- 開催日:2017年4月6日
- 講師:洛和グループホーム山科小山 主席係長 介護福祉士 川嶋 真理子(かわしま まりこ)
はじめに
皆さんにとって、なじみの暮らしとは、どんな暮らしですか。なじみの関係、なじみの環境、なじみの物…何を思いますか? 家族? 自宅? ペット? 友達? 仕事のこと? 趣味を大切にした生活? 近所付き合い? でしょうか。こうしたなじみの暮らしを、もし、病気が原因で失うことになったら、どう感じられるでしょうか。その辺りのことを想像しながら、認知症について一緒に考えましょう。
認知症とは
※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。
認知症とは、加齢による物忘れではありません。加齢による物忘れとは、たとえば、「昨日のご飯、何食べたっけ?」という忘れ方。一方、認知症による物忘れとは、「私、まだご飯食べてない」と、食べたこと(エピソード)自体を忘れてしまうことです。認知症は、生活するうえで支障があるこうした状態が6カ月以上、継続している症状を指します。認知症は誰にでも起こりえる脳の病気で、85歳になると4人に1人に症状が出ると言われています。
認知症を引き起こす主な病気(4大認知症)
- アルツハイマー病:約50%。女性の方が多いです。進行は緩やかですが、徐々に神経細胞が減少し、周囲が認知症に気付いたときには、かなり進行してしまっていることも多いです。
- 脳血管性認知症:約15%。男性の方が多いです。発作を繰り返すたびに急激に認知症が進行します。周囲から気付かれることが多い認知症です。
- レビー小体型認知症:約15%。幻覚、妄想が現れます。パーキンソン病に似た歩行障害(小刻み、すり足歩行)が生じます。
- 前頭側頭型認知症:約5%。記憶障害は目立ちません。急に怒りっぽくなったり、人前で下着を脱いだり…と、人格の変化、社交性や自発性の低下が見られます。記憶障害が目立たないため、認知症とわかりにくく、周囲の理解を得にくい認知症です。
認知症と紛らわしい病気(抜粋) ⇒ 治療をすることで、症状が改善します。
- アルコール依存症:怒りっぽくなる、など。
- 慢性硬膜下血腫:記憶力の低下、言葉が出にくい、など。
- 正常圧水頭症:記憶がなくなったり、ふらつきが出る、など。
認知症の症状
認知症の症状は、中核症状と行動・心理症状に分かれます。中核症状は、認知症という病気本来の症状で、記憶障害、見当識障害、実行機能障害の3つです。このうち記憶障害は、新しいことが覚えられなくなるだけでなく、進行すると覚えていたことも忘れてしまいます。見当識障害は、時間を忘れる(夜中に「おはよう」と起きてくる、など)ことから始まり、やがて場所が分からなくなる(「家に帰る」と言う、など)、人が分からなくなる(娘に「お母さん」と言う、など)…の順番で進行します。理解力や判断力が低下して、何をしたいか分からなくなったり、テレビのリモコンの使い方が分からなくなるなどの実行機能障害が起きます。
これらの中核症状に、不安や不快感、身体不調、ストレスなどさまざまな要因が加わると、人によってさまざまな行動・心理症状(周辺症状)が出現します。行動・心理症状には、妄想や徘徊などがあります。
行動・心理症状は軽減できる
行動・心理症状は、その人の周りに理解を示し、支えてくれる人がいれば、軽減されます。私たち、介護者は、そのような支えの役割を担っています。認知症は脳の中で起こっているので見た目には分かりにくく、周りの人の理解も得にくいです。だからこそ、理解者が必要なのです。認知症を抱えた人は、何もできない人ではありません。感情も残っているし、できることもたくさんあるのです。
認知症を理解し、支えるとは
当事者にとって、「自分のことや自分の病気を理解してくれる人がいる、自分が慣れ親しんだ場所・自分の力が発揮できる場所がある」ことです。その原点は、地域にあります。なじみの関係や力の発揮できる場所があることは、認知症の症状の緩和にもつながります。「最近、よく忘れはるな…」など、周囲の人の気付きも、早期診断につながります。
地域でこんな場面に出会っても…なじみの人なら
- 自宅を忘れて、ウロウロ歩いていたら⇒知っている人が優しく声を掛けてくれる。
- お金を払うのを忘れる時もある⇒○○さんとこのおばあさんよね、と知っていたら、後でそっとお金をもらうこともできる。
- ウロウロするので、ずっと目が離せない(家族の気持ち)⇒近所の方が少し見ていてくれる、もし出歩いていても、声を掛けてくれる、と思えば安心できる。
近年は、認知症の当事者が講演会などで体験談を語る機会が増えました。「誰も病気や認知症になりたくてなったわけではない。それなのに、迷惑な存在として見られているうちに、居場所がなくなる」という悩みが多いです。迷惑な人としてではなく、なじみの人たちの力で、安心して暮らせるようにサポートしてほしい。「まずは、何に困っているか、どういう助けが必要か、聞いてほしい」と訴えておられます。
認知症は、脳の中で起こっているので、目に見えにくいため、理解されにくいのです。私たち介護者も、「脳の中をのぞけたらなー」と、日々思いながら、より良いサポートを目指しています。
グループホームのご紹介
地域の取り組み例のご紹介
- 認知症サポーター講座:全国で行われています。認知症への正しい理解を広める啓発活動で、受講者にはオレンジリングをお渡しして、認知症サポーターになっていただいています。
- わんわんパトロール:岩手県矢巾町で行われています。犬の散歩をする人たちが、認知症の方を見かけたら気軽に声をかける運動を進めています。
- 認知症地域支援行方不明探索訓練:以前は、徘徊模擬訓練と呼ばれていました。新潟県湯沢町をはじめ、全国各地で行われています。昨年12月には、宇治市でも行われました。
- 記事内にも徘徊という言葉が使われていますが、「徘徊という言葉は使わないでおこう」という取り組みもあります。
言葉が与えるイメージも気を付けたいところです。
地域で支えるためには、どうすればいいでしょうか。もちろん、皆さん自身の生活も大切です。また、なじみゆえに、言いにくいこともあるでしょう。そんなときは、地域包括支援センターやグループホームに相談に来てください。認知症介護の専門家がいますので、ご相談いただければ一緒に考えることもできます。
認知症予防のために…
- 頭の体操をしましょう:2つのことを同時に行う(例えば、ウオーキング+しりとり)などです。
- 脳梗塞などを予防しましょう:食生活の工夫や運動を心掛けましょう。
- 早期発見・早期受診を:症状の進行緩和に役立ちます。
(引用・参考文献 認知症キャラバンメイトテキスト/認知症ケア事例ジャーナル=2017年4月)
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