- 開催日:2015年9月30日
- 講師:洛和会音羽病院 京都口腔健康センター 係長 歯科衛生士 詫間 朋子(たくま ともこ)
はじめに
「8020運動」を知っていますか?「80歳で20本の歯を残しましょう」という運動で、1989(平成元)年に提唱されました。20本以上の歯があれば、食生活にほぼ満足できるだけでなく、心や体の健康を守る大きな力となります。
歯を失う原因は?
統計によれば、歯を失う原因は、歯周病43%、虫歯32%、歯牙破折11%…などで、約80%虫歯と歯周病です。虫歯と歯周病の主な原因は、デンタルプラーク(歯垢)の中にいる細菌です。口腔内の細菌は約400種類以上存在するといわれています。
虫歯菌と、お口のケア
生まれたばかりの赤ちゃんの口の中は無菌です。どうしても避けられない母子感染により、虫歯菌が入り込むと考えられています。そのため、お口のケアは幼児期から始めます。また、虫歯になるのは、1日に何度も飲食をする、唾液が少ない、フッ素を使っていない、歯磨きが不十分といったことが関係しています。
<食事と間食>
口の中は普段は中性に保たれていますが、食事をすると一時的に酸性になります。酸は、歯の成分を溶かす働きがありますが、一時的に酸性になる程度なら問題ありません。ところが、間食などをだらだらして、口の中が慢性的に酸性になると、歯が溶け出して虫歯になりやすくなります。
<唾液の役割>
唾液には、口の中を清潔に保つ働き(洗浄作用)や、口の中を中性に保つ働き(緩衝作用)、酸によって溶けた歯を修復する働き(再石灰化作用)があります。また、唾液はストレスや全身疾患(糖尿病など)、薬物の副作用などによって減少することがあります。
<フッ素の利用>
フッ素は、歯から溶け出したカルシウムやリンの再沈着を促進します(再石灰化を助けます)。歯の質を強くして、酸に溶けにくくします。プラーク中の虫歯原因菌の働きを弱め、酸がつくられるのを抑制します。
歯周病の進行
※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。
歯は、顎の骨によって支えられています。健康な歯肉と歯の間には2mmほどの隙間があり、この隙間に菌が侵入すると歯肉が腫れ、隙間(歯周病ポケット)が広がってきます。これがさらに進行すると、歯を支える骨が減って、歯がぐらぐらになり、やがては抜けてしまいます。こうならないように、歯肉が腫れ出したなどの初期段階で予防することが大切です。
また、歯周病は、歯の健康だけでなく全身に影響することにも注意が必要です。重度の歯周病は糖尿病のコントロールに悪影響を与えます。歯周病菌が肺に入って誤嚥(ごえん)性肺炎を引き起こしたり、血液に入った菌により感染性心内膜炎や脳梗塞なども引き起こされる恐れがあります。重度の歯周病の妊婦の場合、早産や低体重児が生まれるリスクが高くなります。
歯周病のセルフチェック
以下の質問項目をチェックしてみてください。
- 歯を磨いたり、固いものを食べると血が出る…2点
- 歯肉が赤く、腫れた感じがする…3点
- 起床時、口の中がネバネバして不快である…1点
- 口臭があると他人から言われる…1点
- 出っ歯になったり、歯が長くなった気がする…2点
- 歯並びが悪い…1点
- 口で呼吸していることが多い…1点
- 歯ぎしりをする習慣がある…1点
- たばこをよく吸う…1点
- ストレスを感じることが多い…1点
当てはまる項目の合計は何点でしたか?
