- 開催日:2017年9月28日
- 講師:洛和会音羽病院 感染症科 医長
医師 青島 朋裕(あおしま ともひろ)
はじめに
本日は、インフルエンザワクチンについて、分かっていることをお知らせします。正しい知識に基づいて、ワクチンを打つか、打たないか、ご自分で判断してください。
どれぐらいの人が打っているの?
厚生労働省によれば、2015~2016年シーズンの推定で、5,173万人の人、すなわち国民の約半分がインフルエンザワクチンを打ったと推定されています。
なぜ打たなかったの?
以下のような理由を挙げる人が多いと思われます。
- 毎年打っていないけど、かかったことがないから
- 打ったけど、かかってしまったから
- 副作用が心配
- 費用がかかる
- 打たない方がいいっていう人がいるから
これらについて、順番に検討してみます
ワクチンが「効く」って?
その前に、そもそもワクチンが効く、効かないというのはどういう状態を指しているのでしょうか。
多くの病気は、世の中のほとんどの人がかからず、したがってワクチンを打たなくても、何も起こらない人が大多数です。しかし、一部「ワクチンを打たずに病気になる人たち」がいるのも事実で、ワクチンは、この一部の人たちを減らすために、理想的にはゼロにするためにあります。
インフルエンザの場合、かかる人は全体の約7%で、9割以上の人はかからない。自分がこの9割の中にいると考えれば、ワクチンなど要らない、と考えることも可能です。でも、7%といっても、実数にすると約100万人で、決して少ない数ではありません。
理想のワクチンと、インフルエンザワクチン
前述の例でいえば、100本中に「凶」のおみくじが7本あったとして、この7本をすべてゼロにできたら理想的です。でも、こういうワクチンは、ほとんどありません。
インフルエンザワクチンの場合、7個の「凶」おみくじが、ワクチン接種で3本ほどに減るぐらいの効果です。
インフルエンザワクチンの性能
各国でさまざまな調査が行われた結果、平均すると、ワクチン接種により60%程度、かかることを減らせるという調査結果がでています。
ワクチンを特に打つべき人
以上、ご説明したように、インフルエンザワクチンを打てば絶対に大丈夫というわけではありません。
しかし、「ワクチンを特に打つべき人」たちは存在します。この人たちには、ワクチン接種を強くお勧めします。
ワクチンのもう一つの効果①
ワクチン自体がインフルエンザ罹患(りかん)を減らす効果は限定的とはいえ、ワクチンが非常に大きな効果をもたらしているもう一つの事実があります。高齢者施設での研究で、肺炎や死亡率が激減したことが、分かったのです。つまり、インフルエンザそのものの罹患を防げなかった人でも、症状の軽減や肺炎などの重症化を減らす効果が確認されたのです。
ワクチンのもう一つの効果②
ワクチンが集団に与える効果がそれです。
A市とB市を例に説明します。
A市には、ワクチンを打ったことでインフルエンザへの免疫を持っている人が多い(青)。
B市には、免疫を持っている人が少ない(黄)。
インフルエンザが流行したとき、A市では、ワクチンを打っていない人たちの間にも少ししか広がりません。
しかしB市では、ワクチンを打っていない人への広がりが大きいのです。
このように、個人単位ではワクチンの効果が限定的であっても、集団で見ると大きな効果があるわけです。
集団免疫
以上の説明は、統計的にも裏打ちされています。
以下のグラフで説明します。
肺炎またはインフルエンザによる死亡数の推移を見ると、日本の場合、1960年代~1980年代が少ないことが分かります。実は1961年~1987年まで、日本の小中学校ではインフルエンザワクチンの接種が義務化されていたのです。義務化の前後で、(高齢者の)死亡数が多いことが分かります。一方、米国ですが、死亡数はあまり変わりません。米国ではずっと、集団接種が義務化されており、これが死亡数上昇を抑えていると思われます。
他に、カナダの託児所で行われた研究でも、ワクチンを打った子どもの家族へ予防効果が示されています。
集団接種は、周りの人たちへの予防効果もあるのです。
これまでの話をまとめると
とはいえ、一個人にとって、インフルエンザにかかるかかからないか、は0か100かです。
