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医療 洛和会丸太町病院

認知症、どこで診てもらう?

~地域で支える認知症ケア~

  • 2020年2月20日
  • 洛和会ヘルスケアシステム
    70周年記念講演・ディスカッション

投稿日:2020年2月20日 更新日:

2月20日は、洛和会ヘルスケアシステムの70周年記念講演として、杉本医院(京都市中京区)の医師 杉本英造院長が「地域で支える認知症ケア 多職種連携の重要性 ~開業医の視点から~」と題して講演。続いて洛和会丸太町病院 救急・総合診療科 医長 吉川聡司が「洛和会丸太町病院での認知症診療」と題して講演した後、議論を交わしました。

講演「地域で支える認知症ケア 多職種連携の重要性 ~開業医の視点から~」

講師:杉本医院 杉本英造院長

はじめに(増える認知症患者)

現在、介護を要する認知症の方は、85歳以上の4分の1を占め、500万人にのぼっています。予備軍を含めると800万人になります。認知症の高齢者は、火の不始末によるボヤ騒ぎ、高速道路を歩く人・逆走する人、店で無銭飲食したり、何度も同じ物を買ったりする人、徒歩やタクシーで遠くまで徘徊する人、あるいは「知らない人が家にいる」「金を盗られた」などの幻視・妄想を訴える人など、地域で暮らし続けるにあたりさまざまな課題を抱えています。

高齢者の増加に伴い、認知症も増え続けています。しかし、外来診療だけでは患者さんの背景や家族の悩みを十分把握できません。

私たち開業医の強みは、重度の認知症患者さんや通院拒否する患者さんも自宅や施設で暮らし続けられるように支えることが可能な点です。しかし、医療だけでは行き詰まることも多く、介護やその他福祉など多職種との連携が欠かせません。

当院の患者さんの状況

まず私が院長を務める杉本医院の患者さんの状況を紹介します。外来の認知症患者さんは約100人で、うち妄想や幻想などBPSD(※)(行動・心理症状)で介護困難な患者さんは15人です。訪問診療している患者さんは40人です。これ以上は対応できないため、40人を上限としています。患者さんの年齢は68歳~102歳で、2人を除いてすべて女性です。

訪問看護の介入を指示している患者さんは32人で、うち23人が認知症です。17カ所の訪問看護ステーションと連携しています。訪問薬剤管理指導をしているのは17人で、うち15人が認知症です。5カ所の薬局と連携しています。

※BPSD…Behavioral and Psychological Symptoms of Dementiaの略。脳機能の低下を直接示す「中核症状」に伴って現れる、行動・精神面の症状。暴力、徘徊、不潔行為などが挙げられる。

どういう所に訪問診療?

当院が訪問診療しているご家族の構成ですが、独居が12人で、うち認知症の方が8人、2人暮らしの方が12人で、うち夫婦が4人ですが、最近、増えているのが親子2人の家庭で8人います。中でも親と息子さんの家庭が多いです。認知症の患者さんがそのうち7人です。

※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。

こういう親子2人の家庭が増えているのは、厚生労働省による65歳以上の人がいる世帯の調査で分かります。夫婦2人の世帯が32%を占めていますが、親と未婚の子どもだけの世帯の増加が目立ち、2018年は20%になっています。三世代所帯はこの30年間で45%から10%に減少しています。

その背景の一つが生涯未婚率の上昇です。2015年には男性23%、女性14%にのぼっています。高齢者の介護の環境が大きく変わっていることを示しています。

薬の飲み残し

認知症治療で大きな問題になっているのが、内服薬の飲み忘れや飲み過ぎ、紛失です。飲み忘れの薬は年間約500億円にのぼります。抗がん剤を含めると1千億円とも言われています。訪問診療に行くと、患者さんがどっさり飲み忘れの薬を持っていて驚くことがあります。飲み忘れは問題ですが、飲み過ぎも大きな問題を引き起こします。

訪問診療の強み

薬の飲み残しの問題は外来の医師だけでは解決できません。多職種での対応が必要です。ご家族が同居されている方はご家族のサポートがありますが、認知症のご夫婦や高齢者のみの世帯の場合は頼れません。訪問看護を使っている人は訪問看護師に、ヘルパーの家事援助中の場合はヘルパーやケアマネジャーと連携し、お任せすることになります。独居の認知症の方で頼る人がいないときは、薬剤師と連携します。認知症の患者さんの治療は、家族状況や患者さんの状態を把握しておくと、BPSDや急性期疾患に早期から対処できます。また、ご家族や介護者の窮状も察知して支援することができます。

