- 開催日:2019年3月27日
- 講師:洛和会音羽病院 脈管外科 部長
医師 武田 亮二(たけだ りょうじ)
はじめに
日本人は足の健康について、あまりにも知らなすぎるように思います。いつまでも元気に長生きするためには、食事はもちろん、正しい生活習慣や運動、そして定期的に健康診断を受けることが大事です。しかし、基本は歩くことです。本日は、歩くことに欠かせない足の健康について一緒に考えてみましょう。
高齢化と足の健康
交通事故で命を落とす人は年間約3,000人です。一方、家の中で事故死する人はこの3倍以上に当たる約1万人います。このうち5,491人はお風呂で溺れた人で、食べ物を誤って気道や肺に詰まらせる誤嚥(ごえん)では3,817人が亡くなっています。次いで多いのが、部屋での転倒や階段からの転落事故で、2,478人が死亡しています。転倒や転落による死亡事故の多くはお年寄りが足の健康を損なったのが原因と考えられ、足の健康を保つことで予防できたものといえます。
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足や靴にもっと関心を持とう
あなたはX脚ですか、O脚ですか。足に関心があれば、すぐに答えが返ってくるはずです。次に足の形です。
- 足の指が人差し指を頂点に三角形ならば「ギリシャ型」(25%)
- 人差し指より親指が長い場合は「エジプト型」(70%)
- ほぼ指の長さが同じの「スクエア型」(5%)
の3つに大きく分類されます。これも、知っている人は少ないのではないでしょうか。靴選びには必要な要素ですが、この知識の認知度の低さも足への無関心を示すかもしれません。足に靴を合わせるのではなく、靴に足を合わせる日本人が多いような気がします。足の親指が体の外側に曲がる外反母趾(ぼし)が多いのも日本人の特徴です。
靴選びのポイントは
靴を選ぶときは、ひもで結ぶタイプの方が良く、足の大きさに合わせた靴を選ぶことが最大のポイントです。日本人の大半は大きめの靴を選ぶことが多いようです。足先と土踏まず、かかとが靴で固定されるのが良い靴です。靴を選ぶ際には、足周にぴったりと合い、何よりかかとが安定することを重視してください。また、前足部が曲がりやすいことも重要です。かかと部分にはあまり余裕がないくらいが適切です。靴のかかとを踏むのは避けてください。靴全体が軽くて軟らかいのもポイントになります。
歩くと心臓が鍛えられる
歩くことは、体に良いということは皆さんよく分かっていると思います。週に60分の運動が心筋梗塞の予防になり、血圧を下げる効果もあります。また、認知症の予防にもつながります。一番重要なのは、体を動かすことで、歩くことによって自分の体調に気付きます。歩くことは、心臓を鍛えることになります。
足の病気は自分でも見分けがつく
足の病気や異変は自分でも見分けがつきます。例えば、夕方になると足がはれる、なんとなくだるい、血管が浮き出るなどの症状が出る方は、静脈瘤(りゅう)が疑われます。動くと痛い、歩くと楽になる、もしくは、歩くと足がしびれるといった場合には整形外科を受診すべきでしょう。高血圧症や糖尿病の恐れがあります。足の血管がボコボコはれる、または血管が浮き出て見えるときは下肢静脈瘤を疑ってください。また、 両足がむくむ、冷える、重い、疲れやすいときや足の裏の感覚が鈍いときには内科の病気が疑われます。
下肢静脈瘤って何?
