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医療

よくあるあの症状

~急ぐ? 急がない?~

投稿日:2019年8月29日 更新日:

はじめに

私は洛和会音羽病院の総合内科で部長を務めています。総合内科はどの臓器が専門と限らず、患者さんの症状を診てどこの臓器の病気かを見極めます。その後、それぞれの専門科で治療に入るか、もしくはそのまま総合内科で治療を続けます。

総合内科にはさまざまな症状の方が来られますが、同じ症状でも、急ぐもの(重症疾患)と急がないもの(よくある軽症)があります。一度の診療で完全にとなると、見分けるのは医療機関でも難しいことですが、重症だと判断するためのポイントがあります。今日はそれをご紹介します。

急ぐ胸痛は

病院の外来には、胸の痛みを訴える患者さんがたくさん来られます。私たちはまず、患者さんの話を聴きます。どこがどう痛み、どういう症状なのかを聞き出すのが私たちの仕事です。

胸の痛みで、「突然起こる」「これまで経験したことがない」「冷や汗が出る」「胸のどこが痛いか分からない」「そもそも痛いのか、何なのか、分からない」というときは、急性冠(動脈)症候群(急性心筋梗塞)、急性大動脈剥離、肺塞栓症などが疑われ、対応を急がなければなりません。

暑いのに冷や汗が出るのは、体がきついから交感神経が働くためで、重大な症状です。急性心筋梗塞は、心臓に栄養を送る3つの冠動脈が血栓で詰まり、心臓の細胞が死ぬ病気です。同じ心臓の痛みでは、コレステロールがたまって冠動脈が狭くなり、酸欠状態に陥る狭心症があります。

大動脈剥離は動脈硬化が原因で起き、七転八倒するほどの激痛です。場所によっては急死する可能性があります。肺塞栓症は、よく知られているエコノミークラス症候群で起きる症状です。これは静脈の症状です。

いずれも対応を急がなければなりません。急ぐのは、突然、パッと痛みが出ているときです。また、診察に来られた患者さんから症状を聴くと、同じような訴えのようで実は以前と痛みの形が違っているときがよくあります。痛みの見極めは簡単ではありません。

※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。

急がない胸痛

同じ胸の痛みでも、ギュッという「一瞬の痛み」や「指で指し示せる」痛みは心臓が原因ではなく、急がなくてもいい胸痛です。

そういう痛みは、“胸壁”の痛みや肋骨骨折、帯状疱疹が原因のことが多いです。図を見ていただくと分かりますが、胸の周りの部分は肋骨です。胸の表面で「ズキン」という痛みを感じるのは、肋骨の骨折が疑われます。体の前方部分の肋骨は軟骨(肋軟骨)でつながっており、そこがずれて折れるケースが多いです。帯状疱疹は、背中の腰の上部分に文字通り帯状にできます。年齢とともに増えます。しっかり治さないと、神経痛が残ることがあります。

肋間神経痛とは

最初に挙げた心筋梗塞や明らかな胸壁の疾患が見つからないとき、肋間神経痛という病名が一旦は使われていますが、実は真の肋間神経痛はあまり多くはありません。

CT検査で異常が見つからない場合、なぜ痛みが起きたのかを考えると、次のようなケースが考えられます。

  • 背骨のゆがみ、脊柱起立筋の凝り
  • メンタル面から
  • がんの骨への転移

このうち、背骨のゆがみ、脊柱起立筋の凝りは簡単には治りません。

動悸がして心臓が飛び出そうなときは…

動悸がして心臓が飛び出そうなときは「パニック障害」の可能性があります。

パニック障害とは、冷や汗が出たり失速感があったりして、自分で自分の症状を作っている側面があります。

パニック障害については、次の表のような診断基準はありますが、その前に甲状腺機能亢進症、貧血、気胸、心筋梗塞などの肉体的な疾患の可能性を否定できることが重要です。

パニック障害の診断基準では「動悸、心拍数の増加」「発汗」「身震い、または震え」「息切れ感、または息苦しさ」「窒息感」など、さまざまなパニック発作を挙げています。これらの症状が突然、4つ以上発症し10分以内にその頂点に達すると感じた場合、パニック障害が疑われます。

パニック障害はパニック発作を起こすほか、「予期不安」(また発作を起こすのではと考えて行動できない)、「広場恐怖」(単に広いところではなく、人のいる所を避ける)という症状もあります。

