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医療 洛和会東寺南病院

四苦八苦 ~終わりよければすべてよし~

投稿日:2017年4月13日 更新日:

  • 開催日:2017年4月13日
  • 講師:洛和会東寺南病院 外科 名誉院長 医師 齋藤 信雄(さいとう のぶお)

はじめに

四苦八苦とは、人間の人生と言えるでしょう。病気であるか否かにかかわらず、日本人は現状に満足していないことが、幸福度調査などに表れています。本当は、こんなに安全で、いつでもだれでも医療が受けられる国は世界的にも珍しいのですがね…。本日は、そんな医療の現実も踏まえながら、「終わりよければすべてよし」否、「終わってしまえばすべてよし」と言えるような人生を送るには、どうしたらよいか、お話しします。

生命の誕生

※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。


地球に生命が誕生したのは、今から38億年前、海の底でのことでした。それ以前の地球の歴史を簡単に振り返ると、146億年前に、宇宙の誕生である「ビッグバン」が起き、46億年前には太陽系ができて地球が誕生し、40億年前には海ができるのです。海の底に誕生した原始生命は、環境の変化とともに海から地上に上がり、やがては人類の誕生につながります。

ところで生命とは何でしょうか。その最小単位は細胞です。細胞は、細胞膜という入れ物(境界膜)を持ち、自己複製ができ、自己維持ができ、進化できます。それらは、DNAという遺伝情報に基づいて行われます。地球上の生命は、すべて共通のDNA構造を持ち、生命の設計図が描かれています。DNAは、塩基(6個の炭素原子が亀の甲羅型にくっついています)と糖とリン酸でできたヌクレチドという物質のつながりですが、その数やタイプ、つながり方の違いによって、異なった生命体になるのです。
人間は、60兆個の細胞でできており(ちなみに細菌は1個の細胞だけ)、日々、入れ替わっています。1日に5,000億個の細胞が死に、5,000億個の細胞が新しく生まれています。

人類の進化

生命が、海から陸に上陸したのは4億年前です。その後、多様な生命が増殖や死滅を繰り返した後、1,500万年前に類人猿が誕生します。600万年前になると原人や旧人が現れ、やがて新人や現代人が誕生します。20万年前には、アフリカに起源をもつ新人が、アフリカを出て全世界に広がり、現代につながってきます。いま生きている人類はすべて、このアフリカに起源をもっています。

人口増と寿命の延長

日本は人口減少に転じましたが、世界全体では、急激な人口増が問題視されています。それに伴って、食糧問題やエネルギー問題など、多くの問題が浮かび上がっています。

寿命の延びも近年の特徴です。人類は、進化の過程でほぼ10歳から12歳の平均寿命だったのですが、文明の進歩で20万年かかって40歳、50歳へと延長してきました。18世紀に入って、産業革命やエネルギー革命などの影響で寿命もさらに延びました。それでも、第二次大戦後の日本人の平均寿命は50歳でしたが、その後の60年・70年の進歩で、30歳も延び、現在では80歳超に達しています。

長寿はめでたいことですが、半面、私たちの寿命の延びは、自然のままの動物としての寿命ではなく、現代文明がエネルギーを使って生み出したということもまた事実です。介護寿命の拡大です。超高齢社会が到来しているわが国で、介護が社会的な課題になっていることはご存じの通りです。国は、在宅で、在宅で…と言っていますが、核家族となっている日本社会で、本当に在宅でいけるのか、疑問ですね。

人としての 人の問題

いよいよ、本日のテーマである「四苦八苦…」に移ります。
四苦とは、生・老・病・死です。苦しみというよりは、ままならぬことを象徴しており、人生と言い換えることができます。人生の根本を考える、すなわち命を考えることが、生・老・病・死を考えることです。

