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医療 洛和会東寺南病院

糖尿病の予防と治療

~歴史から最近の話題まで~

投稿日:2019年2月12日 更新日:


はじめに

糖尿病とは「糖」が「尿」の中に出てくる病態です。血液中の糖分が多く、尿の中に漏れている状態です。血液中の糖分の量を「血糖値」と言い、糖尿病では、その血糖値が高い状態が続きます。

糖尿病には、インスリンの分泌ができなくなって高血糖になる「1型糖尿病」と、過食や肥満、運動不足、加齢などが原因となる「2型糖尿病」があります。1型の場合は若年で発症し、すぐにインスリン治療が必要です。2型は、中年以降、徐々に発症します。

その他、遺伝子異常や他の臓器疾患による糖尿病、妊娠を契機に発症し、胎児に悪い影響を与える「妊娠糖尿病」があります。本日は、糖尿病の歴史や最近の話題についてお話しします。

血糖値の調整

血糖値の調整をしているのは、膵臓のランゲルハンス島から分泌される「インスリン」というホルモンです。インスリンは血液中の糖分を筋肉や肝臓、脂肪組織に取り込ませ、血糖値を下げる働きがあります。糖尿病では、このインスリンの働きに問題があり、血糖値が高い状態が続きます。

糖尿病の歴史は古い

人類と糖尿病の歴史は大変古いもので、紀元前1500年ごろの古代エジプト時代にさかのぼります。古代の紙であるパピルスに記録された当時の医学書には「尿が多く、喉の渇きが激しくなる病気」という記述があります。「多尿」「口渇」「多飲」という(現代でも通じる)糖尿病の特徴的な症状を指していると思われます。

日本でも、平安時代(西暦1000年頃)に、権勢をほしいままにしていた藤原道長の病状についての記録があります。「のどが渇く、尿がたくさん出る、視力が低下する」と道長をよく知る人物が書き留めています。これらも、糖尿病の病態の記録と考えられています。

※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。

科学的なメカニズムの解明進む

18世紀になり、糖尿病の科学的なメカニズムの解明が進みます。まず、糖尿病患者の尿の中に糖分が漏れていることが判明します。続いて、19世紀には膵臓の働きを調べていた研究者が犬の膵臓を摘出したところ、犬の尿が増え、尿の中から大量の糖が発見され、糖尿病を患ったことが確認されました。

インスリンの発見でノーベル賞

膵臓の中に血糖の上昇を抑える何かがある、という予測が広がる中で、時代は20世紀に移ります。1921年、カナダのトロント大学で研究をしていた開業医のバンティングと医学生のベストが、犬の膵臓から血糖を下げる物質の抽出に成功しました。

この物質は、「インスリン」と名付けられ、翌年には重症の糖尿病の少年に注射され、高血糖が劇的に改善しました。トロント大学にはインスリンを求めて患者が殺到し、翌年にはインスリンが商品として発売開始となりました。これにより、当時死に至る病気だった若年性糖尿病は治療できるようになり、こうした功績が認められ、バンティングは1923年にノーベル医学賞を受賞しました。

インスリンの改良進む

発売当初のインスリンは、短時間しか作用がなく、食事の度に注射が必要でした。また、注射器はガラス製で、注射するたびに煮沸消毒が必要で、非常に手間がかかる状態でした。自分で注射する患者の利便性のために、注射回数を減らすことができる長時間作用のあるインスリンの開発が進みます。

近年では、遺伝子工学によるインスリンの合成にも成功し、超速効型や特効型のインスリン開発が進んでいます。また、並行して、自己血糖測定器も進歩し、小型軽量化に成功しています。

糖尿病の検査について

糖尿病の治療の指標として、ヘモグロビンエーワンシー(HbA1c)という数値が使われています。過去1~2カ月の血糖値の平均を反映するものです。Hb(ヘモグロビン)は赤血球の中に含まれる赤い色素です。糖尿病患者のヘモグロビンには健康な人と比較して、Hbの一部であるHbA1cが増加していることがわかり、また血糖値との相関が強い事が判明し、この数値が使われるようになりました。

HbA1cは、1970年代後半から糖尿病治療の指標として使用が始まりましたが、日本の検査値は、米国の検査値とのズレが問題となり、2012年、日本の検査値を米国の標準値に合わせるための補正が行われました。

食事療法について

糖尿病における食事療法の重要性は広く知られていますが、食事療法の誕生は、古く19世紀のことです。1870年、フランスとプロシアが戦った普仏戦争のとき、パリがプロシア軍に包囲されて食糧不足に陥った際、糖尿病患者の病状が改善に向かったことがきっかけです。

