- 開催日:2017年2月22日
- 講師:洛和会音羽リハビリテーション病院 在宅医療支援センター センター長 医師 谷口 洋貴(たにぐち ひろたか)
はじめに
本日は、私が洛和会音羽病院で携わった総合診療や救急医療、その後の訪問診療活動などの経験を通して、訪問診療や訪問看護・介護など在宅医療を取り巻く実情についてお話しします。
在宅医療とは?
※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。
読んで字のごとく、患者さまのお宅にて行う医療です。在宅医療には「訪問診療」と「往診」の2種類があります。医者が患者さま宅を訪問することは同じですが、この二つは全然意味が違います。
往診のスライド説明:「近年の往診は、訪問診療をしている患者さまに呼ばれて伺う往診がほとんどです」
訪問診療は「第3の医療」
「外来診療」「入院診療」のようにCT、MRIなどのすぐに精密検査! は無理ですが…。自宅・自室にあっての治療継続は、在宅における外来診療ともいえ、入院診療にはない大きなメリットがあります。また、定期的で、必要ならば頻回の医師の訪問、看護師の訪問は可能で、自宅にあって病院の機能(点滴や呼び出し対応)が維持できます。“自室を病室に、地域を究極の病棟に!”というわけです。
しかし、大病院の存在はもちろん必要です。病院には、CTやMRI、内視鏡などの、病院でしかできない検査があり、救急受診や緊急入院、予定入院、レスパイト入院なども大病院は担っています。誤解がないように申し上げますが、いったん在宅診療が始まると二度と病院にかかれない、というわけではないのです。訪問診療に伺って、やはり大病院に入院された方がいいと判断した場合は、大病院に紹介します。それでも訪問診療は基本的には患者さまとご家族を中心とした医療です。
訪問診療の対象患者さま
- 寝たきりの方が、まず対象になります。
それに準じた状態、またその方の居住環境、家族構成、地域の状態などで多少の違いはあります。(たとえば、家の階段がきつくて上がれないとか、症状が悪化していく場合など) - 疾患としては、「認知症で寝たきり」「脳卒中で寝たきり」「骨折など整形外科疾患で寝たきり」「神経難病(パーキンソン病、ALSなど)で寝たきり」「がん末期状態で寝たきり」などが該当します。
訪問診療と訪問看護
両者は車の両輪です。医師が定期的な訪問診療や往診、緊急時の対応などを行うのに対し、訪問看護師は医師の指示(訪問看護指示書)に基づいて患者さま宅を訪問し看護、お世話をします。定期訪問と緊急訪問があります(要契約)。医療保険の場合と、介護保険の場合があります(自費の訪問看護もありますが、全額自己負担となります)。
訪問看護師さんの具体的なお仕事は、
- 健康状態のチェック
- 日常生活の支援
- 心理的な支援
- 家族や介護者の相談・助言
- 医療的なケア
- 病状悪化の防止
- リハビリテーション
- 終末期の看護
- 認知症者の看護
- 精神障がい者の看護
- 重症心身障がい児者の看護
などがあります。
医療保険と介護保険
保険を使って訪問看護を利用するには、医療保険の場合と介護保険の場合があります。訪問診療は、基本的には医療保険で対応しています。訪問看護やヘルパー・デイサービスなどは介護保険です。
ところで、介護保険は、ご自身(もしくはご家族)が役所の窓口に出向いて申請しないといけません。代行してもらうことも可能ですので、詳しくは最寄りのヘルパーステーションや地域包括支援センター(高齢サポート)でお尋ねください。介護保険を利用した在宅支援は、訪問看護のほか、訪問介護(ホームヘルプサービス)、訪問リハビリテーション、訪問入浴、デイサービス(日帰り介護)、デイケア(日帰りリハビリテーション)、ショートステイ、福祉用具のレンタル・購入費の支給、住宅改修費の支給などがあります。
訪問診療導入について
訪問診療の導入は、まず、外来主治医が「外来通院が不可能」と判断して始まります。ケアマネジャーの判断で、主治医に相談がくることもあります。このほか、入院先の病院からお声が掛かったり、ご本人、ご家族、ヘルパー、訪問看護師からお声が掛かることもあります。
その後、訪問診療が必要か判断します。そのために病院からの診療情報や、ケアマネジャーなどからの日常生活や介護の情報を入手します。必要に応じて導入前カンファレンスを開催します。介護保険の手続きがまだの方には要介護認定の申請をしていただきます。
在宅で療養は可能なの?
