- 開催日:2018年8月30日
- 講師:洛和会音羽病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 医師 相木 ひとみ(あいき ひとみ)
はじめに
「テレビの音が大きすぎると家族から何度も注意された」「最近、家族から耳の聞こえが悪くなったようだと言われた」「病院の受付で名前を呼ばれても気付かなかった」という覚えはありませんか。せっかく補聴器を購入したのに、人の話がよく聞こえないという悩みを抱える高齢者の方もいるかもしれません。加齢とともに、確かに耳の聞こえが悪くなるものです。そこで、本日は難聴の仕組みや補聴器を使う場合の留意点、補聴器を初めて使うときの調整やトレーニングなどについてお話ししたいと思います。
聞こえの仕組み
耳は外側から鼓膜までの外耳と、中耳、さらに蝸牛(かぎゅう)および脳神経につながる内耳に分けられます。外部から耳に入った音は、蝸牛で電気に変えられ、脳に伝えられます。聞こえづらさは、脳への音の刺激が弱い状態です。言い換えれば、耳は脳に音を伝える役割を持っていますが、実際に音を聞いているのは脳なのです。
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補聴器とメガネは違う
近視や老眼になると、皆さんはメガネをかけます。メガネの場合、かけるとすぐによく見えます。ところが、耳が悪くなって補聴器をつけても、ただ補聴器を着けただけで、音がよく聞こえることはありません。なぜでしょうか。難聴になってしまった耳は、音のない状態、音の聞こえてこない状態に慣れてしまっているのです。いわば「難聴の脳」になっているのです。補聴器は、医療的なトレーニング機器なのです。音の聞こえてこない状態に慣れてしまった「難聴の脳」に最初から十分な音量を聞かせると、とてもつらいので、段階的に音量を上げていく必要があるのです。ちょうど、義足や義手を使いこなすには、トレーニングが必要なのと同じです。音を脳に慣らしながら、音量を徐々に上げていくことが大切なトレーニングになるのです。
聞こえ脳のトレーニング
補聴器をはじめて手にしたとき、音量の調節が大事です。最初から十分に聞き取れる音量ではなく、何とか聞き取れる音量にセットします。最初から音量を上げ過ぎると、本人にはうるさ過ぎて、言葉をうまく聞き取れないものです。しかし、時間をかけて、段階的に音量を上げていき、無理なく人の話を聞けるレベルまで、音量を上げていきます。そのステップは山を登るのに似ています。一歩ずつ山を登るように、あせらずにトレーニングしていきます。補聴器に慣れ、十分な聞こえを取り戻すには、通常で2~3カ月かかることを忘れてはなりません。
周囲の理解と協力も大切です
補聴器の使用には、一緒に暮らす家族や周囲の人の理解も欠かせません。家族や周囲の人は、できるだけ普通の声で、少しゆっくり、はっきりと話し、接してください。耳元で大きな声で話すのは禁物です。大き過ぎる声で話すより、一語一語を区切るように丁寧に話してあげることが重要です。また、患者さん本人とは正面から向き合い、口元を見せるようにする配慮も必要です。トレーニングの最初の1~2週間は本人にもつらい時期です。真面目にトレーニングする人ほど成果も上がります。周囲の人の理解と協力なしにトレーニングは成り立ちません。
最初は不快感も
本人の聞こえ方も大きく変わります。聞こえることを忘れていた脳のイメージを考えると、補聴器を着けた人は、静かな森の中から、騒音だらけの騒がしい大都会に放り出されたようなものです。補聴器を初めて着ける人は、朝起きて、夜寝るまで着けていることが大切です。聞こえに合わせて、きちんと調整された補聴器を長く着けることで、難聴の脳が補聴器の音に慣れてきます。にぎわう街や喫茶店、レストランなど、違う環境の中に出掛けて、言葉を聞き取るトレーニングを重ねることも重要です。旅行や講演会、コンサートに出掛けることもよいでしょう。電話をかけることも大切です。いろいろな場所で、機会を捉えて積極的に聞き取る練習がコミュニケーション能力のアップにつながります。補聴器を初めて着ける際は、耳鼻咽喉科医と補聴器相談員がいる施設において、適切なタイミングで検査を受け、補聴器の調整(フィッティング)を行ってください。
耳鼻科で正しい検査を
補聴器選びの参考になるのが聴力検査です。聞こえの程度の検査は、耳鼻科で行いましょう。検査では、聴力検査と、言葉を聞き分けるかを調べる語音検査(言葉の検査)を行います。これらの検査で、補聴器が引き出す聞こえの力の限界が分かります。人によっては、高い音が聞こえにくい方や低い音が苦手な方、全体的に聞こえにくい人があります。年齢的に聞きづらさが増す加齢性難聴の人は、高い音ほど聞こえづらくなります。いずれにせよ、患者さんの聞こえの程度と型は、補聴器選びの参考になるだけでなく、初めて補聴器を着ける際の調整の目安になります。
かかりつけ医を持ちましょう
私が勤務する洛和会音羽病院では、受診する際は紹介が基本です。普段から聴力をフォローしているかかりつけ医で受診し、先生が補聴器の使用が適切だと判断された場合、紹介状を作成してくれます。当院では、難聴や鼻アレルギー疾患、感冒などの定期フォローは原則行っていません。ご近所のかかりつけ医は、比較的待ち時間が少なく、日々の受診ができます。同じ先生が診察しますので、普段の体調や生活習慣、家族の状況、病歴などを生涯にわたってフォローしてもらえます。体に変化があったときの早期発見につながります。住まいや職場から近いため、通院もしやすくなります。紹介状を持たずに、大きな病院で受診すると、受診時に特別料金(選定療養費)を加算されます。しかも、特別料金は健康保険が適用されず、全額自己負担になってしまいます。ぜひ、かかりつけ医を持つようにしましょう。
プロフィール
洛和会音羽病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科
相木 ひとみ(あいき ひとみ)
- 専門領域
アレルギー治療、めまい、難聴治療 - 専門医認定・資格など
日本救急学会 ICLS
日本プライマリ・ケア学会 ALSOプロバイダー
米国外科学会 PTLS
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