- 開催日:2015年10月28日
- 講師:丸太町リハビリテーションクリニック リハビリテーション部 主席課長 理学療法士 松井 知之(まつい ともゆき)
はじめに
歳をとると、多くの人が関節の痛みをあちこちに覚えます。厚生労働省の調査では、変形性膝関節症(膝が痛い)と訴える人は約2,400万人、変形性腰椎症(腰が痛い)の人は約3,500万人もいます。こうした関節痛には筋力低下が関わっており、筋力を強めることで健康長寿にも貢献できることなどをご説明します。
筋力は落ちていく
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私たちの筋力(筋肉量)は、20歳代をピークに、加齢に伴って低下していきます。特に60歳代以降は急激に低下し、放っておくと関節痛などの心身の衰えを引き起こします。その反面、筋力はいくつになっても増強できますので、適切な運動が大切です。
平均寿命と平均余命
日本人の平均寿命(2015年7月 厚生労働省発表)は、男性が80.50歳で世界第3位、女性が86.83歳で世界第1位。世界トップの長寿国です。ただ、平均寿命は、その年に生まれた赤ちゃんが平均して何年の生涯を送るかという推計で、目の前の高齢者の寿命を推計するものではありません。ある年齢の人が、平均してあと何年生きるかは、「平均余命」という指標が用いられます。それによると、例えば現在70歳の男性の平均余命は15.49歳、女性は19.81歳で、平均寿命より男性は5年、女性は3年近く長生きすると推計されています。
健康寿命
健康寿命は、健康上の問題がない状態で自立して過ごせる期間のことです。2014年の統計で平均寿命と比べると、男性で約10歳、女性で約11歳の差があります。日本は世界トップの長寿国ですが、この差である不健康期間(何かしら不健康な生活をしていて介護が必要な年月)の長さも世界トップで、改善が求められています。
健康寿命を阻害する要因
3大因子として、メタボ、ロコモ、認知症が挙げられます。メタボ(メタボリック・シンドローム)とは、内臓に脂肪が蓄積し、高血圧や糖尿病、脂質異常(高脂血症)などの生活習慣病が発症しやすくなった状態のこと。ロコモ(ロコモティブ・シンドローム)とは、体を動かす運動器(骨や関節、神経、筋肉など)の機能が低下した状態のことを指します。いずれも要介護の原因となる恐れがありますが、メタボやロコモは、自分自身で改善できます。運動や生活習慣の改善でメタボやロコモを撃退し、健康寿命を伸ばしましょう。
ロコモチェックしよう
次のような症状が1つでもある人は、ロコモの心配があります。
- 2kg程度(1リットルの牛乳パック2個程度)の買い物をして持ち帰るのが困難である
- 家のやや重い仕事(掃除機の使用、布団の上げ下ろしなど)が困難である
- 家の中でつまずいたり滑ったりする
- 片脚立ちで靴下がはけなくなった
- 階段を上るのに手すりが必要である
- 横断歩道を青信号で渡りきれない
- 15分くらい続けて歩くことができない
ロコモ度テスト
3大ブヨブヨ撃退トレーニング
加齢に伴って、多くの人は、体の3カ所がブヨブヨしてきます。二の腕の外側(振り袖ブヨブヨ)、おなか周り(浮き輪)、太ももの内側(股の下のポニョ)の3カ所です。なぜブヨブヨが発生したかといえば、それは「日常生活で使わない」からです。ブヨブヨを撃退するには、意識してその部分を使うようにしてやればいいのです。座る・歩くといった日常生活の工夫で、ブヨブヨが撃退できます。
- 振り袖撃退の方法:ウオーキングする際、腕を意識して後ろに振る。
- 浮き輪撃退の方法:いすに座る際、少し前に重心を置き、おなかを少し引っ込めて良い姿勢を保つ。
- ポニョ撃退の方法:いすに座るとき、膝を閉じる、歩く際、足の後ろ側にも力を入れて歩く。
3大ブヨブヨの撃退は、肩痛や腰痛、膝痛の撃退につながり、メタボ・ロコモ対策やスタイル維持にも役立ちます。1日数分でも、このブヨブヨ撃退運動をすることで、関節などの痛みがなくなってきます。
おわりに
2020年には団塊世代がそろって70歳以上となり、2025年には後期高齢者となります。メタボやロコモ予防は、社会保障や財政の面でも、わが国の大きな課題です。適度な運動や食事・睡眠などで、心身を健全に保ち、いくつになっても活動性を高めて、生きがいのある生活を送りましょう。