こうしたことから、「食事を制限すると、糖尿病は良くなる」という考え方が広まりました。しかし、その後、インスリンの発見に伴って、食事は制限せずに、血糖が上がればインスリンで数値を下げればよいという自由食の考え方が出現し、一時混乱した時代がありましたが、現在では、やはり、糖尿病の改善には、カロリー制限が欠かせないという考え方に落ち着いています。

糖尿病治療薬の開発

インスリンの発見に遅れて、糖尿病の経口薬の開発が始まります。

1950年代ごろから、腸チフスの薬であるサルファ剤を改良した糖尿病薬が広く使われるようになりました。

また、中世ヨーロッパから知られる薬草に血糖を下げる効果があることがわかり、糖尿病薬として開発されます。一時、副作用の問題で販売が中止されたものの、その後は急速に普及しています。

共に、現在に至るまで50年以上にわたり長く使用されています。

このほか、アメリカ・アリゾナ州の砂漠にすむアメリカオオトカゲの唾液の中から発見された「インクレチン」という物質は血糖を下げる効果があり、糖尿病の薬として使用されるようになりました。めったに餌を食べず、食べるときには大量に食べるこのオオトカゲは、大食いした後の高血糖を抑えるために、この物質を持っていると考えられています。

これらのほかにも糖尿病治療薬はさまざまな種類があり、また、薬効がありながら実用に踏み切れていない新薬の開発は続いており、患者さんが安全に使える薬の開発は、これからも続いていくと思われます。

合併症を防ぐには

治療薬の進歩によって、糖尿病患者さんは長生きできるようになりました。半面、長年にわたり糖尿病を患っている患者さんは、血管障害による合併症が問題になってきました。腎機能障害、網膜症、神経障害などです。

では、合併症の原因は何でしょうか。高血糖が本当に合併症を引き起こすのか、1970年代まで決着がつかないままでした。高血糖を是正しても、合併症が減らないなら、血糖を下げる治療は無意味になるのではないか。こうした点が問題となり、米国や英国で、血糖値を良好な値に保てば、合併症は防げるかという大規模な臨床試験が行われました。結果は、血糖値を良好に保てば、合併症を抑制できるというものでした。

糖尿病の予防と改善には

糖尿病を予防するには、肥満の防止が重要です。肥満防止には、カロリー制限と運動療法が効果的です。また、内臓脂肪が増えれば、糖尿病が悪化する事が知られています。食事療法としては、動物性脂肪(肉類)を制限し、清涼飲料水などの単純糖質を控えることが大切です。野菜やきのこ、豆類など食物繊維を十分に摂る一方、間食を控え、適度な運動をし、禁酒や禁煙に努めることをお勧めします。

一方、糖質(炭水化物)を摂ると、食後の血糖が上昇することは古くから知られています。糖質制限とは、糖質を制限して、食後の血糖を改善する考え方で、短期的には減量効果が期待できます。しかし、長期的に続けていいのかという点に関しては不明な部分があります。糖質を減らした分、タンパク質や脂質の摂取が増えることが予想され、タンパク質を多く摂れば腎臓の負担になり、脂質を多く摂れば動脈硬化を招くことになります。

進歩を続ける治療技術

糖尿病の治療方法は進歩が続いています。皮下の組織間質液中の糖を24時間測定できる「持続血糖モニター」が開発され、インスリンを体内に注入するインスリンポンプの技術と組み合わせて、血糖値に応じて自動的に必要なインスリンを注入するというインスリン治療の完全な自動化が可能になりました。いわば「人工膵臓」とも呼べるものです。今のところ、日本では承認されていませんが、近い将来、完全に自動化したインスリン治療の時代が来ると思われます。

日本の糖尿病患者の平均HbA1cは改善傾向にあり、この10年で7.5から7.0程度になっています。糖尿病患者数は増加傾向を続けていますが、合併症の増加はやや減少しているという報告があります。いずれにせよ、食事療法や運動療法など、日常生活の中で行う治療の重要性に変わりはありません。


プロフィール

洛和会東寺南病院
副院長 内科
福永 康智(ふくなが やすとも)

  • 専門領域
    内科学、糖尿病・内分泌疾患
  • 専門医認定・資格など
    日本内科学会認定医/総合内科専門医
    日本内分泌学会専門医/評議員
    日本糖尿病学会専門医/指導医
    検診マンモグラフィー読影認定医

洛和会東寺南病院

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