人間の血管には心臓から全身に血液を送る動脈と、全身から心臓への帰り道である静脈があります。人は二足歩行をしているため、寝ているとき以外、足はいつも心臓の下にあるため、重力により足の血液は下から上に流れにくくなっています。そこで、静脈の中で血液を送るのに重要な働きをしているのが逆流を防止する「弁」と第二の心臓と呼ばれる、「ふくらはぎの筋肉」です。この弁がきちんと閉じなくなり、血液が逆流する病気が下肢静脈瘤なのです。静脈の弁が悪くなると、心臓へ戻る血液がいつも足にうつ滞し、静脈がコブのようにはれてきます。下肢静脈瘤には静脈の皮膚からの深さによって種類があります。足の表面近くにある静脈のうち、本幹となる血管が伏在静脈と呼ばれます。この部分に血液の逆流が起き、膨張した状態になるのが伏在静脈瘤です。このタイプの静脈瘤は手術を考えた方が良いでしょう。このほか、表皮にごく近い 血管が膨張し、網目上やクモの巣状の静脈瘤が浮き出るタイプのものがありますが、これらは美容上だけの問題であることが多いです。
どんな人にできやすいのか
では、どんな人に静脈瘤が現れやすいのでしょう。まず、家族に静脈瘤のある人にできやすいといえます。調理師など立ち仕事に従事する人にも多く、進行しやすいのが特徴です。女性に多いのも特徴で、妊娠や出産をきっかけに現れやすいともいわれています。特に2度目の妊娠で症状が出る人が多いようです。静脈瘤が進行すると、痛みや、だるさが出てきます。このような状態になると、いずれ皮膚炎がおき、潰瘍(かいよう)になってしまうことがあります。
静脈瘤にはどんな治療法があるの?
下肢静脈瘤が現れた場合、次のような治療法があります。まず、圧迫療法と呼ばれる弾性ストッキングや弾性包帯を使う方法です。弾性ストッキングにはひざ下タイプ(ハイソックス)やストッキングタイプなどがあります。足首を強く締め付け、上方にいくにつれて徐々にゆるくなっており、圧迫圧の変化で静脈の血流を押し上げる仕組みです。二番目は硬化療法と呼ばれるもので、静脈瘤に硬化剤を注射し、弾性包帯で圧迫して問題のある血管をつぶす方法です。次いで、手術療法があります。血液が逆流しないように静脈を抜き取る、または縛ってしまいます。ほかに、血管内の内側から静脈を焼いて塞ぐ手術もあります。硬化療法は網目タイプには有効ですが、太い静脈瘤には効果が薄く、手術療法と併用します。
レーザー治療のメリット
レーザー治療は、血管の中に熱を発生するファイバーという細い管を挿入し、熱で血管の壁を変性させ、閉塞させる手術です。カテーテル手術の一種で、局所麻酔での日帰り手術が可能で標準的な根治治療と同様の治療結果が得られます。術後1~2日で社会復帰できます。また、手術跡がほとんど残らないというメリットもあります。
生活上の注意点
静脈瘤のある人は、長時間じっと立ち続けることは避け、その場で足踏みをしたり、歩くことが大切です。足がだるくなったら、短時間でも横になり、足を心臓より高くして休息してください。弾性ストッキングは正しく着用しましょう。ストッキングを着けるとき、着けないときがあっては効果がありません。夜に寝るときは、クッションなどで足を高くして眠りましょう。体重を適正に保つことも大切です。
予防運動のあれこれ
足のむくみを予防するには、日頃の運動が欠かせません。最初は足首の運動です。いすに腰かけて、つま先を上に持ち上げて2~3秒その状態を保ちます。ついでつま先を床につけたまま、上がるところまでかかとを持ち上げます。これを何度か繰り返しましょう。次は、インターバル速歩というウオーキングです。ウオーキングというと一定の速度で歩きますが、インターバルの場合は、3分ごとに早歩きとゆっくり歩きを交互に繰り返します。早歩きの際は、腕を後ろに大きく振ることがポイントです。一般的なウオーキングと比較して、筋力の強化は明らかです。足首の運動と交互に全体で20~30分続けて行うのが良いでしょう。
プロフィール
洛和会音羽病院 脈管外科
部長
武田 亮二(たけだ りょうじ)
- 専門領域
消化器外科(肝臓)、内視鏡外科(消化器系一般、胃・大腸)、脈管外科(主に下肢静脈疾患) - 専門医認定・資格など
日本外科学会外科専門医
日本静脈学会評議員
京都大学医学部医学博士
臨床研修指導医
近畿外科学会評議員
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