はじめに
元気で長生きするためには、次の4つのことが大切です。
- 食事
- 生活習慣
- 運動
- 健康診断
どれも大事ですが、病院ではどうしようもない、一人一人に普段の生活でケアしてもらうしかないものもあります。元気で長生きするためには、セルフケアが大事です。
セルフケアでは、何より健康診断が大切です。実は、日本の健康診断の受診率は低いのです。会社に勤めているときは受診しているのに、辞めると受けなくなるからです。市民検診などをしっかり受けてください。
足の大切さ
では、本日のテーマである足の話に入ります。まず、ヒトはどういう生き物でしょうか。木の上にいたサルがそこでは生活できなくなり、下に降りて来て四足から二足歩行を始めました。二足歩行では、手が使えるようになるなど得たものが多くありますが、失ったものも多いのです。重い頭を支えるため腰痛に悩まされるようになりました。
皆さん、家の中は安全と考えがちですが、実は家の中にも危険は潜んでいます。全国で交通事故により死亡する人は年間約3千人ですが、家の中で事故死する人も約1万人いるのです。うち風呂で溺死する人が5千人以上、誤嚥で窒息死する人が4千人近く、部屋で転倒したり階段から転落したりして亡くなる人も2千人以上います。転倒や、階段から落ちないためには、足がしっかりしていることが大切です。
※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。
足について知りましょう
調査の結果、握力の強い人や歩行速度の速い人の寿命が長いことが分かっています。握力を鍛えようという意味ではなく、体を動かすことが寿命を延ばすのです。
動くのに重要なのは足です。歩く速度が速いと長生きしますし、よく動かすと長生きできます。まず靴について気を配ってください。靴は大きさだけでなく、幅も大切です。
また、歩き方にも気を付けましょう。米国のトランプ大統領とか、欧米のセレブは歩き方がきれいです。足について知っていると、自分の足の症状についても注意するようになります。糖尿病など足に影響する病気もあります。
足のセルフチェック
まず脚をチェックしましょう。脚がO脚などに変形していると、足のトラブルを招きます。O脚などの場合は、靴に足底板を入れたりすれば悪化を防げます。
また、靴を選ぶときは足の形も重要です。エジプト型、ギリシャ型、スクエア型がありますが、自分はどの型なのかを知って靴を選んでください。
先のとがったパンプスをはくと、外反母趾(がいはんぼし)になります。外反母趾になるのは9割以上が女性です。足の裏の土踏まずがない偏平足の人も外反母趾になりやすいです。足に合わない大きな靴は、体が前につんのめり、外反母趾の原因になります。
正しい靴の選び方
靴を選ぶときは足囲にぴったり合い、かかとが安定することが大切です。
- 前足部(親指の下の膨れている部分)が曲がりやすい
- かかとを合わす
- かかとを踏まない
- ひも靴の方がよい
これらの点に注意して選んでください。
また、夕方に一度履いてみてから購入してください。足は夕方の方が0.5cmくらい大きくなります。
外反母趾を防ぐ方法
図のようにタオルをつかむ「タオルギャザー」や、足じゃんけんをして足指を鍛えましょう。足指でつかむ力を鍛えると、倒れにくくなります。また、偏平足の人は靴底にインソールを入れて足底のアーチを上げると、歩く姿勢が良くなります。
歩くときの姿勢も大切です。図のように頭をお辞儀するように軽く前に倒し、肩甲骨は逆に後ろに引き、その状態から頭と肩甲骨を挟み込むようにしながら、天井から頭をぶら下げられているようにします。
