- 開催日:2018年9月12日
- 講師:洛和ヴィラ桃山 副係長 理学療法士
髙田 仁美(たかだ ひとみ)
講演 ~動画版~
講演 ~テキスト版~
介護に頼らず自立した老後を続け、健康寿命を延ばすためには、「①調和のとれた食事をする」「②適切な運動をする」「③十分な睡眠をとる」この健康3原則を実践することが大切です。そしてさらに、もう一つ大切なのが、適切な排泄習慣を身に付けることです。尿漏れなどの排泄トラブルを抱えていては、睡眠時間に影響を及ぼし、つい旅行など外出を控えてしまいます。本日は、特別養護老人ホームで入居者の皆さんのリハビリを行っている経験を通し、日常生活を不自由にしてしまう「排泄トラブル」を防止するための知恵や予防についてお話したいと思います。
排泄トラブルを抱えた人は
おむつメーカーのユニチャームが排泄トラブルのある人に日常生活でどのような影響が出ているかアンケートで聞いたところ、「睡眠に影響している」人が30.2%、「水分補給を控えた経験がある」は25.9%、「外出を控えた経験がある」が18.7%でした。排泄トラブルによって水分補給をためらうようになることと、食事を楽しむ意欲が低下することは明らかです。「健康3原則」の実践を阻害しているのです。
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1日の尿量の目安は
では、1日あたりの尿量の目安は、どのくらいでしょうか。1回の排尿にかかる時間は10~30秒で、尿量はコップ1杯程度です。1日の平均排尿回数は4~7回ですので、1日の総排尿量は1~2リットルになります。これはあくまで目安ですので、一応の指標として理解してください。尿のトラブルが考えられる場合は、これらの数値を参考にしてください。また、排尿の流れには「①ためる」「②我慢する」「③出す」この3つのステップがあります。一般的に排尿トラブルと言っても、この3つの段階のどこに原因があるかによって、症状が異なることも知っておいてください。
排尿機能、男女の違いは
排尿の機能は男女で異なります。尿道と尿道周りの構造を比べると、男性は膀胱(ぼうこう)から尿を出す尿道がS字状に曲がっているのに対し、女性の尿道は尿道口まで垂直で短いという特徴があります。そのため、男性の方が尿が出にくく、残尿感があります。
尿漏れのタイプを知ろう
一般に、自分の意思とは関係なく、尿が漏れてしまうことを尿失禁と呼びます。尿漏れにはさまざまなタイプがあります。自己診断チャートを用意しました。ご自分の症状を当てはめてみてください。せきやくしゃみをする、重い物を持ち上げる、笑うときなど、おなかに力が掛かる際に尿漏れがあるのは「腹圧性尿失禁」が疑われます。妊娠や出産、加齢、肥満、便秘が原因と考えられ、いずれも主に骨盤底筋の機能低下があると考えられます。骨盤底筋は坐骨や恥骨、鼻骨についている筋肉で、膀胱や子宮、直腸を下からハンモック状に支えています。便や尿意があると緩み、排泄をする働きがあります。
骨盤底筋体操をしよう
骨盤底筋を鍛えるには、体操が効果的です。手を支える机の前に立ち、図のような姿勢をとります。足は肩幅に開いてください。次に全体重を腕に乗せ、机に手をつきます。肛門や膣を意識し「締める→緩める」を繰り返すことで、骨盤底筋を鍛える簡単な体操です。肛門と膣を締めたまま、3秒間停止し、そのあと緩めます。背中はまっすぐ伸ばし、前を見ましょう。息を吐きながら「おしっこを止めるように」骨盤底筋をゆっくりと強く締めるのがポイントです。1回で5秒間行い、これを10回1セットで運動します。もう一つは、アップダウン体操です。同じく机の前に立って行います。空のペットボトルかボールを用意し、股に挟んで足の力だけで立ち上がります。5回1セットで、いずれも短時間で終わります。ぜひ、毎日続けてみてください。
切迫性尿失禁や機能性尿失禁なども
尿意を感じても、トイレまで間に合わず、尿が漏れてしまうタイプの尿漏れです。過活動膀胱など、膀胱が過敏になっているのが原因で、膀胱や尿道の炎症などが疑われます。切迫性尿失禁を防ぐには、トイレに行きたくなってもすぐに行かず、我慢する膀胱訓練が必要です。最初は5分から15分と、徐々に排尿を我慢する時間を伸ばしていきます。排尿日誌を細かくつけて、排尿時間や量、回数を記録しておくと訓練の効果が分かります。尿をいつも出せずに、膀胱内に尿がたまって、いつもちょろちょろあふれ出てしまうタイプの失禁は「いつ流性尿失禁」と呼ばれます。男性は前立腺肥大、女性は骨盤臓器脱が疑われます。原因となっているこれらの症状の治療が必要です。このほか、尿漏れには排尿機能に問題はないものの、認知症や身体の動きが悪いために、トイレまでたどり着けずに尿漏れを起こす「機能性尿疾患」もあります。排尿をもよおした際の本人の動きやサインを見逃さず、トイレに誘導する周囲の気配りが大切です。
きちんと水分補給を
日常生活では、水分をきちんととることが重要です。水分の目安は、1日にコップで5~8杯程度でしょう。水か膀胱刺激物の少ない麦茶、ほうじ茶がお勧めです。コーヒーなどより水が良いでしょう。
便秘の改善に気をつけよう
便秘も排尿に影響します。便秘により膨張した大腸が、膀胱を圧迫することがあるからです。尿がたまりきっていないのに、残尿感を感じるのは便秘が原因かもしれません。便秘の主な原因としては、運動不足のほか、食生活の乱れ、生活習慣の乱れ、心の乱れなどがあります。おなかに力が入らず、便を押し出す力が低下する猫背も便秘の原因になります。
便秘を予防する姿勢と体操
排便に適した姿勢というのがあります。写真のように、前傾60度の姿勢で便座に腰かけます。足を開き、足の裏が床に着く姿勢が最適です。こうした前かがみの姿勢によって、直腸から肛門にかかる圧力を自然と強め、排便を促します。一方、排便を解消する体操としては、腹式呼吸があります。まず、便座に座ると、おなかがへこむほど、たくさん息を吐きます。次にすぅーと息を吸い込みます。こうすると、おなかが膨らみ、腹圧が高まります。これを20回ほど繰り返します。腸の動きが良くなり、排便がスムーズになります。このほか、いすに腰かけて、体を左右にねじる体操も効果的です。この体操も1回に20回ほど繰り返すのがいいでしょう。排尿も排便も、障害を生じることで生活の質(QOL)を低下させます。排泄トラブルの改善のために、かかりつけ医や泌尿器医に相談して、自分のトラブルを知り、対策を考えましょう。
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