研修指導医日記

非典型的な症状のコモンな病気

皆さま、こんにちは・こんばんは。総合内科のTです。

Tだけのブログでは飽きてこられた方も多いかもしれません。そろそろ当院のポテンシャル高き指導医たちに登場いただくことを考えていますが、今回は我慢してTにお付き合いください。

今回のお題は、「日点綴的な症状のコモンな病気」です。
これまでもそうですが、実際に研修医がファーストタッチした、または関わった事例を年月や背景、年齢などをぼやかしたりして個人の特定に至らないように配慮して書いていますので、かっちり診断推論されたい方には焦点が定まらないかもしれません。

患者さんは77歳男性。

「とにかくだるい!」が主訴です。既往歴は治療によるコントロールされている高血圧と、経口血糖降下剤内服中のA1c7.5%程度の糖尿病があります。
この日の朝起きた時はなにもなく、いつも通りの生活をされていたとのことです。朝の散歩、朝食・昼食も通常通り食されました。

午後3時ごろに急にだるくなって、座るのがやっと、とのことでした。嘔気までではないが気持ち悪く、頭痛・胸痛・背部痛・腹痛はないとのことでした。発熱もありません。麻痺もなく、意識はいつも通りにほぼ保たれています。

夕方、午後7時ごろ、救急車で同居の妻とともに来院されました。バイタルは血圧170/90、脈95整、酸素飽和度92%(室内気)、体温35.6度でした。意識はほぼ清明です。

冬のことで、インフルエンザが流行しかかっていましたが、迅速検査はER受診の時点では陰性でした。先に書いてしまいますと、動脈血ガス、採血は特に優位な所見はありませんでした。身体所見は、上記バイタルサインに、thoroughにとってみましたが、頭部・胸腹部・神経学的所見に大きな問題はありませんでした。

さて、どうしましょう。なにが起こっているのでしょうか…? 当院のバイブルで、カリスマドクターの医学教育センター長S先生ならば、もっと病歴や身体所見を詰めにかかられると思います。ですが、双方向性に議論できないブログですし、このくらいで勘弁していただいて、話を進めます。

上記の所見に加え、ER到着時点で12誘導心電図もとっていたこと、血圧の左右差を見ていたことを追加記載しておきます。心電図は正常洞調律(心拍数98とやや頻脈傾向)、右心不可所見の右脚ブロックや、SⅠQⅢTⅢ、右房Pなどは認めません。血圧の左右差もありませんでした。要するに、だるい、以外の症状はほぼなく(軽い嘔気程度)、バイタル、検査所見も有意なものはありませんでした。

…………

研修医Hは言いました「先生、なんか汗かいてませんか?」
T「……!??」

これは大きな所見でした。CK、トロポニンIをとると高値でした!
病名は急性心筋梗塞でした。

典型的な胸痛はなく、心電図もほぼ正常でした。いわゆるST上昇のないものでした。
CKはER受診時の病歴と心電図で急性心筋梗塞を大きく疑わなかったので、とっていませんでした。

今ならば、全身倦怠感だけでももっと急性心筋梗塞/急性冠症候群を詰めていきますが、当時はあまあま指導医だったので、こんな感じでお粗末でした。

急性心筋梗塞の25%は典型的な像を示さないとか、急性大動脈解離は血圧左右差や痛みの移動、胸部レントゲンで縦隔拡大を認めないものを18-25%あるとか、いろいろ言いますが、これらの数字を克服するように、たとえ夜でもするのが救急と思っています。

非典型的な症状のシビアな疾患は見つけたとき、また見落としたときは一層背中がぞーっとします…。

急性虫垂炎も嘔気のみなど、ほんとは? もしかして? と思ってエコーなどして発見したときは安堵感と、ぞーっとした気分が同時に襲ってきます。

ERだけでなく、一般外来でも同様のことはありますが、この診断推論が総合診療医にとっては醍醐味でもあるわけで、その中毒性にやられて今に至っております。恐れず邁進していこうと改めて思いました。