研修指導医日記

腹部疾患四連発! ~その1~

皆さまこんにちは。総合内科Tです。
腹部疾患四連発と題し、珍しい腹部疾患を4つ、お送りしたいと思います。

急性腹症??

RA, OAのある60歳代女性。RAはPSL5mgとMTXで比較的良好にコントロールされていたが、時々手関節、肩関節、膝関節痛を訴えていた。頓服のカロナール、時々アスピリンを鎮痛剤として使用していた。
COPDもあり、数年前に禁煙に成功し、維持できている。

ある朝、いつも早朝4時半には起きてなにかとごそごそ家事をするはずなのに起きてこないので、夫が見に行くと、布団の中でうずくまっていた。起こそうにもおなかを抑えて痛がって座位もとれない。救急車を呼ぼうとしたが、患者さんが「近所迷惑だから」と拒否。なんとか夫の肩を借りてER受診した。

バイタルサインは安定。意識清明。病歴聴取中も急に苦悶の表情で右季肋部を抑える。痛みは右季肋部のようだ…Murphy兆候陽性、CTをとることにした。ストレッチャーの振動で痛み増強はないのか、それによる痛みの誘発はない。

CTでは胆嚢緊満なし…採血結果を待つか…再度身体所見をとり、Murphy兆候が再現性をもって陽性であること確認。筋性防御、反跳痛もある…急性腹症で間違いなさそうだ。

プルルル…院内用携帯が鳴った。レトロな着信音がむなしさを増す…。

「放射線科CT室技師の○○です」、飲み友達だ。

「おせっかいかもしれませんが、さっきのCT、腹腔内は問題ない気がするんですけど、腹直筋おかしいんじゃないか、と思って…先生だから電話しました」

「!!!」

…腹直筋鞘血種

急性腹症と間違われ、試験開腹されることもある。この方はアスピリンを多用している。「アスピリンジレンマ」という用語があり、vitroではアスピリン服用量が増えると血小板凝集抑制作用が低下するとあるが、実臨床(vivo)ではそうでないことも経験する。こういった抗血小板薬や抗凝固薬を服用されている方は、腹直筋への負担で血種が誘発されやすい。もっこり盛り上がり、視診で診断がつくこともある。

さて。CTを再チェックすると、腹直筋内の右季肋部に血種があるようだ。
身体所見上、右季肋部の隆起はもともとこういう体形、言われればそんなに気にならないくらい。

あ! Carnett兆候!

思い出した! 腹部の身体診察するときは、忘れずにしないといけなかった…感度80%程度、特異度90%程度と、身体所見による尤度比は高い身体診察だ。しかし、虫垂炎や腹膜垂炎など、腹壁に炎症が波及したときも陽性となるから要注意。

…すみません。一気に掲載する予定でしたが、容量オーバーとなりましたので、4つに分けてお送りします。