はじめに
厚生労働省の調査によると、65歳以上の人口のうち7人に1人が認知症にかかっており、。高齢者人口に比例してさらに増加する可能性があるといわれています。今日は認知症の基礎知識と予防法やデイサービスでの認知症ケアについてお話しします。
認知症とは
まず認知症とは何でしょうか。脳細胞の死滅や活動の低下によって認知機能に障害が起き、日常生活・社会生活が困難になる状態の総称です。記憶の消失(物忘れ)だけでなく、理解力や判断力にも大きな影響を与えます。
認知症と加齢による物忘れの違いは
下の表は認知症と加齢による物忘れの違いを示した表です。よく間違われますが、はっきりとした違いがあります。
※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。
記憶は認知症の場合、体験そのものを忘れますが、物忘れでは体験の一部を忘れます。また、認知症では今何時なのかも見当がつきませんが、物忘れは見当がつきます。忘れたという自覚も認知症ではありませんが、物忘れでは自覚があります。認知症は症状が進行しますが、物忘れでは進行しません。認知症の場合は生活への影響に支障が生じるのに対し、物忘れでは大きな支障がありません。
では、認知症のクイズを行います。
次の①~⑩の事項が、老化現象か認知症の現象かお答えください。
答えを言います。合っているかどうか調べてください。
- ①認知症
- ②加齢
- ③加齢
- ④認知症
- ⑤加齢
- ⑥認知症
- ⑦加齢
- ⑧認知症
- ⑨認知症
- ⑩認知症
三大認知症
認知症には3つの種類があります。
アルツハイマー型認知症
認知症全体の半数以上を占めています。脳にアミロイドβというたんぱく質が異常にたまり、脳細胞の損傷や神経伝達物質の減少により、脳全体が萎縮して引き起こされると考えられています。
物忘れなどの記憶障害、時間や場所の認識が低下する見当識障害、計画を立てる・実行することが困難になる実行機能障害が主な症状です。萎縮する脳の部位により症状が違います。
レビー小体型認知症
アルツハイマー型認知症に次いで多く、レビー小体というたんぱく質が脳内に生じることで脳神経細胞が破壊されて発症します。
記憶障害、見当識障害、実行機能障害も含め、パーキンソン症状(手足の震え)や幻視、自律神経症状、薬剤への過敏症などが主な症状です。
脳血管性認知症
脳梗塞による脳の血管の詰まりや破れから生じる病気を脳血管障害といい、この障害により脳細胞が死滅することで発症します。
記憶障害・見当識障害のほか、脳細胞の損傷により身体麻痺や言語障害を伴うことがあります。本人の自覚が強く、抑うつ状態になりやすいのが主な症状です。
認知症の診察
認知症が疑われるときは、まず病院で診察を受けましょう。その他の疾患の可能性もあるからです。認知症は早期発見、早期治療が重要です。
まずかかりつけ医に相談し、認知症の検査を受けてください。
検査は、面談の後、身体検査、神経心理学検査、脳画像検査などを受けます。CT、MRI、脳血流検査などがあります。
診察の際は以下のことをこたえられるように準備しておいてください。
- 気になる症状はいつから出始めたのか。
- 病気や事故などがあったか。
- 症状の悪化はみられるのか。
- これまでにかかった、あるいは治療中の病気
- 現在、服用中の薬
認知症の治療
認知症の進行を完全に止める治療方法は見つかっていないため、治療は進行を緩やかにし、生活の質の向上を目的としています。
薬物療法と非薬物治療があります。薬物療法では、向精神薬や睡眠薬などの利用があります。非薬物治療では、脳トレーニングやリハビリテーション、生活リハビリ、作業療法などがあり、音楽療法もこの一つです。
認知症の予防
アルツハイマー型や脳血管性認知症は、糖尿病や脳血管障害など生活習慣病との関連が強く、これらを予防することが認知症の予防にもつながります。
4つの予防のポイントを紹介します。
食事
低塩分・低糖質の食事を心掛け、栄養素をバランスよく取りましょう。
運動
適度な運動は筋力低下の防止や関節の可動域確保に役立つだけでなく、脳にも適度な刺激を与え認知症予防につながります。
知的活動
好きな趣味や好んでやってきたことなど、無理なくできる活動を続けることも予防に役立ちます。読書や手工芸、コンピューター作業、家事などが該当します。
交流
他人との交流は何より脳を刺激し、生活の質を向上させます。家族との会話や趣味の仲間との交流を通じ、共同で作業を行うことや自分の成果を発表する機会をつくることなどが重要です。
認知症が引き起こす行動
認知症は以下のような行動を引き起こします。
被害妄想
「自分の物を取られた」「他人が私の悪口を言っている」などと話すケースです。現状に対する苦しみや周囲の環境への不満などが影響していることが多いです。助けを求める行動であることや、親しい間柄の人に訴えることも多いです。
徘徊・家に帰る
外出して目的の場所が分からずに歩き続けます。行き先は幼い頃に住んでいた場所であることが多く、ご本人にとっては理由や目的がある行為だと理解することが必要です。
暴力・暴言
