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医療 洛和会音羽病院

物忘れと認知症

投稿日:2018年2月1日 更新日:


はじめに

本日は、神経内科の外来でよく聞かれる質問を例に、物忘れと認知症の違いや、認知症の予防に役立つ知識についてお話しします。

よくこんな方が外来に来られます

70歳代の女性。

「この前、友達との約束をすっかり忘れていて、電話があって思い出したんです」
「最近、人の名前や顔を覚えられません。テレビの人の顔は分かっても、名前が出てきません」

この方は、認知症でしょうか?
実は、判定はちょっと難しいのです。理由を説明していきましょう。

認知症とは

病気の定義としての「認知症」は、以下の通りです。

「一度発達した知能が、さまざまな原因で持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障を来たす状態」

発症の原因には、加齢に伴う脳の機能変化が関係しています。

脳と加齢 その1

「脳は減っていく」

年齢別の脳のMRI画像です。

※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。


3枚のMRI画像を見比べると、20歳の脳と比べて80歳の脳は、真ん中の黒い部分が増えていることが分かります。脳室にすき間があいていることを示しています。

実際に、20歳と比べ、80歳では脳が約15%減っています(重量比)。15%というと、ジュースや牛乳の紙パック(小)一つ分ぐらいです。

脳と加齢 その2

「脳に老廃物(加齢性構造物)が溜まる」

具体的には、神経原繊維変化や老人斑が脳細胞の中に溜まることで、脳の正常な機能を妨げます。
老人斑は、アルツハイマー型認知症の原因ではないかといわれていますが、断定までは至っていません。

脳と加齢 その3

「脳に傷が残る」

脳梗塞や脳出血などの病気を発症すると、脳の一部を損傷して脳に傷が残ります。
これ以外にも、糖尿病などで血流が悪くなる(虚血性変化)と、脳の機能変化をもたらします。

認知症と、加齢に伴う物忘れは、どう違う?

一般的には、以下のような違いがあります。

明確な線引きは難しい

認知症と、加齢に伴う物忘れの間には、明確な線引きが難しい場合も多いです。
どちらとも断定できないグレーゾーンは、軽度認知障害(MCI)と呼ばれます。
MCIは病名ではありませんが、MCIの人のうち10%程度が、年月の経過とともに認知症を発症するのではないかと言われています。

さて、最初の質問について考えてみましょう。

「忘れていた」という自覚がある点では、加齢による物忘れではないかと思えます。
ただ、明確な線引きは難しいことから、断定はできません。

どんな認知症がある?(種類)

認知症の種類別割合は、アルツハイマー型が60%、脳血管型が20%で、この2つが認知症の大半を占めています。このほか、レビー小体型や、その他となっています。

認知症の原因

以上の説明をもとに、認知症の原因を大まかに分けてみます。

原因2で示した疾患は、元々の病気を治したり、不足したものを補うことで改善の可能性があります。とはいえ、脳細胞が傷ついた結果、完全には元に戻らないこともあります。

認知症の症状は何? 何が困る?

認知症は、発症すると誰にでも起きる「中核症状」と、環境などに左右される「行動・心理症状」に大別されます。

認知症に関わるさまざまな社会的問題

認知症は、さまざまな社会的問題を引き起こすことがあります。認知症の方が車を運転して事故を起こしたケースや、徘徊中に事故にあうケース、孤独死、リフォーム詐欺などにあう消費者被害などです。道路交通法の改正で、認知症の人には運転免許証を発行しない措置も取られていますが、本人がそのこと自体を忘れてしまうため、無免許で運転して事故を起こすケースも報告されています。

介護者への影響も深刻です。本人だけでなく、家族の6割以上が介護疲れしているのが実情です。介護殺人や虐待死など悲劇の背景に、介護者の疲弊という問題が横たわっています。

認知症を予防するには

認知症の予防に向けて、世界中で調査や研究が進んでいます。それらに基づいた、根拠ある予防法は、以下のような危険因子を減らし、防御因子を増やすことです。テレビなどでは特定の食品やサプリメントが盛んに宣伝されていますが、はっきりした根拠をもとに認知症に効くことが実証された例はほぼありません。試すのは構わないと思いますが、高価なものはお勧めしません。

食事では、豆類や野菜、藻類、乳製品をよく食べる人は認知症が少ないとされています。
余暇活動は、個人によって好みが違いますが、新しい刺激が得られることが大切です。外出してそういう機会を増やすことも良いでしょう。
認知訓練は、本人が楽しんで参加している場合は積極的な効果があるようです。脳トレも同様ですが、嫌々やらされる場合はマイナスの効果の方が大きいです。

最後に

認知症は誰でも関わってくる可能性のある疾患です。
ご自身、ご家族の将来を含め、少しでも考えるきっかけとなれば幸いです。
気になる場合は、洛和会音羽リハビリテーション病院メモリークリニック(物忘れ外来)など、専門機関にご相談ください。その際は、かかりつけ医にまず相談して、紹介状を持参してください。どんな薬を飲んでいるかなどの情報がとても大切です。


プロフィール

洛和会音羽病院 神経内科
医長
内田 司(うちだ つかさ)

  • 専門医認定・資格など
    日本内科学会認定内科医
    日本神経学会専門医
    臨床研修指導医
    医学博士

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