ワクチンを打ったおかげでインフルエンザにかからなかった人と、ワクチンを打ったけれどたまたま関係なくインフルエンザにかかる機会がなかった人を区別することはできません。個人レベルでメリットを実感するのは難しいワクチンなのかもしれません。
しかし集団として考えた場合、おおよそ60%程度感染者を減らし、高齢者のインフルエンザによる肺炎や死亡率を下げ、接種していない、家族や周囲の人間の感染も減らします。
「一人はみんなのために みんなは一人のために」 これがワクチンの本質です。
ワクチンのデメリット
デメリットとしては、副作用(副反応)とコストがあげられます。
副反応で、しばしばみられるものは以下の症状です。
- 接種部(周囲)の発赤、腫れ、痛み:1~10%程度の人に見られます。
- 微熱
- 感冒症状
これらは、だいたい1、2日程度で消失します。特に心配はいりません。
一方、非常にまれですが、重篤な副反応は以下の症状などがあります。
- アナフィラキシー:重度のアレルギー反応。呼吸困難や低血圧などを引き起こす。
- ギラン・バレー症候群:神経まひ。四肢の麻痺から呼吸筋までまひしてしまう。
- 急性散在性脳脊髄炎:脳と脊髄の炎症。意識障害やまひなどが起こる。
インフルエンザワクチンのコスト
洛和会音羽病院の場合
- 1回目 4,860円(税込)
- 2回目 2,700円(税込):小学生以下は、2回接種が薦められています。
自治体の補助もありますので、高齢者の負担額はもっと下がります。それでも費用がかかることは確かです。
一方、インフルエンザを発症した場合のコストは、以下の通りです。
ワクチン反対派の意見
ワクチン接種に反対する人たちもいます。反対派の意見と、それらの意見の問題点をあげます。
意見①
「集団免疫はないと証明されている」:この意見の根拠は、1987年の前橋市レポートです。ワクチンを打っていない地域(前橋市)の欠席率のパターンが、全国の欠席率のパターンと似ていることを理由にしています。⇒この主張は、インフルエンザになったか、ではなく「欠席率」で比較されており、統計学的な解析がなされていないといえます。
意見②
「インフルエンザは鼻や喉の粘膜からはいるので、ワクチンによる血液中の抗体(IgG)は効かない」⇒先述のとおり、注射のワクチンで感染者が減ることは実証済み。粘膜の抗体(IgA)を増やすワクチンを使ってみても、あまり効果があがらなかった。
意見③
「人工物を体に入れることはよくない」⇒確かに一定の割合(非常に低いが)で副反応は起こりうる。ただ、それはワクチンに限ったことではない。少なくとも、免疫力が下がる、という科学的実証はなされていない。
インターネットなどで情報があふれている現在、自分の行動を決定していくためには、以下のような態度が主要になります。
インフルエンザまとめ
- 毎年約100万人のインフルエンザ患者が発生する。
- 定型的には、咳や高熱や関節痛が3~4日間起こる病気。
- 学校や職場で流行し、社会的に大きなインパクトを与える。
- 99%は自然に治るが、高齢者や免疫低下者では時に重症化しうる。
- 約1%にあたる1万人前後が亡くなる。
インフルエンザワクチンまとめ
以下のまとめをもう一度、天秤にかけて、自らの判断でワクチンを打つか、打たないかを決めてください。
質疑応答から
Q インフルエンザワクチンを打った後、さらなる予防法はありますか。
A 手洗いです。ウイルスは手から入ることが多いので、手洗いは有効です。
Q マスクの効果は。
A ウイルスが喉についてしまった場合はマスクの効果はあまりないですが、マスクをしていると知らずに手が顔に触れるのを防ぐ効果があります。また、周りにうつすことを避ける意味で、エチケットとして大事です。
Q 他の薬を飲んでいる場合、インフルエンザワクチンは接種できますか。
A 他の薬と相性の悪いことはほぼありませんが、免疫を下げる薬を飲んでいる人は、ワクチンで免疫力がつかない場合があります。気になる方は主治医と相談してみてください。
プロフィール
洛和会音羽病院
感染症科 医長 [総合内科 兼務、京都下肢創傷センター 兼務]
青島 朋裕(あおしま ともひろ)
- 専門領域
内科学、感染症学、血液学 - 専門医認定・資格など
日本内科学会認定総合内科専門医
臨床研修指導医
JMECCプロバイダー
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