急性疾患時の病院との連携

当院ではこの1年間に洛和会丸太町病院に60人入院したのをはじめ、多くの患者さんが近隣の病院に入院していますが、そのうち3分の1が認知症の患者さんです。年間に何度も入院を繰り返すのが特徴です。尿路感染症や肺炎、大腿骨頸部骨折、脱水症などが入院する主な疾患で、患者さんが救急外来を利用した件数は入院件数の倍以上あると思われます。

大切な多職種連携

認知症の患者さんに対応する場合、医療と介護の両輪が上手く回ることが大切です。個別のサービス担当者会議や退院前カンファレンスに参加し、連携することが重要です。その際の司令塔になるのがケアマネジャーです。

多職種との連携のために、医師が行うことはたくさんあります。介護サービスが受けられるように、介護保険主治医意見書、健康診断書などを作成します。また、訪問看護師や薬剤師に身体管理・内服管理をしてもらうためには、訪問看護指示書や訪問薬剤管理指導依頼書、情報提供書の作成が必要です。ADL低下を防ぐためには、訪問リハビリ指示書などを出します。

また、財産を管理し、詐欺に遭わないように、成人後見人制度利用のための家庭裁判所への書類も作成します。

中京区認知症連携の会

中京区では、チーム医療・介護を構築するため、医師会や歯科医師会、薬剤師会、地域包括支援センター、保健センターなどが集まって「中京区認知症連携の会」を作っています。

その会が認知症に対する理解を広める「認知症フォーラム」や「認知症サポーター養成講座」「オレンジカフェ中京」を開き、認知症の方が住み慣れた地域で暮らし続けられる街づくりを目指して、地域住民やさまざまな組織と連携を図っています。

認知症初期集中支援チーム

また認知症の人やご家族の支援に早期に関わる「認知症初期集中支援チーム」が各行政区や市町村ごとに設けられています。かかりつけ医や地域包括支援センター、民生委員などが加わって支援し、情報収集や訪問を行った後、サポート医師も加わってチーム員会議を開き、医療・介護のサービスにつなぎます。

かかりつけ医ともの忘れ相談医・サポート医・専門病院、それとケアマネジャーやヘルパーが、それぞれの力を合わせて患者さんや家族を支えるという構造です。

地域ケア会議

それぞれの地域には、高齢者に対する支援を充実させることを目的に「地域ケア会議」が設けられています。中京区の地域ケア会議は、学区ごとや個別ケースの、京都市の各地域ケア会議と連携しながら、みんなで認知症について勉強し地域で起きていることに対応するようにしています。

昨年8月に開かれた中京区の第1回の地域ケア会議では、今、注目されている「8050問題」についても語り合いました。8050問題とは80歳の親と50歳の未婚の子どもが同居する世帯が増加している問題です。そういったことも勉強しています。

BPSD(行動・心理症状)の相談を受けたら

介護する人に対して抵抗したり、暴力を振るったり暴言を吐くなど、認知症に伴うBPSD(行動・心理症状)の相談を受けることがあります。

その場合は、内服薬がBPSDを悪化させていないか、使用している認知症薬を2分の1に減らすことができないかなど内服薬をチェックします。また、アルツハイマー型認知症として治療されていることがほとんどなので、他の認知症ではないのか、鑑別する必要もあります。

破壊活動や反社会行動が顕著な場合は、精神科への入院をためらいません。

人生100年時代

人生100年時代といわれています。教育25年→勤労40年→引退後40年。これからは引退後40年をどうして生きるか、80歳まで健康を維持し働き続ける時代に変わります。

人口ピラミッドを見ると、2025年になると75歳以上の高齢者が爆発的に増えます。団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる「2025年問題」です。2050年には高齢者がさらに増え、逆ピラミッド状態になります。

そういう時代には、関西学院大学のスクールモットーである「Mastery for Service」(奉仕のための練達)という精神が必要になると思います。今生きている社会・人々に対して奉仕や貢献ができる知識と人間性を磨いていただく。○○ファーストではなく、お互いさまの気持ちを持って、高齢者の生き方を支える医療が求められているのだと思います。

講演「洛和会丸太町病院での認知症診療」

講師:洛和会丸太町病院 救急・総合診療科 医長 医師 吉川聡司

認知症の診断はまずかかりつけ医に

皆さん「かかりつけ医」をお持ちですか。何でも相談できる、かかりつけ医を必ずお持ちください。

認知症はアルツハイマー型認知症が約50%を占め、レビー小体型が約20%、脳血管性が15%です。さまざまな種類の認知症があり、診断で重要なのは症状を見極めることです。MRI撮影をして脳の萎縮が分かっても、認知症は診断できません。認知症は症状で診断します。認知症の恐れがあると思ったら、まずかかりつけ医に行ってください。

