- 開催日:2016年1月21日
- 講師:洛和会音羽リハビリテーション病院 放射線部 主席課長 診療放射線技師 林 浩二(はやし こうじ)
はじめに
エックス線は、今から120年前、レントゲン博士が発見しました。陰極線の研究をしていた際、何か見えない光が体を通り抜けて骨の写真ができることに気付き、その30年ほど後に、医療に利用され始めました。本日は放射線の概要や、病院での放射線検査と被ばく線量などについてご説明します。
正しく知りましょう
放射線は、目に見えません。においも音もなく、ましてや相当の量を浴びなければ、誰もがすぐ自覚できるような症状は体には起きません。福島原発事故の影響もあり、人々の根底には放射線に対する不安があると思いますが、皆さんの身近にある放射線について正しい知識を身に付ければ、いらぬ不安はなくなると思います。
放射線って何?
放射線の正体は、波長の短い電磁波や、高速で動く粒子でできています。自然界にも存在し(自然放射線)、地中に含まれる天然の放射性物質や、食物への蓄積分、宇宙から降り注ぐ宇宙線などがあります。これに対し、人工放射線には、エックス線などの医療機器や、過去の大気圏核実験や原発から漏れ出した放射線などがあります。
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放射線の性質
放射線には、
- 透過作用(物質を透過する)
- 電離作用(原子や分子から電子を放出させる)
- 蛍光作用(その物質に特有な波長の光を放出する)
- 感光作用(フィルムを感光させる)
- 減少作用(半減期がある)
という性質があります。これらの性質を利用して、胸部エックス線写真の撮影や放射線治療など、さまざまな医療に用います。
被ばくって何?
被ばくとは、放射線を浴びることです。被ばくすると、人体は放射線の影響を受けます。なぜ、放射線被ばくで障がいが起こるのでしょう。それは「電離」が関係しています。放射線が体内の水分に当たると、水分子が電離分解してフリーラジカルとよばれる物質ができます。これが遺伝子(DNA)を傷つけるのです。また、放射線そのものも、DNAを傷付けることがあります。
DNAの傷付く程度が軽ければ、生体の作用によって損傷は修復されます。しかし傷付く程度がひどい場合は、不完全な修復となったり修復できないということが起き、細胞が死滅したり突然変異を起こしたりするのです。
放射線と放射能
放射線は、放射性元素の崩壊によって放出される粒子線、電磁波です。放射性物質(ウランなど)が放射線を出す能力のことを「放射能」といいます。放射能の強さの単位は「ベクレル」といい、人が受ける放射線の影響の単位を「シーベルト」と呼びます。
ほかに、物質に吸収された放射線の量を表す「グレイ」という単位もあります。
これらをお酒に例えると、放射能(ベクレル)はアルコール度数に、吸収線量(グレイ)は血中アルコール濃度を、実効線量(シーベルト)はお酒でがんになって死ぬ危険度を示します。
放射線のリスクの評価
被ばくの量が多くなると、影響が起こる確率が高くなりますが、100~200ミリシーベルト以下のように被ばくが少ない場合は、ほかの発がんリスクのほうが高くなるため、放射線によってがんになったかどうかはわかりません。塩分のとりすぎや喫煙、野菜不足、多量飲酒(毎日2~3合以上)などは、発がんリスクが放射線と同程度かそれ以上高くなります。
病院での検査の被ばく線量
各検査の被ばく線量は、以下のとおりです。放射線診断は、検査の利益とリスクを比較し、利益が十分に上回る場合にだけ行います。
体内や自然放射能
私たち人間は、食物から必須ミネラルとして毎日カリウムをとっています。このため体重50kgの人なら、体重の0.2%にあたる100gのカリウムが体内にあり、そのうちの1万分の1の割合で放射能があって、年間0.14ミリシーベルトの被ばくをしています。でも、ほとんどの人は毎日元気に暮らしています。また、ラドン温泉のように放射線物質のラジウムが溶け込んだ温泉もあります。三朝温泉(ラドン温泉)の例では、がん死亡率が周辺地区や全国平均より低いという結果も出ています。
よくある質問
Q:これからエックス線の撮影があるのですが、被ばく量が心配です。
A:患者さまがどんな方なのかによって異なります。被ばく→体に悪い→大丈夫だろうか?との心配があるためでしょうが、答えは、「何に対して大丈夫か」によります。たとえば妊婦さんが、「生まれてくる子どもが奇形になるのでは」と心配される場合、答えは「100ミリシーベルト以下なら心配ありません」。一般の方が「がんになるのでは」と心配される場合なら、「200ミリシーベルト以下なら心配ありません」。このように、質問される患者さまの年齢や性別などによって、答えは異なります。
実際にあった悲しい出来事
ある妊婦さんは、胃の具合が悪くなったのですが、おなかの子どもに影響してはいけないと思い、出産してから検査を行ったところ、進行した胃がんが見つかったというケース。
また、別の妊婦さんで、妊娠しているのを知らずに胃のX線検査を受け、検査を受けたあとに妊娠を知って、「エックス線によって胎児が奇形になるのでは」などのことを恐れて中絶を選んでしまったケースが実際にありました。でも、本当は胎児に影響が出るほど放射線量も高くなく、中絶する必要はなかったのです。放射線に対する正しい知識をもっていただけていたら中絶しなくて済んだのにと、残念でなりません。
質疑応答から
Q:CTの線量は、撮る場所によって違うのですか?
A:頭のCTは、1回あた4ミリシーベルト。胸のCTは6.9ミリシーベルトです。
Q:造影剤を入れたCT検査の線量は?
A:造影剤を入れる前と入れた後の2回、撮りますので、線量は2倍になります。
Q:何回も撮ると、体内に放射線が蓄積されるのですか?
A:検査で使っているエックス線やガンマ線は、体を通り抜けるだけなので、蓄積されません。
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