正しい歩き方は身につけるもの
歩行は反射運動です。体に正しい歩き方を覚えてもらいましょう。正しい歩き方で2,000~3,000歩歩くと体が記憶します。高齢の人は背中を丸めてトボトボ歩きになり、足が上がらなくなってつまずきます。爪先をちゃんと上げて歩くようにしましょう。
歩くと、心臓や肺、脳が鍛えられます。週に60分の運動が心筋梗塞の防止になります。血圧も下がり、認知症や肺疾患の予防にもなります。体調も自覚できます。
足に症状がでる疾患
足に症状が出る疾患は以下のように、数多くあります。
- 脳の病気(脳梗塞、脳出血)=足が麻痺します
- 脊椎の病気(脊椎管狭窄症、変形性脊椎症)
- 心臓の病気(心不全)=足がむくみます
- 肺の病気(呼吸不全)
- 内臓の病気(甲状腺機能低下、腎不全)
- 血管の病気(閉塞性動脈硬化症=足の心筋梗塞といわれます、下肢静脈瘤、深部静脈血栓症)
以上のような足の病気は自分でも見分けが付きます。
- 夕方にはれる。なんとなくだるい。血管が浮き出る → 静脈瘤かもしれません。外科へ。
- 動くと痛い。動くと楽。歩くと足がしびれて歩けない。 → 関節が原因。整形外科へ。
- 両足がむくむ、冷える。足の裏の感覚が鈍い。 → 内科の病気(高血圧・糖尿病)
- 足の血管がぼこぼこ膨れたり、浮き出て見える。 → 下肢静脈瘤
- 足がむくみ、重い、疲れる → 内科の病気でも起きます
- 寝ているときにこむら返りになる(足がつる) → 筋肉が弱ると起きる(静脈瘤以外でも)
- 皮膚が黒ずんでいる → 静脈瘤以外の皮膚炎
弾性ストッキングをはいて楽になる症状は静脈性の原因です。
むくみのいろいろ
足のむくみには次のような種類があります。
- 全身の病気からくるむくみ → 心不全、腎不全
- 手術後・脳卒中後など筋力の低下から来るむくみ
足は第2の心臓です。足のふくらはぎの筋力が衰えると、血液を送れずにむくみます。人間の臓器で一番、血液を必要としているのは脳で、脳は全血液の2、3割を使います。そこへ送る力がなくなると、むくんでしまうのです。
- 血管の異常からくるむくみ(血管が動かないとむくみます)
- 薬剤からくるむくみ
- リンパからくるむくみ
なぜ静脈瘤になる?
そもそもは人間が二足歩行しているからです。人間の血管には、心臓から全身へ血液を送る動脈と、心臓への帰り道である静脈があります。ですが、人間の足は寝ているとき以外はいつも心臓の下にあります。
そのため静脈の中で血液を送るのに重要な働きをしているのが「弁」とふくらはぎです。この弁がきちんと閉じなくなり、血液が逆流する病気が下肢静脈瘤です。弁が悪くなると心臓へ戻る血液が足に滞り、静脈がこぶのように膨れます。
下肢静脈瘤の種類
下肢静脈瘤には、
- ①伏在静脈瘤
- ②側枝静脈瘤
- ③網目状静脈瘤
- ④クモの巣状静脈瘤
の4種類があります。
手術を考えた方がよいのは、伏在静脈瘤と側枝静脈瘤です。伏在静脈瘤は足の表面近くにある静脈のうち、本幹となる太い血管(伏在静脈)が拡張した状態です。側枝静脈瘤は、伏在静脈から枝分かれした、さらに先の部分が拡張したものです。これらの静脈瘤は放置すると、皮膚が溶けてきますので手術が必要です。
一方、あまり重症化しない下肢静脈瘤は、網目状静脈瘤とクモの巣状静脈瘤です。網目状静脈瘤は皮膚の真下の直径2~3mm小さな静脈の拡張で、クモの巣状静脈瘤は皮膚の表層の下の直径0.1~1mmの細い血管が拡張したもので、どちらも放置しておいても大丈夫です。
どんな治療があるのか?