また、病院に入院すると、普段と違う環境に置かれてせん妄(意識障害)など認知機能に障害がでます。ですから可能な限り、在宅で診療するのが大切です。

入院すると弱ります

病気のせいでもありますが、高齢者は入院すると約35%が弱り、ADL(日常生活動作)が低下します。そして、高齢であるほど落ちたADLは戻りません。ADLが落ちてせん妄も起きます。

入院中に認知症の障害が起きることもあります。そういう意味でも、外来で診た方がいいです。昔は入院でしか治療できなかった病気も、今は在宅診療で診られるようになっています。また、認知症は今の医学では完全に治癒することがありません。何かあったときに自宅に駆け付けるのは、かかりつけ医の先生方にしかできません。医療機関の役割分担が大切になっています。

欧米では自宅入院という考え方も

欧米では今、自宅入院という考え方が出てきています。ITを使い遠隔で毎日、診察し患者の状態を把握した上で看護師が日に2回訪問します。24時間の相談や、電話、ビデオ電話も活用できます。今は自宅でレントゲン写真を撮ることも、採血することもできるようになっています。米国では、入院と同じようなことを外来でやっています。

ディスカッション

杉本医院 杉本英造院長(以下 杉本院長)
認知症にはいろいろな種類があるのに、「認知症=アルツハイマー型」というイメージが強すぎますね。糖尿病など内科疾患が絡んでいるものもあります。最初に判断を誤り、アルツハイマー以外の方がアルツハイマーの薬を飲むと逆効果になることがあります。また1回は病院でCTやMRIを撮っていただきたいですね。正常圧水頭症や脳の硬膜下血腫で認知機能が低下するというケースもありますから。認知症の症状かもと感じた方は、まずかかりつけ医に相談してほしいですね。

洛和会丸太町病院 救急・総合診療科 医長 吉川聡司(以下 吉川医長)
薬には副作用があり、飲み合わせでも重い副作用を引き起こすことがあります。以前、5つくらいの病院にかかっていて、たくさんの薬を飲んでいた患者さんもおられました。高齢になるほど、薬の副作用が出やすくなります。認知症なのか、単に認知機能が落ちているだけなのか、分かりません。そのためには診断の見極めが必要なので、かかりつけ医を受診してください。実は認知症の方に対して私たち病院ができることは意外に少ないんです。

杉本院長
薬は大変重要です。数カ所で薬の処方を受けていると、それらの薬が効果を相殺したり、頻尿治療薬(抗コリン薬)や胃薬(H2拮抗薬)は認知症を悪化させることもあります。歯科医でもお薬手帳を持参してください。サプリメントでもビタミンB6はパーキンソン薬(レボドバ)の効果を弱めますのでマルチビタミン服用には注意が必要です。

吉川医長
お薬手帳がないと始まりません。治療を受ける際のパスポートです。薬局もかかりつけのところがいいです。薬の副作用で病気を起こしていることもあります。薬は減らせる、という目を持ってほしいですね。

杉本院長
薬の利点と共に、怖さを理解してほしいですね。ただ、認知症の患者さんにはいろいろ我慢できない人や不穏・せん妄を起こす人がいて、病院にご紹介するのが心苦しくなるときもあります。

吉川医長
認知症の方もいろいろです。相手が誰か分からない人もいる。でも認知症だから分からないと考えずに、認知症の人も理解しているのだと接しています。そうすると、徐々にコミュニケーションが取れていきます。

杉本院長
皆さんも、これから認知症の方を看護する立場になるかもしれません。参考にしてください。

質義応答

Q 認知症の治療で、かかりつけ医と病院の特徴は? それぞれ、そこでしかできないことは何でしょうか?

A 吉川医長:病院の特徴はMRIなどいろいろな検査機器を使える点だと思います。認知症は治るものではありません。治療をしながら付き合っていくものだと思います。
A 杉本院長:かかりつけ医の良さは、いろいろな多職種と連携して治療に当たれることです。


プロフィール

杉本医院
院長
杉本 英造(すぎもと えいぞう)

  • 略歴
    1981年 兵庫医科大学卒業
    1989年 京都府立医科大学大学院(生理学 医学博士)修了
  • 専門医認定・資格など
    日本神経学会専門医・指導医
    京都市中京西部医師会 在宅医療担当理事
    国立長寿医療研究センター 認知症サポート医
    京都府立医科大学 神経内科 客員講師

洛和会丸太町病院
救急・総合内科 医長
吉川 聡司(よしかわ さとし)

  • 専門領域
    放射線診断
  • 専門医認定・資格など
    日本医学放射線学会放射線診断専門医
    臨床研修指導医

洛和会丸太町病院

洛和会丸太町病院 ホームページ

〒604-8401
京都市中京区七本松通丸太町上ル
TEL:075(801)0351(代)

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