0点
…今は歯周病の心配はありません。しかし歯周病のごく初期には自覚症状が少ないので、歯科で定期的に検査を受けましょう。
1~3点
…歯周病にかかっているか、なりやすい要因をもっています。歯科で検査を受けましょう。
4~8点
…歯周病にかかっている可能性があります。できるだけ速やかに歯科を受診しましょう。
9点以上
…歯周病がかなり進行している可能性があります。必ず歯科を受診し、精査してもらいましょう。
歯周病の治療
ブラッシングと歯石除去を行います。歯石は歯ブラシでは除去できないため、歯科医院で除去してもらう必要があります。
もし歯がなくなってしまったら、見た目・発音が悪くなるだけでなく、よく噛めなくなります。すると、残っている歯が移動し、噛む力(筋力)が弱くなり、残っている歯に負担がかかって、下顎の位置が不安定になります。対処法としては、ブリッジや入れ歯があります。
歯・義歯と健康状態の調査では、歯が少なく、義歯の状態が悪い人ほど、健康を害する恐れが高まります。また、認知症になる日数も早まります。
噛むことが健康の第一歩
噛むことの効果は、8つの効果の各頭文字をとって「ひみこのはがいーぜ」と言われます。
ひ=肥満の予防
み=味覚の発達
こ=言葉の発音がはっきり
の=脳の発達
は=歯の病気を防ぐ
が=がん予防
い=胃腸の働きを促進
ぜ=全身の体力向上と全力投球
咬合(こうごう)・咀嚼(そしゃく)トレーニング
残存歯の保存と欠損部の補綴(ほてつ)、義歯の咬合の安定が重要です。
トレーニング方法は、
・1日30回以上噛む
・ガムによる咀嚼トレーニング
・健口体操
などがあります。
<健口体操「あいうべ体操」>
口唇周囲・舌筋肉を鍛える体操です。口を「あ~い~う~べ~」と、できるだけ大げさに動かします。
「あ~」…口を大きく開けて
「い~」…口を横に広げて
「う~」…口をしっかりすぼめて
「べ~」…口を開けて、舌をしっかりのばしながらつき出します
※目標1日30セット
※顎に痛みがある場合は「い~う~」のみでも良い
このほかにも、口腔周辺・唾液線のマッサージ、頬をふくらませたりすぼめたりする運動やパ・タ・カ・ラと声に出す運動などがあります。
診察室でよくあるご質問
Q 歯ブラシ選びのポイントは?
A 歯ブラシはナイロン毛の少し柔らかいものをお勧めします。ブラシ部分は2本の指の幅より小さめ。軸は直線で握りやすい太めのものを。歯ブラシは、鉛筆と同じように親指・人差し指・中指の3本ではさむように持ち、ブラッシングは力を入れずに細かく振動させます。
Q 歯間ブラシやフロスは使用したほうが良いの?
A プラークは隅や隙間にたまります。歯と歯の間や、歯と歯肉の境目、奥歯の噛み合わせ部分、歯並びの凹凸部などです。歯間ブラシやデンタルフロスは、歯ブラシだけでは取れない汚れを除去するのに有効です。
Q 入れ歯の洗浄剤は使用したほうが良い?
A 義歯を長期間使用すると、材質が劣化し、義歯表面にカビの一種である菌を主としたデンチャープラークが付着します。汚れた義歯は義歯性の口内炎を引き起こし、さらには呼吸器や消化器などへ感染する可能性があるといわれています。義歯洗浄剤や義歯用の歯ブラシを活用しましょう。
Q 電動歯ブラシの効果は?
A 電動歯ブラシに関する論文によると、手用歯ブラシと電動歯ブラシを比較した報告では「一貫した優位性がなかった」と結論づけられています。つまり、手用歯ブラシで磨けなければ、電動ブラシを使用したからといって、きれいに磨けるわけではありません。
お口を守る大切なポイント
お口は健康への入り口です。正しい歯磨きや定期的な歯科受診でお口の健康を守りましょう。
- 虫歯予防のためには
⇒ 正しい歯磨き・規則正しい食生活+フッ素の利用 - 歯周病予防のためには
⇒ 正しい歯磨き+歯科医院での定期的なケア - 歯・咬合がなくなったら
⇒ ブリッジ・義歯などの治療で咬合機能を回復する - 義歯をきれいに保つために
⇒ 義歯用歯ブラシや洗浄剤を利用する - より効果的・効率的な歯磨きをするためには
⇒ 歯間ブラシやデンタルフロスを併用する
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