急ぐ腹痛は

腹痛で急ぐ症状は、

  • 冷や汗を伴う
  • 顔が青い
  • 痛みで動けない
  • 血便

―です。胃潰瘍・十二指腸潰瘍や、腸に穴が開く腸管穿孔、腹膜炎が疑われます。

一方、急がないものは、我慢できる痛みであること(ただ痛みは個人により個人差があります)や少量の下痢です。

嘔吐には怖い病気が隠れている

嘔吐は個人差がありますが、怖い病気が隠れていることがあり、基本的に要注意の「黄色信号」です。

多いものは急性胃腸炎ですが、怖い原因は、急性心筋梗塞や脳出血、くも膜下出血で、随伴症状として、頭痛や胸痛、腹痛、発熱を伴います。

嘔吐も嘔吐物を誤嚥(ごえん)し窒息死することがありますので、頻繁に起き、多量なら問題です。

下痢の場合は

下痢で一番多いのは急性胃腸炎で、基本的に慌てる必要はありません。ただし、「ノロウイルス」は水分の排泄量が多いので、脱水になり命に関わり危険です。

同様に、危険性が高いのは、幼児に多い「ロタウイルス」と今はほぼみられなくなった「コレラウイルス」です。いずれも、激しい下痢が発現します。

頭・神経系の痛み

米国の脳卒中学会が作った脳卒中の警告サインの合言葉は「FAST」です。

F=Face・顔にまひがでる

A=Arm・腕にまひがでる

S=Speech・「しゃべること」のまひ

T=Time・時間を置かずに救急車を呼ぶ

という意味の略語です。

昔、脳卒中は治らない病気とされていましたが、今は治せる病気です。発症から4時間半以内なら点滴薬で症状を改善させることが可能です。時間との勝負ですので、こういう症状があればすぐ病院へ連絡してください。

失神した際は

気を失う失神は、病気として大したことがないものから、重症の病気まであり、注意が必要です。気を失って倒れてケガをする危険性があり、この点も注意が要ります。倒れるのが予期できた場合は、しゃがみ込み、転倒のケガを避けましょう。

失神の原因として怖いのは、不整脈と心疾患です。中でも不整脈が一番怖いです。また、胃腸からの出血で血圧が下がっているケースもあります。一方、脳卒中で失神することはあまりありませんが、失神する際は重症です。

失神してすぐ覚醒しないときは救急車を要請しましょう。心肺停止していると思ったら、心肺蘇生を行いましょう。

重症の原因でないのは「立った直後」や「排尿・排便した直後」「嘔吐した直後」に失神したときです。これらは高齢者でよくみられ、「迷走神経」という副交感神経によるものです。また、降圧剤の効き過ぎで、血圧低下から失神に至るケースもあります。

顔が黄色い時は

顔が黄色い場合は、まず黄疸を考えます。すぐ受診する必要はありませんが、遅くとも数日以内に受診しなければなりません。

その際は目(結膜、白目)を見てみましょう。目が黄色いと黄疸で、黄色くない場合は黄疸ではなく、カロチン血症です。カロチン血症は、みかんを食べ過ぎた子どもが典型で、βカロチンの過剰摂取が原因です。甲状腺疾患(甲状腺機能低下症)でも起きます。

いびきがひどい場合は

いびきがひどい時は、基本的に緊急度は高くありませんが、睡眠時無呼吸症候群(SAS)かどうかを診察する必要があります。

急ぐものは、脳卒中や意識障害の疑いがある場合です。これまでになかった大きないびきをしていて、意識がなく、起こしても起きないときは、対応を急がなければなりません。

睡眠時無呼吸症候群の人は考えられている以上に多いと思われます。50万人程度いる患者数も、実際には300万人程度に上るといわれています。放置すると心不全になりますし、睡眠不足で昼の仕事や運転中に寝てしまって、重大な事故を招く原因になりますので治療が必要です。簡易の人工呼吸器もあります。

「おしっこ」が近い・出にくい

排尿が近い場合、急性発症なら膀胱炎、さらに発熱があるなら腎盂腎炎が疑われます。この場合は、対応が急がれます。その他、女性は過活動膀胱、骨盤底筋群のゆるみ、男性で夜間に多い場合は、前立腺肥大が疑われます。

逆に、尿が出ない場合ですが、まったく出ないときは超緊急を要します。

尿は出るが、明らかに出が悪いときは比較的早めに受診が必要です。原因は、風邪薬などの服用(抗コリン作動薬)、男性は前立腺肥大に伴うケースが考えられます。

また、出ないのではなく、膀胱内に尿がない場合もあります。こういう場合は脱水が原因なので、注意が必要です。

まとめ

急ぐ症状にも目の付けどころがあります。判断で空振りすることも当然、あります。

お話ししたのは、あくまで目安ですので、急ぐと思ったり、不安が拭いきれなかったりしたときは、受診をお勧めします。急がなければならない病気もあります。病院だけでなく、一緒に地域医療を担っている「かかりつけ医」にも行ってください。

プロフィール

洛和会音羽病院 総合内科
部長
谷口 洋貴(たにぐち ひろたか)

  • 専門医認定・資格など
    日本内科学会認定専門医/認定医
    日本救急医学会救急専門医
    日本医師会認定産業医
    臨床研修指導医
    臨床研修プログラム責任者

洛和会音羽病院

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〒607-8062
京都市山科区音羽珍事町2
TEL:075(593)4111(代)

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