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医療 洛和会音羽病院

脳梗塞の発症予防と発症時対応について

~賢く、素早く、身を守ろう~

投稿日:2018年6月27日 更新日:


はじめに

脳の血管が、血の塊によって詰まるのが脳梗塞です。脳内の細い血管が破れて出血を起こす脳出血、脳の表面部分で動脈のコブが破れて起きるクモ膜下出血と合わせた3つの病気が、私たち脳神経内科が扱う代表的な病気です。本日は、高齢者に多い脳梗塞について、その予防方法や治療についてお話をしたいと思います。特に、これから暑くなる夏場は脳梗塞が多発する季節です。日常生活での注意点などにも触れたいと考えています。

※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。

脳血管の疾病は、死因の第4位

我が国の死因を分析したところ、第1位は胃がんや膵臓がんなど悪性新生物でした(2014年の調査)。2位は心疾患、3位は肺炎で4位に脳梗塞や脳出血などの脳血管疾患が入っていました。一方、高齢者が寝たきりになる原因では、脳梗塞などを含む脳血管の病気である脳卒中が第1位でした。その数値は認知症で寝たきりになる人を大きく上回っており、脳血管の病気の怖さが分かります。

予防には危険因子を知ることから

脳梗塞の「梗塞」とは、「ものが詰まり、流れが通じなくなる」という意味です。脳梗塞では、血の塊が血管をふさいでしまい、そこから先に血液が流れなくなってしまいます。詰まってしまった先の細胞や組織は酸素や栄養を運んでもらえず、部分的に死んでしまい、脳は大きなダメージを受けてしまいます。脳梗塞を予防するには、まず病気の原因となる危険因子を知っておくことです。主な危険因子としては、高血圧と糖尿病、脂質異常症があります。高血圧を治療せず、放っておかない。糖尿病を患っている方なら、節制を続ける。中性脂肪や悪玉のコレステロールが多いと指摘された方は、食生活を改善する。たばこを吸う人は禁煙に努めるなど、人がそれぞれに持つ危険因子に対して対処することが大切です。

高血圧を放置しない

血圧が高い状態が続く高血圧症は、動脈硬化につながります。動脈硬化を起こせば、血管がダメージを受けて傷つきやすくなります。高血圧の原因は、加齢や肥満、塩分・アルコールの過剰摂取、親から子への遺伝因子、喫煙習慣、日々のストレス、運動不足などがあります。加齢と遺伝因子を除いては、自分自身でコントロールできるものばかりです。血圧管理の目安としては、若年者と中年は140~90mmHg未満、75歳以上で150~90mmHg未満です。糖尿病の患者さんは130~80mmHg未満です。ただ、高齢の方では個人差もありますので、主治医の先生と話し合って血圧目標を決めることが大事です。家庭用の血圧計を利用し、日々コントロールしましょう。

糖尿病について

血糖の管理そのものが脳梗塞を予防するかどうかは、明らかになっていません。血圧とコレステロールなどの脂質管理が重要です。糖尿病を患っている人では、コレステロールをより厳しく管理しましょう。

脂質異常症の方は

血液中の脂質は、脳血栓の原因である脳の血管を詰まらせる原因になります。血管内に中性脂肪やコレステロールがつくと、血管は詰まりやすく、もろくなります。脂質が増える原因は、肥満やストレス、アルコールの飲み過ぎなど、遺伝や生活習慣に基づくものです。治療には適切な薬剤(代表的なものはスタチン)や食事療法、1日30分以上、週に180分以上の「楽」から「ややきつい」運動をする運動療法が有効です。速歩や社交ダンス、水泳、自転車に乗ることが考えられます。

喫煙は危険、すぐ禁煙を

たばこを吸う人は、吸わない人に比べてはるかに脳梗塞で死亡する人が多いです。喫煙者には禁煙を勧めます。自分の喫煙だけでなく、周囲にいる人が喫煙することによる受動喫煙も脳卒中などの危険な要因になります。火の付いたたばこから立ち上る煙のほか、喫煙者が吐きだす煙も避けるようにしてください。

