- 開催日:2016年2月26日
- 講師:洛和会音羽病院 救命救急センター・京都ER 所長 医師 安田 冬彦(やすだ ふゆひこ)
はじめに
私の働いている洛和会音羽病院 救命救急センター・京都ERでは、年間に約6000台の救急車、3万人の救急患者さまを受け入れています。日ごろ治療にあたる中で、高齢者救急の原因と予防について、私が大切だと思うことをお話しします。
救急車の出動
※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。
日本の総人口は下り坂に入りましたが、救急車出動件数は増え続けています(最近10年間で約30%増)。京都市内でも昨年、8万1000件もの救急車出動要請がありました。こうした状況下で、現場到着の時間だけでなく、受け入れ先の病院が決まるまでの時間が延びています。救急車を要請しても、全て出払っていてすぐには応じられない恐れも現実のものとなっています。
高齢者の救急搬送
75~85歳の高齢者の救急搬送が多く、80歳代後半からは(総人口も減るため)搬送数としては減っています。ただし、重症度の割合でみると、高齢になるほど高くなり、入院率も高まります。
高齢者の急変した場所は?
自宅の居室・寝室が圧倒的に多く、続いて玄関や勝手口、廊下・縁側、トイレ・洗面所などです。家の外で事故にあう件数は、意外に少ないです。
高齢者に多い救急疾患
- 脳卒中や心筋梗塞→動脈硬化から
- 消化管出血→ストレスや消耗から
- 肺炎や尿路感染症→体力の低下から
- 骨折や坐骨神経痛→骨密度の低下から
いずれも元をたどれば同じような原因が考えられ、解決法は意外に単純かもしれません。動脈硬化は、例えてみれば下水管にゴミが詰まるような状況で、引き起こす病気は、脳卒中や心筋梗塞以外にもたくさんあります。詰まった血管をきれいにしてやることが大切です。ただ、この薬さえ飲めば大丈夫ということでは決してありません。
80歳代で脳動脈硬化ゼロの人も
動脈硬化は加齢とともに進みます。動脈硬化度ゼロの割合を調べると、10歳以下では100%です。10代や20代も90%前後が動脈硬化ゼロです。それが30代では75%となり、40代では47%、50代では27%、60代7.2%、70代5.8%となり、80代では2.4%にまで減ってしまいます。でも、80代で動脈硬化がない人がいることに注目してください。
高齢者の救急搬送事故と重傷度
高齢者が救急搬送される事故で圧倒的に多いのは「転ぶ」です。大事に至らない例も多いですが、中には重症例もあります。
よくある事例では
- 自宅でベッドからトイレに行こうとして転倒した(大腿部骨折)
- 自宅で敷物につまずいて転倒、腰を打った。翌日も痛かったので救急来院した(腰椎圧迫骨折)
- 自宅で掃除中、掃除機のホースにつまずき転倒した(手首を骨折)などです。
75歳以上の方が腰を打って搬送される場合、4人に1人は腰椎圧迫骨折しています。手術は必要ない場合が多いですが、回復には1カ月以上かかるため、その間、筋力の低下なども心配されます。高齢者にとって、転ばないことは大切です。
事故の頻度は低いけれど一番怖いのは、「おぼれる」です。救急搬送の時点で半数以上は心肺停止しています。おふろからいつまでも出てこないので見に行ったら、浴槽内に水没していた、散歩中に足を滑らせて川に転落した、などです。特におふろの安全は、これからの日本の大問題です。
転倒を防ぐには
高齢者が転倒する要因には、内的要因と外的要因があります。内的要因には、意識や歩行、視力、聴力に障害がある場合や、薬物の服用による影響などがあります。これらの内的要因は、転倒を防ぐための調整が可能なものもあります。
外的要因には、滑りやすい床、目の粗いじゅうたん、敷居や段差、照明の不良、家具の欠陥などがあります。
予防のためには、
- 玄関では、床との段差を少なくして、靴をはいたり脱いだりするためのベンチを置く
- 階段は、手すりを付け、踏み段にはすべり止めを付ける
- 浴室は、浴槽の縁は低くして、手すりをつける。床はすべりにくくする
- トイレは、廊下との段差をなくし、手すりをつける…などの対策が可能です。
ものが詰まる、誤嚥
お正月には毎年、もちを喉に詰まらせて意識をなくした方が救急搬送されてきます。実は、もちに限らず、ステーキやシイタケが詰まった例もあります。寝たきりの方では、おかゆ類が詰まって救急搬送されるケースが最多です。
食べ物が喉に詰まるのは、誤嚥のためです。のどの奥には、弁のようなものがあり、食べたものは食道へ、空気は肺へと送り込んでいますが、その機能が弱まって、食べたものの一部が気道に入ってしまうのが誤嚥です。気道がふさいがれてしまうと息ができずに死亡する恐れが強まります。何とか助かっても、誤嚥性肺炎になりやすいです。誤嚥は重症になりやすいことに注意して、前兆に気を付けましょう。
落ちる事故
以下のような事故で救急搬送されてくる例がよくあります。
- 飲酒後に駅のエスカレーターに乗っていて、誤って後ろ向きに転落。
- 脚立に乗って庭の柿の実をとっていて、バランスを崩して転落。
- 駅の階段を下っている際、足を滑らせて転落。
ロコチェックしよう
ロコモ(運動器症候群)の原因は、バランス能力や筋力の低下、関節の変形(変形性関節症)、脊柱管の狭窄、骨密度の低下(骨粗しょう症)などが考えられます。日本整形外科学会のホームページには、ロコモ度をチェックする方法が紹介されていますが、一番簡単な方法は、「片足立ちで靴下がはけるか」です。はけない人は、運動器(骨や関節、筋肉、神経など)が弱っている証拠です。しっかりロコトレすれば、年齢に関係なく筋肉や関節を鍛えることができます。
どうすれば、寝たきりにならない元気な体を維持できるのか
結論です。以下のことに注意して、毎日を送りましょう。
- 血管の大掃除ができているか:汗をかいて、水分を摂取すること。これが万病に効く方法です。
- 筋力と柔軟性の保持:運動と体操が効果をあげます。
- ストレスの発散:好きなことと、運動を組み合わせることです。
たったこれだけのことをするだけで、さまざまな病気を寄せ付けない体になります。努力なしに若さは維持できないことを肝に銘じて、元気な日々をすごしてください。
プロフィール
洛和会音羽病院
救急救命センター 京都ER 所長
安田 冬彦(やすだ ふゆひこ)
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- 専門領域
心臓・大血管外科、外傷診療、救急初期診療 - 専門医認定・資格など
日本救急医学会認定医/専門医
日本外科学会認定医
日本胸部外科学会認定医
元心臓血管外科専門医
メディカルコントロール指導医師
京都大学医学部臨床教授
臨床研修指導医
CTAS指導医
JMAT隊員
AMAT隊員
航空身体検査医
災害医療コーディネーター
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