- 開催日:2017年3月29日
- 講師:洛和会音羽病院 救命救急センター・京都ER 所長 医師 安田 冬彦(やすだ ふゆひこ)
はじめに
私の働いているセンターには、年間で3万1千人を超す患者さまが来られます。治療を通じて、人間は生き物であり、いつかは弱っていく存在だと思う半面、ではどうやってメンテナンスすれば、人間の体を変えていけるのか、病気になる前に方法はないのか…と考えるようにもなりました。本日は救急疾患の実態と原因をはじめ、健康で長生きできる、私なりの処方箋についてお話しします。
当救命救急センターにはどんな救急疾患が多いか?
昨年度、当センターに来られて入院となった患者さまの内訳は以下の通りです。呼吸器系疾患、消化器系疾患、循環器系疾患、整形系疾患…の順で、傾向は全国どこも同様でしょう。
※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。
年齢別でみると、60歳代から入院患者数がぐっと増え、80歳代が最高となります、傾向としては、病気になった人は次々と他の病気にもかかる半面、90歳代でもピンピンしている方もいて、個人差が激しいです。
主な救急疾患の原因は何か?
病気の数は、星の数ほどたくさんあります。対して、病気の原因は、意外と少なくて、動脈硬化、喫煙・飲酒、腸内環境、運動不足・肥満、ストレスの5点に集約されます。
動脈硬化を招く原因は、
- 喫煙
- 高血圧
- 脂質異常
- 高血糖
- 内臓脂肪型肥満
- 歯周病
が主なものです。特に喫煙は、肺に煤(すす)がたまり、酸素の取り込みが悪くなって肺の機能低下を招く結果、肺炎にも肺がんにもなりやすくなります。自分だけでなく、家族にも副流煙の被害を及ぼします。長年の喫煙者は、いまさら禁煙しても、と思うかもしれません。ですが人間の体は3~4カ月で体内の組織が全部入れ替わるため、禁煙の効果は大きいのです。
病気の原因は、たった3つ
さらに簡略化すると、病気の原因は、「血管の異常」「食べ物・食べ方」「運動不足」の3つに集約されます。これらを改善することで、健康な体に変えることが可能です。
血管の異常
血管の異常を調べる方法は、以下の通りです。
最も多い異常は、動脈硬化です。血管年齢という言葉があります。赤ちゃんの時は、一番、弾力性がある血管ですが、年齢を重ねるうちに硬くなっていきます。血管の内腔にドロドロのお粥のようなカス(粥腫)がこびりつき、狭窄や閉塞を起こすようになった状態が、動脈硬化です。古くなった水道管の内部にカスがたまるように、人間の血管の中にも知らない間にたまりができるわけです。
血管をきれいにするには
腸内環境をきれいにすると、血管はきれいになります。それには、食事や運動習慣が関係しています。
年を取ると、お腹が丸くなりがちです。そうすると、便が出にくくなります。食べたものが3日以内に排泄できれば、腸の中はきれいなはずです。腸の中をきれいに保てれば、大腸がんを防げるかもしれません。余分なものを体にため込まないことが大事です。
汗をかいて組織の老廃物をす
血管の外に出てしまった不要な物質を体外に出すのは、汗の役割です。汗は排泄機能をアップし、汗腺や皮脂腺からアンモニアや乳酸、尿素、老廃物などの体によくない要素が出ます。特に、疲れを増徴する乳酸などの疲労物質の排泄は大事です。乳酸は、尿からは出ないため、汗をかかないと体内の乳酸値が増え、疲れやすくなります。また、汗は脂肪に付着している有害物質を排出するデトックス効果があり、健康にも美容にも良い効果があります。
口腔内をきれいに
口腔内の環境は、感染症、肺炎、免疫能力、腸内環境に密接に関わっています。寝る前に口腔内をきれいにすることは、私たちが考えている以上に大切かもしれません。特に歯周病菌からの連鎖を口腔内で食い止めておくことが大事です。
一汁一菜の食事も、体のメンテナンスに役立ちます。週に一回だけでも一汁一菜の食事をとることで、かなりの効果が期待できます。
免疫機能を向上させる食べ物は、抗がん作用があります。レモンやはちみつ、にんにく、海藻類、きのこ類などがあります。これらにプラスして汗をかく運動をして、排泄もしっかりできたらいいでしょう。食べ物には、このほかにもさまざまな効果があります。
体幹筋の低下を防ごう
体幹を維持する筋肉(体幹筋=腸腰筋)は、姿勢を維持するために大切です。この筋力が低下してくると、背骨が変形して圧迫骨折などを引き起こす恐れが出てきます。体幹筋(腸腰筋)は、大腰筋と腸骨筋という二つの筋肉からできており、これらを鍛えることで、姿勢やバランスが良くなり、骨格の変形を防げます。
運動療法のポイント
運動療法の人気ベスト3は、速歩、散歩、体操ですが、運動の種類は、なんでも構いません。要は、じわっと汗が出る運動を行ってください。
- 理想は、有酸素運動:
歩行、サイクリング、ラジオ体操など。 - 息切れせず、汗ばむくらいの運動で:
「きつい」と感じない程度で、1回30~60分、週3回以上。 - 街中は無料の「ジム」:
街全体が「ジム」と考え、日常生活に運動を取り入れていきましょう。 - 万歩計をつけよう:
運動不足で鈍った体に活を!
一朝一夕の効果を期待しすぎず、これらを長く続けることが大切です。数カ月以上かかるかもしれませんが、ちょっとしたことでも続ければ体幹力が確実に向上します。
ストレスは避けられないが…
生きている以上、ストレスと無縁ではありません。問題は、その対処法です。最近は、「ストレスを前向きにとらえると、健康のもとになる」と言われます。前向きにとらえる方法の一つが、誰かのために行う行為です。自分のために行う趣味は、確かにストレスの軽減につながりますが、何かが戻ってくることはありません。しかし、他人のために行った行為は、必ず形を変えて戻ってきます。これが健康やストレス解消に大切な役割を担っています。
また、ストレスの緩和に役立つ方法は、呼吸です。体幹筋を鍛えて姿勢を保つことは、呼吸も支えています。運動、発声などで横隔膜を鍛えることで肺内を掃除できますし、酸素の取り込み不足も防げます。
日本人の場合、ストレス解消方法をアンケートすると、おいしいものを食べる、たくさん寝る、友人・知人に話すといった答えが多いのですが、体にいいことは、あまり入っていません。
アンチエイジングのツボ
以上をまとめると、血管の異常を防ぎ、食べ物・食べ方を工夫し、運動不足を防ぐことができれば、体のメンテナンスができてアンチエイジングにつながります。少食・粗食、菜食、長息(腹式呼吸でよく笑う)、筋トレ(よく働き、体を動かす)、生きがい(愛情深く、子だくさん)を心掛けることで、心身をメンテナンスし、病気になりにくい体を作りましょう。以下に「健康の黄金サイクル」をお示しします。このサイクルが維持できれば、血管もきれいになり、健康になります。
プロフィール
洛和会音羽病院
救命救急センター・京都ER
所長
安田 冬彦(やすだ ふゆひこ)
- 専門領域
心臓・大血管外科、外傷診療、救急初期診療 - 専門医認定・資格など
日本救急医学会認定医/専門医
日本外科学会認定医
日本胸部外科学会認定医
元心臓血管外科専門医
メディカルコントロール指導医師
京都大学医学部臨床教授
臨床研修指導医
CTAS指導医
JMAT隊員
AMAT隊員
航空身体検査医
災害医療コーディネーター
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