「心房細動」にはご用心

心房細動は、脈が乱れる不整脈の一種です。脈が飛ぶ、突然に脈が速くなる、動悸(どうき)がするなど、脈の動きの異常をいいます。心房細動は加齢に伴う不整脈で、高齢者に多い疾患です。80歳以上では約10人に1人の割合で症状があるといわれています。高齢者の場合、脳梗塞を発症する危険度が高まり、とくに70歳以上の人で、心房細動がある人は、ない人に比べると脳梗塞を発症する確率が約5倍も高いといわれています。具体的には、心房細動は心臓の部屋の一つである「心房」が小刻みに不規則に「けいれん」のように震えます。心房細動が起こることによって、心房内の血液がよどんで、心房内に血の塊(血栓)ができやすくなり、血液に流れます。この血栓が大動脈の流れに乗って、脳内に運ばれ、脳の血管を詰まらせると脳梗塞となります。

心房細動を早期に発見する

心房細動を早期に発見するには、自分で異常に気付くことが重要です。「自己検脈法」と呼ばれる検査方法が有効です。自分の手首の親指側の動脈に、反対の手の人差し指と中指、薬指を軽く当てるようにすると、トク、トクと血液が血管を流れるのが分かると思います。正常な状態では、脈拍は1分間に50回から100回くらいですが、140回以上や、規則正しいリズムでない場合は心房細動の可能性があります。

心房細動が認められたら

「自己検脈法」で心房細動ではないかと思ったら、すぐに病院で受診し、心電図検査を受けてください。心房細動が疑われる人のうち、脳梗塞を起こす危険性が高い人には、心房の中に血栓ができることを予防する薬(血をサラサラにする抗凝固薬)を使用した治療を始めます。脈の異常に気付いたら、一刻も早く医療機関で受診されるようお勧めします。

「夏場の脳梗塞」を防ごう

8月にかけての夏場は、脳梗塞を発症することの多い季節です。夏場は汗をかくことが多いため、体内が水分不足に陥り、血液がドロドロの状態になります。つまり、血栓ができやすいのです。寝汗をかいて脱水状態になることが多い睡眠中と朝の起床後2時間以内が要注意です。寝る前と起床時にコップ1杯の水を飲み、寝るときはクーラーを使って、室温や湿度を調整するのがよいでしょう。のどが渇いてなくても、こまめに水分を補給することが大切です。また、お酒の飲み過ぎには注意し、特に晩酌のビールは禁物です。

脳梗塞の徴候を知っておこう

脳梗塞は突然発症して、数分から数時間で急速に症状が進むため、素早い治療が必要です。そのためには、病気の兆候を知ることが欠かせません。徴候は「FAST」の言葉で覚えましょう。FACE(顔)、ARM(腕)、SPEECH(言葉)、TIME(時間)の頭文字です。脳梗塞の発作を起こした場合、片方の顔がゆがんでくる、腕が正しく上に上がらない、うまく言葉を話せないという前兆徴候があります。こうしたときには周囲の人も気付いてあげてください。このような症状が認められればすぐに119番通報し、救急車を呼んで専門治療を受ける必要があります。私が勤務する洛和会音羽病院では、24時間、いつでも脳卒中の専門医が院内に常駐しており対応しています。

おわりに

脳梗塞は原因が判明しています。また、高血圧や肥満、糖尿病、脂質異常症など、背景にあるものも分かっています。こうした生活習慣病を招く生活を改め、喫煙や大量飲酒などをやめることが重要です。脳梗塞などを予防し、寝たきりにならない、「元気な老後」を目指しましょう。


プロフィール

洛和会音羽病院 脳神経内科
部長
和田 裕子(わだ ゆうこ)

  • 専門領域
    脳神経内科全般、神経症候学、脳卒中、認知症
  • 専門医認定・資格など
    日本内科学会総合内科専門医/指導医
    日本神経学会専門医/指導医
    日本認知症学会専門医/指導医
    日本脳卒中学会認定専門医
    日本内科学会近畿支部評議員
    医学博士

洛和会音羽病院

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TEL:075(593)4111(代)

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