- 開催日:2016年9月28日
- 講師:洛和会音羽病院 呼吸器内科
医長 坂口 才(さかぐち ちから)
はじめに
肺がんは、がんによる死亡者のうち男性は1位(25%)、女性は2位(14%)を占めています。見つかった時点ですでに進行しているケースが多く、死亡率を高めています。本日は肺がんの化学療法(抗がん剤治療)を中心に、お話しします。
肺がんの発見経過
京都府の調査(2012年報告)によれば、肺がんが見つかった経緯は、健診15%、経過観察(他の病気の診察の過程で見つかった)42%、自覚症状・不明43%です。発見時、がんの広がりが肺内だけの人は7%、リンパ節や隣接臓器に転移24%、遠隔転移39%でした。自覚症状が出てから受診される患者さまの多くが、すでに遠隔転移している可能性が高いことが考えられます。
肺がんの治療
治療法の選択は、がんの状態と身体の状態によります。
- がんの状態:
がんの組織型や病期、遺伝子変異の有無 - 身体の状態:
年齢や全身状態、心臓や肺、肝臓、腎臓の機能、他の病気(合併症)の有無
肺がんの組織型
肺がんは小細胞肺がんと非小細胞肺がんに大別され、非小細胞肺がんはさらに3つの型に分かれます。それぞれの型によって、使う抗がん剤も異なります。
※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。
肺がんの病期と生存率
肺がんの病期は、がんが肺の中にとどまり、リンパ節に転移がない「Ⅰ期」、がんと同じ側の肺門リンパ節に転移をしている「Ⅱ期」、肺の周りの組織や重要な臓器に浸潤している「Ⅲ期」、反対側の肺や他の臓器に転移しており、胸水・心嚢水がたまっている「Ⅳ期」に分類され、さらにそれぞれの病期がA、Bの2段階に分かれています。
生存率は、病期Ⅰの場合、5年生存率が82.9%、10年生存率が69.3%と、治療効果が顕著です。病期Ⅱでは同様に、48.2%、31.4%です。病期が進むほど、生存率が低下します。健診で、肺がんの早期発見ができれば、治療法の選択肢も増え、予後も良好なことが多いです。
全身状態
患者さまの日常生活を、5段階に分けて判断します。
全身状態「0」=まったく問題なく活動できる。発症前と同じ日常生活が制限なく行える。
「1」=肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽作業や座っての作業は行うことができる。
「2」=歩行可能で自分の身の回りのことはすべて可能だが、作業はできない。日中の50%以上はベッド外ですごす。
「3」=限られた自分の身の回りのことしかできない。日中の50%以上をベッドかいすで過ごす。
「4」=まったく動けない。自分の身の回りのことはまったくできない。完全にベッドかいすで過ごす。
肺がんの治療
治療は、手術や放射線治療を行う「局所療法」と、「全身療法」に分かれます。全身療法は、抗がん剤による薬物療法(化学療法)です。どちらも緩和ケアを併行して行います。全身状態が手術などに耐えられると判断した場合の治療法は、以下の通りです。
治療を担当する主な診療科は、手術=呼吸器外科。放射線=呼吸器内科、放射線治療科。薬物療法=呼吸器内科。緩和医療=呼吸器内科です。
肺がんの薬物療法(抗がん剤による化学療法)
化学療法は、肺がんのⅢ期やⅣ期の患者さまに行います。抗がん剤を点滴や内服で体内に投与し、全身のがん細胞を破壊したり増殖できなくすることにより、がんをコントロールする治療です。従来型の抗がん剤は、がん細胞以外に正常細胞にも影響し、副作用を引き起こしますが、近年は狙ったがん細胞だけを攻撃し、正常細胞への副作用が少ない分子標的薬も使われています。さらに2015年には従来とは全く異なる「免疫チェックポイント阻害薬」も登場しました。毎年のように新薬が出てきて、治療法も変わってきたのが肺がんの化学療法です。
肺がん化学療法の特徴
完全に治すのは、残念ながら難しいです。
当初効果が見られても、徐々に効果がなくなってきます。
何らかの副作用が出ることが多いが、重篤な副作用は1~2割程度(体力次第)です。
副作用に耐えられる体力がないと、かえって有害です。
外来で行うことも可能です。月に1~3回、点滴を行います。
当院での肺がん化学療法
年間300~500件施行しています(述べ件数。患者さまは100人ほど)
半分は外来で施行。点滴時間は長いものは6~8時間。短いものは1時間程度です。
外来化学療法室には、ベッド2台、リクライニングチェア7台があります。
治療のガイドライン
どのような化学療法を行うかは、肺がん学会によるガイドラインに基づいて行います。
Ⅳ期非小細胞肺がんのガイドラインと、遺伝子変異がある場合の抗がん剤の流れを、以下に示します。
副作用について
これまでの抗がん剤と、分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬では、副作用の出現のしかたが全く異なります。体力があれば、副作用は軽く済むことが多いです。副作用は1~2週間で回復することが多いですが、長く続くこともあります。副作用を抑える薬も開発されているため、吐き気などは以前より軽く抑えることができます。
- 吐気・嘔吐:
抗がん剤使用者の7~8割に現れます。投与1日以内に起こる急性のものと2~3日して起こるものがありますが、急性のものは大体、薬で抑えられます。抗がん剤を投与する際、リスクに応じて予防的にステロイドや吐気止めを使用します。 - 下痢:
重症化すると命にかかわるので注意が必要です。室温の白湯やイオン飲料をこまめに飲んだり、下痢止めの薬などを使用して脱水を防ぎます。 - 便秘:
下剤を飲む、食物繊維をとる、軽い運動をする、おなかを温める、などの対策をとります。 - 口内炎:
抗がん剤使用者の4割に見られます。特効薬はないので、痛みを和らげる対処療法が主体となります。 - 味覚障害:
口の中が乾燥し、苦みや辛みだけが強調される、味がなくなるなどの変化が起きます。特効薬はないので、うがいなどで口の乾燥を防ぐ、味付けを調整するなどの対策をとります。 - 倦怠感:
貧血、脱水、栄養不足、睡眠不足などを改善することで症状の改善につながることもあります。適度な運動が睡眠不足やストレスの解消につながりますので、リハビリのスタッフと協力して化学療法中にも運動を行うようにしています。 - 抹消神経障害:
特定の抗がん剤(パクリタキセル、ドセタキセル、シスプラチン)などで起きやすいです。抗痙攣(けいれん)剤や抗うつ剤、リリカなどを使うと症状が和らぐことがあります。 - 白血球(好中球)減少:
抗がん剤の使用後にばい菌などに感染すると発熱が起こり、好中球がさらに減少します。好中球を増やす注射などで対処します。
このほか、分子標的薬に多い副作用には間質性肺炎などがあります。免疫チェックポイント阻害薬には、過剰免疫反応による発熱などがあります。
ご相談ください
洛和会音羽病院のがん相談センターでは、患者さまやご家族のさまざまな悩みに対応しています。治療や予防、緩和ケアへの相談をはじめ、セカンドオピニオンについて、副作用への工夫、精神的な苦悩や経済的な問題に対する相談、がんに関する各種情報の閲覧や検索なども可能です。どなたでもご利用いただけます。詳細は、洛和会音羽病院 がん相談センターTEL:075(593)4175へ。
プロフィール
洛和会音羽病院
呼吸器内科 医長
坂口 才(さかぐち ちから)
- 専門領域
肺がん、緩和医療 - 専門医認定・資格など
日本内科学会認定内科医
日本呼吸器学会専門医
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