本当に家で療養ができるのか、もし具合が悪くなったら…と思われる方も多いでしょう。でも、まずはご本人の「家に帰りたい」という気持ち、ご家族の「家に帰してあげたい」という強い気持ちが必要となります。
そうは言っても具合が悪くなったら?
「ご自宅を病室、地域を病棟」と考え、診療を行います。訪問看護師が病棟の看護師、在宅医が主治医として連携して診療に当たります。
状態が不安定になった方は、訪問回数を増やしたりして対応します。自宅に一度帰ったからと言って、もう入院できないというわけではありません。ご希望などがあれば手配します。
在宅看取りのポイント
- 患者さまに気を配るだけでなく、主介護者のご家族を中心に、ご家族の精神的苦痛・肉体的苦痛にも気を配る。サポートすること。(在宅看取りを実現させるには“ご家族”がポイント)
- 介護者さまがいつでもすぐ相談できるように、「窓口」は一本化しておく。訪問看護師さんに一本化するようにしています。
しかし、いつでも在宅看取りをやめて病院に移れる雰囲気は残しておく(こちらの押しつけ・強制にならないような配慮はしておく)
しかし、一番大事なことは
- 再度強調しますが、ご本人、ご家族の在宅診療への“前向きな”思い(語弊がある言い方かもしれませんが「能動的」「積極的」「協力的」になっていただく)
- 受け身では決してうまくいかないばかりか、トラブルなどを生むことがあります。
- もちろん、受動的であったが、在宅診療開始後に能動的になるようにもっていった、というケースもあります。
- ご自宅での診療・療養の続行は…経験と知識を持ち合わせた医師による訪問のみならず、訪問看護師、ほか薬局などとの連携で病院に準じた安心のケアサポートにより、在宅でも介護・看取りは、十分可能です。
ちょっと見方を変えてみましょう ~在宅医療の推進について~
こうした動きの根底には、やはり時代背景を見据えた「法」や「行政(体制や施策」」の整備があります。また、法や施策を生かすには「地域の連携」が不可欠と言われています。最近よく言われるようになった「地域包括ケアシステム」の整備がそれにあたります。
地域包括ケア構想の背景には、超高齢社会の現実があります。65歳以上の人は現在3,000万人を超えており(国民の4人に1人)、2042年の約3,900万人でピークを迎え、その後も75歳以上の人口割合は増加し続けることが予想されています。団塊の世代が75歳以上(国民の3人に1人)になる2025年以降は、国民の医療や介護の需要がさらに増加することが見込まれています。このため厚生労働省は2025年を目途に高齢者が可能な限り住み慣れた地域で自分らしい暮らしを最後まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進しています。そのためにも、“第3の医療”としての訪問診療が欠かせない存在となります。
まとめ
- 在宅診療には、「訪問診療」と「往診」があり、違うものです。
- 「訪問診療」と「訪問看護」は車の両輪です。訪問看護のない訪問診療は、できなくはないですが、不完全なものと思います。
- 訪問診療と訪問看護を中心に、さまざまなサービスと連携し、“チーム”を形成することにより、ご自宅での治療・療養は十分可能です。
- がん末期の治療(麻薬投与など)も可能です。看取りも可能です。
- 必要なら大病院への検査、救急受診、入院も可能です。
- こうした活動の根本は、国の施策がベースにあります。国の方針にのっとり医療も看護も介護も、利用者も安心して頼ることができます。
- 訪問診療で最も大切なことは、患者さまの「家に帰りたい」というお気持ちで、ご家族の「家に帰してあげたい」という思いです。そこには「2025年問題」があり、ご存じの医療経済の問題が大きく関わり、暗い影を落としている部分があるのも事実です。
質疑応答から
Q:訪問診療は費用面で一般の医療より高くつくのですか?
A:個々の患者さまによってお金が違ってくるので、高いか安いかはケースごとに異なります。入院が長引くようなケースでは、訪問診療の方が安くつくこともあります。また、在宅医療は身のたけの診療が基本ですので、経済的に苦しいケースの場合、ケアマネジャーと相談のうえで、訪問回数を減らすなどのアレンジができます。
プロフィール
洛和会音羽リハビリテーション病院 在宅医療支援センター
センター長
谷口 洋貴(たにぐち ひろたか)
- 専門医認定・資格など
日本内科学会認定専門医/指定医/認定医
日本救急医学会救急専門医
日本プライマリ・ケア連合学会認定指導医
日本医師会認定産業医
臨床研修指導医
臨床研修プログラム責任者
洛和会音羽リハビリテーション病院
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