この四苦に、以下の四苦を加えたのが八苦です。
愛別離苦・怨憎会苦・求不得苦・五蘊盛苦。

  1. 生:
    精子と卵子が受精して受精卵が子宮に着床します。1個の受精卵が細胞分裂を繰り返して人間になっていきます。妊娠4カ月後は人として認められ、受精後280日前後で出産します。
    誕生後、脳は1年間で倍の大きさになり、5歳で90%が出来上がり、12~16歳で完成します。体は脳より遅れて成長し、19~20歳で完成します。
    人類は、アフリカから出発した後、捕食者から種を保存するため、多産系に変化しました。1年で離乳し、次の妊娠を可能にします。しかし児の育ちが遅いため、共同保育が必要となりました。人間社会の原点は、家族です。共感にあふれた人々の輪の中で育った記憶や、見返りを求めずに自分に尽くしてくれた人々の記憶が、人間を形成していきます。食の共同という規範が人間の特徴で、共鳴集団の維持には、顔を合わせる、声を聞く、食事することが必要です。
    現代の通信革命と経済優先の社会は、家族の絆を解体する方向に向いています。わが国で問題となる少子化は、家族、共同社会の崩壊(豊かさ追求によるもの)といえます。
  2. 老:
    人間は、生まれるとともに老化へまっしぐらです。老化とは、細胞の機能が低下し、数が減少して臓器の機能が衰えていく、自然現象です。人は60兆個の細胞からできていますが、毎日1億個の細胞を失います。
    呼吸をし、食事をし、エネルギーを生み出し、肉体を維持していく営みは、物質の酸化、糖化であり、この過程ですべての部品はさびたり、水あかが付いたり、風化します。特に血管系には、不可逆的な変化が避けられません。活性酸素や放射線、紫外線、化学物質が遺伝子に影響しますし、病気やストレスも老化を促進します。
    生きがいや笑いは、老化を抑制します。
  3. 病:
    人類は、飢えと病に耐えて生き抜いてきました。ガリガリになっても生きられる体を作ってきたのが人間ですが、今日では飽食の時代の到来で、肥満が引き起こすさまざまな疾患がおきています。
    人の死に与える要因は、遺伝と環境が各20%、保健医療の仕組みが10%、生活習慣が50%とされ、生活習慣がいかに大きな影響力を持っているかを教えてくれます。がんは遺伝子の複製ミスによって生じる遺伝子病であり、生活習慣病で、肥満の人がなりやすい疾患です。

    健康寿命と平均寿命:両者の差は介護寿命とも言えますが、日本の場合、両者の差はずっと平行のままで、これは欧米では見られない状態です。というのは、欧米の場合、口から食べられなくなったら寿命が来たという考えなのに対し、日本では強制栄養で延命することが一般的だからです。それが長寿国・日本の実情ですが、諸外国から見ると例外的だということは、覚えておいてもいいのではないでしょうか。

  4. 死:
    死に導く疾患には、血管の老化や代謝変性疾患、がん、感染症、老衰、外因(事故など)があります。動物にとっての死は、自然現象で、食べられなくなったら死亡します。痛みや苦しみはないでしょう。
    しかし人間には、理不尽な苦しみがあります。こうだったらいいなという希望と現実とのギャップの苦しみ、生きる意味の消滅から生じる苦痛、スピリッチュアルペインというものがあります。
    死の態様もさまざまです。大往生から、PPK、NNK、孤独死、病院死、在宅死、屋外死、異常死、自然死、事故死、平穏死…。ちなみにPPKは、ピンピンコロリ、NNKはネンネンコロリです。
    自分の死を一回、想像してみてください。どんな死に方がいいのか、考えること、それを家族に伝えておくことはとても大事です。

終末期医療を考える

医療現場で、終末期医療について、特に延命治療について対応に苦慮することは珍しくありません。一般論でいえば、無理な延命処置はしてほしくないと思う人が多いと思いますが、実際に終末期となると、本人も、家族も心が揺れますし、意見の対立もあります。医療者の立場からは、本人や家族の明確な意思が確認されない限り、延命処置を取りやめることはできません。
どういう死を希望するか。尊厳死の宣言や、エンディングノートなどがあります。それらを用意しても、実際にはままならないこともありますが、邪魔だけはしないように言い置けます。

おわりに

私がこのお話で最も訴えたいのは、自分がどんな死に方をしたいのか、いっぺんよく考えてみることです。それを家族にも知らせておくことです。それは、人はなぜ生きるのか、何を残せるか、ということを考えるのと同じことです。動物の場合、生きる使命は何かといえば種の保存、gene遺伝子を残すこととなりましょうが、人間はそれ以外に「その人の存在、名を残す」という使命があるといわれます。meme意伝子と呼ばれています。

愛され、感謝され、評価され、頼られ、役立つ、必要とされ、存在を認められること、夢があり、自由があり、よき人間関係があること…これらがmemeにつながります。


プロフィール

洛和会東寺南病院
名誉院長
齋藤 信雄(さいとう のぶを)

  • 専門領域
    消化器外科
  • 専門医認定・資格など
    日本消化器病学会専門医
    日本外科学会認定医
    消化器がん外科治療認定医
    日本医師会認定産業医
    日本消化器病学会指導医

洛和会東寺南病院

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