不安や感情のコントロールができない、周囲の感情に巻き込まれる、自尊心が傷つけられた、体調が悪い、などの理由によって暴力を振るったり、暴言を吐いたりすることがあります。
本人が不安にならないように対応することが必要で、相手を否定せず、自尊心を傷つけない配慮が必要です。
認知症の○×クイズです
認知症に関するクイズです。次の表の各項目が正しければ「○」、間違っていれば「×」で答えてください。
では答えです。
- ①○
- ②×
- ③×
- ④○
- ⑤×
- ⑥○
- ⑦○
デイサービスに求められる機能
デイサービスは、利用者が可能な限り居宅において、能力に応じて自立した生活を送れるように生活機能の維持・向上を目指し、必要な日常生活の世話や機能訓練を行うことにより利用者の社会的孤立感の解消や心身機能の維持、利用者家族の身体的・肉体手負担の軽減を図ることを目標としています。
心身機能の維持では、身体機能(筋力・関節可動域、持久力、感覚)、精神機能(認知機能、記憶、見当識)の維持を図ります。
また、デイサービスには
- 孤立感を解消し、連帯感や一体感が増す取り組み
- 自己肯定感が増す取り組み
- 精神的自立の支援
- 人とのつながりを感じる支援
- 家族への介護方法・福祉用具、自宅でできる活動などのアドバイス
などの機能も求められています。
デイサービスの主な活動
午前中
- 屋内活動(脳トレーニング、機能回復用マシンを使った訓練)
- 入浴
- 体操(ラジオ体操、口腔体操)
午後
- レクリエーション
- カラオケ
- ストレッチ など
日中の決まった流れを繰り返すことで、体が自然と記憶し夜間の落ち着きにもつながります。
デイサービスにおける認知症ケア
デイサービスは、認知症の方を「大切な方」として捉え、その方の尊厳を保持し、持っている能力を最大限発揮できるように支援します。そのために、まずその人を知ることからスタートとします。これを「アセスメント」といいます。「アセスメント」がいいと、良い介護ができます。
その人のできること・できないことや、好きなこと・嫌いなことの把握、家族構成、職歴、趣味などをアセスメントし、職員間で共有します。
デイサービスの認知症リハビリ
①作業療法
ご本人に掃除や洗濯、仕事や趣味でされていたことを継続して行ってもらうことで、心身の能力の維持強化や自尊心を満たす効果があります。ご本人が好きなことやこれまでやってきたなじみの作業であると、効果も高いです。
以下のようなことを行います。
- 食事の準備や下げ膳
- おやつ作り
- ロールアートやカレンダーの作成
- 機織り機を使った作品作りや、デイセンターで利用する小物作り
- 習字教室
②運動療法
身体機能の低下は抑うつや認知機能の低下につながります。適度な運動は身体の可動域を保つほか、脳を活性化させ血流の改善にも効果が見込めます。ご本人に興味があり、継続してできる運動(ウオーキングやストレッチ体操など)が望ましいです。
- ボールを使った運動
(下肢筋力アップ=ボールを踏む、両足ではさむ、上肢筋力アップ=ボールを両手で押し合う、握力アップ=両手でつまみ引っ張る、ストレッチ=両手で持って背伸び、可関節可動域=両手で持って数字を描く) - タオルを両手で持って背伸びし、左右に動かすなどの動作をするタオルギャザー
- 手すりを使った低床での立ち上がり
- ボタン、チャックの開閉訓練
- 腕時計、ネックレスの装着訓練
など
③回想療法
会話をしながらその人の人生を振り返る取り組み。写真や映像を見て過去を思い起こすことで、気持ちの安定につながります。相手を受け入れることで自信と誇りを取り戻し、不安の緩和につながります。ご本人の思いを否定せず、受容し共感することが大切です。
④音楽療法
音楽を聴いたり歌ったりすることで、脳の活性化や心身の安定をもたらします。好きな音楽を聞きながらゆったりとした時間を過ごすことが精神の安定につながります。
デイサービスでの脳トレ
デイサービスで行っている脳トレーニングを体験してみてください。デイサービスで行っているより少し難しくなっています。どうでしょうか。
答えを言います。
①の答えは2です。「口」の数です。
②の答えは、順に「就寝時間」「既成概念」「他力本願」「後生大事」です。
正解でしたか。頭のトレーニングになるでしょう。こういうことをデイサービスでは行っています。
最後に
認知症介護とは感情労働です。ネガティブな感情をコントロールし、その人本位のケアを行う必要があります。その人自身を理解し、長い人生の歴史の中で培ってこられたものに敬意を払い、好きだったことや愛してこられたものを大切にした、その人らしい暮らしのサポートが必要です。
認知症介護の家族の心得
介護するご家族は、次のような点が大切です。
- 頑張り過ぎない
- 抱え込まない
- 気持ちを聞いてもらう
- 他の人と比べない
- 今を大切にする
自分にも優しくし、必要な社会資源(医療・介護サービス)を活用することが望ましいですね。
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