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音楽療法 ~音楽で健康生活始めませんか?~

投稿日:2017年1月18日 更新日:


はじめに

本日は、健康ってどんな状態をいうのだろう、という問いをきっかけに、音楽や音楽療法が健康な生活にどう役立つかをお話しします。

健康であるって、どういう状態

※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。

WHO(世界保健機関)では、健康の定義を「健康とは、完全に身体的・精神的・社会的に良好な状態であり、単に病気や虚弱でないということではない」と定めています。病気でない状態だけでは、健康といえないことに注意を促しているわけです。図解すると以下のようになります。


このように、体と心・精神(メンタル)・社会的状況の三つのバランスが取れている状態が「健康」です。健康に過ごすためには、それぞれどんなことが必要か(ニーズがあるか)を、さらに詳しく説明します。
  • 身体的ニーズ:身体機能の向上と維持、筋肉の緊張緩和、痛みの緩和、質の良い睡眠、食生活の改善、脳の活性化。
  • 心理的・精神的ニーズ:感情表現の促進、ストレスの緩和、安心感の向上、人生の意味や目的、生きがい。
  • 社会的ニーズ:社会的交わり/コミュニケーションの機会、孤独の感覚や孤立の状況を減少、自己表現の機会。

これらのニーズを満たすためには、全人的な考え方やサポートが重要です。

音楽療法はなぜ効果的なの

音楽療法とは…日本音楽療法学会は、以下のように定義しています。

WHOの健康の定義に似ている部分がありますね。以下、各項目ごとに説明します。

音楽のもつ生理的働き

脳への働き:音楽情報は、脳のあらゆる領域で処理され、脳の活性化に役立ちます。

音楽を聴いたり演奏すると、脳の聴覚皮質(音を聞く領域)を刺激するのをはじめ、感覚皮質(楽器に触れることで)、運動皮質(踊ったり、楽器演奏する)、前頭前皮質(次の展開を予測する)、小脳(運動制御と感情反応)、視覚皮質(楽器や動きを見る)、脳梁(左右の脳の調整)、海馬(短期記憶)、大脳皮質(長期記憶)、前頭葉(記憶の呼び覚まし)、側坐核(そくざかく)や扁桃(へんとう)体(感情を司る)など、脳の各領域が刺激されます。単なる音や言葉は、脳のごく一部でしか処理されません。

  • エントレインメント:同調作用とも訳されます。音楽のリズム(外部リズム)に、体内リズムが自然に同調することで、身体機能に影響を与えます。
  • 身体的痛みの緩和:脳の中にあるエンドルフィンやドーパミンといった物質の分泌を刺激し、楽しい気分にしたり、痛みを和らげる効果を発揮します。

音楽のもつ心理的働き

  • リラクゼーション効果:コルチゾール(ストレスホルモン)の低下や、睡眠導入への効果があります。
  • 投影:感情を映し出す。過去の体験と歌詞が重なって気持ちを代弁し、過去を見つめ直すことで、自己実現や成長につながります。
  • 同質の原理:音楽を心身の状態に同調させ、徐々に音楽に変化を与えることで、適応させながら心身の状態に変化を与えていく。例えば、多動性のある子どもが動き回っている場合、最初はテンポの速い曲で動きに合わせ、徐々にテンポを落としていくと、子どももそれに合わせて静かになっていきます。

音楽のもつ社会的働き

音楽は言葉の通じない外国の人とも通じる非言語的コミュニケーションです。また、音楽を作ったり、歌ったり、演奏することで他者と関わり、自尊心の向上や表現力の促進に役立てることもできます。

音楽療法とは

音楽療法学会の定義にもあるように、音楽療法とは音楽を「意図的、計画的に使用すること」です。音楽療法士が対象の人に応じて音楽を意図的、計画的に用いるのが音楽療法です。

アセスメント→臨床目標設定…と順に再評価まで行うのが、音楽療法の流れです。

音楽療法の実際(臨床法)

具体的な音楽療法には、音楽への動作や、リラクゼーション、作詞作曲、歌詞分析、即興演奏、楽器演奏、鑑賞/歌唱、などの臨床法があります。

  • 音楽への動作:エントレインメント(音楽に合わせて身体機能への同調を促す)、歩行や運動への刺激や補助(例えば、音楽を使ってパーキンソンの患者さまの歩行をスムーズにする)、食事のとり方(ゆったりした曲を流すと咀嚼(そしゃく)もゆっくりできる)…など。
  • リラクゼーション:1分間に60-80回のテンポで、音の高低差の少ない単調な音楽で歌詞のないものを聞かせると、リラックス効果がある。
  • 作詞作曲:自己表現/感情表現の促進や自主性/自立性の向上に役立つ。
  • 歌詞分析:歌詞について話し合う。自分の体験が歌詞に重なる。歌を聴きながら音楽療法士と共に歌詞を分析してみることで、気付きなどが得られる。
  • 即興演奏:非言語的表現による自己表現/感情表現の向上や、コミュニケーションの促進。
  • 楽器演奏:腕や指を動かし、体を使うことで、運動機能を高める。
  • 鑑賞・歌唱:好みの音楽や思い入れのある歌を、聴いたり歌うことで、回想を促したり、コミュニケーション、感情表現、自己決定力の向上と維持に役立ちます。

洛和会京都音楽療法研究センター


現在、6人の音楽療法士が在籍しています。事務所のある洛和会音羽リハビリテーション病院で、患者さまのリハビリ訓練に音楽療法を施したり、洛和会ヘルスケアシステムに属する病院や介護施設、教育関連施設などで、音楽を用いたさまざまな活動を行っています。

質疑応答から

認知症の方には、音楽療法が有効ですか。
洛和会音羽病院の認知症病棟でも音楽療法を行っていますが、感覚を刺激することで、効果を上げています。認知症の方は記憶の殻が硬い印象がありますが、音楽がその殻をあけ、記憶をよみがえらせる様子は、びっくりするほどです。

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