まず診断ですが、超音波デュプレックスを使ったエコー検査で診断します。静脈の弁の状態がはっきり分かります。
治療法は
- 圧迫療法
- 硬化療法
- 手術
- 血管内焼灼術
- 潰瘍症例の場合 → 内視鏡下筋膜下穿通枝手術を行います
圧迫療法
弾性包帯で足首から上に圧迫強度にグラデーション変化をつけながら巻いて、圧迫圧の変化で静脈の血液を上に押し上げます。ただ、静脈瘤自体は治りません。
弾性ストッキングは血栓予防用ですから静脈瘤治療には向いていません。
静脈瘤は効果材を注射し、弾性包帯で圧迫して血管を硬化させる治療法です。あまり太い静脈瘤には効果が薄く、手術治療と併用します。網目状タイプや側枝タイプに有効です。
ストリッピング・高位結紮(けっさつ)術
逆流のある伏在静脈を特殊な器具で抜き去る手術で、100年前からあるスタンダードな手術ですが、局所麻酔単独や日帰りの手術にはやや向いていません。高位結紮術は、逆流のある静脈を結束して切り離す手術です。局所麻酔でできるメリットがありますが、やや再発が多く、現在は軽い静脈瘤などに硬化療法とセットで行っています。
血管内焼灼術
血管の中に熱を発生するファイバーやプローブという細い管を挿入し、熱で血管の壁を変性させ、閉塞させる手術です。カテーテル手術の一種で、局所麻酔で可能です。レーザーとRFA(ラジオ波焼灼法)の2タイプがあります。
レーザー照射による焼灼は、①血管への照射②静脈壁への直接照射―を行います。温度50度で静脈壁のコラーゲン繊維の収縮が始まり、70~100度で壊死します。その結果、静脈壁の収縮と肥厚により血管内腔が縮小します。
95%から99%再発はせず、ほぼ日帰り手術で行えます。早期に社会復帰が可能(術後1~2日)で、翌日にはシャワーができます。手術の痕跡がほとんど残らないのもメリットです。
静脈瘤切除術
ストリッピング手術やレーザ手術で処理できない蛇行した小さな静脈瘤を取る方法です。
内視鏡下筋膜下穿通技手術
広範囲の色素沈着や硬化、萎縮、潰瘍があるときに行う手術で、2014年から保険適用になりました。関西でこの手術が行えるのは私だけで、洛和会音羽病院でしか行っていません。
静脈瘤のある人の生活上の注意
- 長時間じっと立つことを避け、足踏みしたり歩いたりしましょう。
- 足がだるくなったら、短時間でも横になり、足を心臓より高くして休息しましょう
- 弾性ストッキングを着用しましょう。
- 夜寝るときはクッションなどで足を高くして寝ましょう。
- ささいな傷が色素沈着や潰瘍の原因になります。足を清潔に保ちましょう。
- 体重を適正に保ちましょう。
廃用性浮腫(老人性浮腫)
肥満や寝たきり、骨折後に起きる浮腫で、筋肉と連動した下肢静脈弁の機能不全で起きます。しかしエコー検査すると明らかな血管の異常はなく、血管が浮き出ていないのに、むくみがあります。
治療法としては、圧迫療法と足の運動が効果的です。血液の逆流がないのに手術する病院もありますが、放っておいても命に別状はありません。
足をむくませないコツ
昔の人は、足はむくむものと知っていました。昔の脚絆(きゃはん)とか、軍人がしていたゲートルはそれに対応した知恵でした。
むくませないコツとしては
- 糖尿病や腎臓病など、むくみの原因となる病気の治療を受ける。
- ジョギング、自転車などで、ふくらはぎや下半身の筋肉を鍛える。
- 体重を適正に保つ。
- 弾性ストッキングを着用する。
図のような足首の運動も効果的です。
インターバル速歩
早歩きとゆっくり歩きを交互に繰り返すウオーキングの方法です。3分ごとに交互に繰り返します。ふくらはぎや下半身を鍛えるのに最適です。
想定される質問に答える形でお教えします。
Q 一番いい治療法はどれ?
A 症状は人それぞれなので一概には言えません。医師とよく相談してください。ただ静脈瘤の手術は昔に比べて安全で簡便になっており、どの治療も安全といえます。
Q 手術は健康保健が効きますか?
A 血管内レーザー治療で、片足が患者さんの30%負担で45,000円、20%負担で30,000円、10%負担で15,000円です。
Q レーザー治療は保険が効かないの?
A 2011年から保険の対象になりました。ですが、美容目的のレーザー機器は保険対象になっていませんので、そういう機器を使用する病院やクリニックでは保険外治療になります。現時点ではあえて保険外のレーザー機器を使用する必要はありません。
Q 静脈瘤は放置すると肺塞栓症になるので、すぐ手術が必要と言われましたが。
A 下肢静脈瘤が進むと、血栓性静脈炎を起こすことがあり、それが肺塞栓を起こすことがありますが、極めてまれです。むしろ筋肉の中の静脈=深部静脈に血栓ができた場合が要注意です。これは、いわばエコノミー症候群です。その場合は静脈瘤の手術をするより、抗凝固療法(血を固まらせない薬を飲む)が必要となります。
プロフィール
洛和会音羽病院 脈管外科
部長
武田 亮二(たけだ りょうじ)
- 専門領域
消化器外科(肝臓)、内視鏡外科(消化器系一般、胃・大腸)、脈管外科(主に下肢静脈疾患) - 専門医認定・資格など
日本外科学会外科専門医
日本静脈学会評議員
京都大学医学部医学博士
臨床研修指導医
近畿外科学会評議員
洛和会音羽病院 ホームページ
〒607-8062
京都市山科区音羽珍事町2
TEL:075(593)4111(代)