊死性血管炎です。

ANCAは、1982年にオーストラリアのDaiviesらが腎炎と多発関節痛を有する症例から蛍光抗体間接法(indirectimmunofluorescenceassay:IIF)を用いて発見したヒト好中球細胞質に特異的なIgG型自己抗体です。蛍光染色パターンが2種類あり、C-ANCAとP-ANCAといいます。Cは細胞質型(cytoplasmic)、Pは核周辺型(prrinuclear)の意で、それぞれC-ANCA、P-ANCAと称されます。1990年代に、それぞれの対応抗原が同定され、それぞれPR3-ANCA、MPO-ANCAとなっています。ELISA法で測定されます。AAVは3つあり、顕微鏡的多発血管炎(MPA;microscopicpolyangitis)、多発血管炎性肉芽腫症(GPA;Granujlomatosiswithangitis)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA;eosinophilicGranujlomatosiswithangitis)です。MPA、EGPAでMPO-ANCAで、PR3-ANCAはGPAで効率に認められますが、PR3-ANCA陽性のMPAやMPO-ANCA陽性のGPAが存在することに注意が必要です。

現在、AAVが疑われたときは、ELISA法でMPO-ANCAやPR3-ANCAをチェックします。IIF法のP-ANCAやC-ANCAをオーダーすることは、まずありません。上記の通りMPAではMPO-ANCAが高率に陽性となるとはいうものの、一般的に感度60%程度、特異度90%程度ですのでMPO-ANCA陰性のMPAが実際まあまああるわけです。ちなみに、AAVはANCA陽性が必須条件ではありません。

“ANCA陰性ANCA関連血管炎”という奇妙な(?)用語があります。臨床的にAAVなのですが、ANCAが陰性となったものです。AAVの可能性が高くANCAが陰性のときは試薬を変えて再検するとMPO-ANCAが陽性となることがありますし、またIIF法によるP-ANCAを測定する、という手もあります。ANCA陰性ANCA関連血管炎には、現在の方法では検出できないANCAのある可能性,またANCAの全く関与していないAAVが報告されています。

ところで。

このANCA、現在10種類以上あることをご存じでしょうか。
MPO、PR3以外の代表的な対応抗原に、エラスターゼ、カテプシンG、ラクトフェリン、アズロシディン、BPI、h-lamp2、HMG1/2があります。ANCA陰性ANCA関連血管炎と思われるときは、IIFでP-ANCA、C-ANCA測定してみるといいと思います。ELISA法で同定された前記した対応抗原は、IIF法でほとんどP-ANCAかC-ANCAが陽性となります。MPO-,PR3-ANCA陰性でP-,C-ANCAが陽性となったときは、これらの新しいANCAが陽性となる「その他のANCA陽性例となる血管炎(minorANCA陽性)」かもしれません。ちなみに、これらのあたらしいANCAは、AAV以外の自己免疫性疾患でも陽性となることが知られています。潰瘍性大腸炎、原発性硬化戦胆管炎、自己免疫性肝炎などで、陽性となるようです。

AAVも増えてさらにややこしくなる(?)時代がやってきそうです。

そして。今回のブログでは、AAVとかSVVとか・・・似たような略語が飛び交い、ややこしかったですね。すみません。