はじめに
世界の国々で高齢化が進んでいますが、日本は世界に類を見ない強烈な勢いで進んでいます。2007年に65歳以上の高齢者が全人口の21%になり、超高齢社会になりましたが、今は人口の4人に1人以上が65歳以上の高齢者です。増える高齢者を働き盛りの人たちが支える形になっています。
でも考えれば、元々、長生きできたらめでたいことなのです。歳をとっても、生きがいを持って元気ならば、本人にとっても家族など周囲にとっても喜ばしいことです。
今日は、健康寿命を延ばすにはどうしたらいいのかという話をします。
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ロコモって何?
健康寿命を延ばすためには、まずはロコモをチェックをしましょう。
ロコモとは「ロコモティブシンドローム」の略で、運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態です。進行すると、介護が必要になるリスクが高まります。
ロコモをどうチェックする?
次の7つの項目を点検してください。「ロコチェック」です。1つでも思い当たることがれば、健康長寿が黄色信号です。
- 片脚立ちで靴下がはけない
- 家の中でつまずいたり滑ったりする
- 階段を上るのに手すりが必要である
- 横断歩道を青信号で渡りきれない
- 15分ぐらい続けて歩けない
- 2kg程度の買い物をして持ち帰るのが困難である
- 家のやや重い仕事が困難である
ロコモは寝たきりにつながる
ロコモでは、筋肉、神経、脊髄・脊椎、骨・関節という体を動かす為に必要な運動器の障害です。障害が生じると、移動機能が低下します。動けないとさらに筋肉が落ちますので、寝たきりにつながっていきます。
介護保険の要支援、要介護の対象者でも、ロコモの人が大きな比率を占めています。
ロコモの原因は?
- バランス能力の低下
- 筋力の低下
- 骨や関節の病気
という3つが大きく影響します。
おもな骨や関節の病気としては、骨粗しょう症、変形性膝関節症、変形性脊椎症・腰部脊柱管狭窄症などがあります。
骨粗しょう症とはどんな病気?
骨粗しょう症は、骨強度の低下が特徴で、骨折のリスクが増大する病気です。上腕骨や大たい骨の近くや椎骨などが骨折しやすく、1カ所折れると次々に骨折する人が多いです。
治療の必要な1,300万人のうち1,000万人が女性です。
骨折すると寝たきりになりやすく、その後の死亡率がどんどん高くなります。
どう骨折を予防するか
骨折の予防対策は
- 骨を強くする
- 転びにくい体づくりをする
の2点です。
そのために、よい生活習慣を身に付けることがまず大切です。適度な運動や日光浴、食事(カルシウムなどの摂取)が大切です。運動は散歩など、日光浴は明るい光に1日30分程度当たってください。
一方、悪い生活習慣にも気をつけてください。極端なダイエットやタバコ、過度な飲酒、過労、家への閉じこもりなどです。しかし、骨粗しょう症と診断されれば薬による治療が必要です。
変形性膝関節症とはどんな病気?
不安定なガニ股で歩いている人がいますね。変形症膝関節症に見られる症状です。
起立動作が痛く、正座ができません。膝関節の痛み、不安定性、可動域制限といった移動能力の障害が生じます。
痛みのある人が約1,000万人、レントゲンで異常がある人は3,000万人にのぼります。50歳以上では女性の患者が男性よりも1.5~2倍になっています。
治療法は次の3つに分けられます。
- 薬物療法=外用薬(湿布薬、軟膏)内服薬(消炎鎮痛薬)関節内注射(ヒアルロン酸など)
- 理学療法=大腿四頭筋強化訓練、関節可動域改善訓練、装具療法、温熱療法など
- (それでも治らない場合は)手術=関節鏡手術、高位脛骨骨切り術、人工膝関節置換術など
変形性腰椎症と腰部脊柱管狭窄症という病気も多い
変形性腰椎症は椎間板が変形する病気で、症状のある人が約1,000万人、レントゲンで異常のある人が3,300万人います。
腰部脊柱管狭窄症は、神経の通っている脊柱管が狭くなる病気です。歩くとだんだん脚が痛くなってきます。内視鏡など侵襲の少ない手術では翌日から歩くことができます。足が動かしにくい、尿が出づらいなどの症状のある人は、できるだけ急いで整形外科で相談してください。
ロコモ対策は運動が大切
宇宙飛行士は無重力の中で荷重がかからない生活をするため、毎週筋肉が0.5~1%減少します。骨も毎月1~1.5%減少し、通常の骨粗しょう症の10倍のスピードです。宇宙に6カ月滞在すると、骨が約10%減少し、回復するのに3~4年かかります。
無重力とは運動の負荷がかかっていない状態です。
こういった例からも骨や筋肉という運動器を健康に保つには、荷重をかける運動が大切なのが分かります。
ロコモだけでなく、メタボや認知症対策でも、共通して運動が大切です。
アクティブガイドとは
厚生労働省は、健康づくりのための身体活動指針として「アクティブガイド」をまとめています。
このガイドは「+10(プラス・テン)で健康寿命を延ばしましょう」をスローガンとし、普段から元気に体を動かすことで糖尿病、心臓病、脳卒中、がん、ロコモ、うつ認知症などになるリスクを下げることができると呼び掛けています。
アクティブガイドでは何をするの?
18~64歳の人は1日60分、元気に体を動かしましょう。歩けばいいのです。65歳以上の人は1日40分、歩きましょう。
「+10」というのは、今より10分でも多くという意味です。単に歩くだけでなく、筋肉トレーニングやスポーツなどが含まれていれば一層効果的です。
「ロコトレ」をやりましょう
「ロコトレ」とは「ロコモーショントレーニング」です。
「開脚片脚立ち」と「スクワット」の2種類あります。
「開脚片脚立ち」はバランス能力がつき、倒れなくなります。1分間を1日に3回やってください。
「スクワット」はお尻を後ろに突き出すようにして膝を曲げ5~6回、1日に3回やります。皆さん実際にやってみましょう。
ロコモに負けず健康寿命を延ばしましょう。そのためには運動習慣が大切です。そして病気があればきちんと治してください。
プロフィール
洛和会音羽リハビリテーション病院
副院長・リハビリテーションセンター センター長
京都府立医科大学 臨床教授
堀井 基行(ほりい もとゆき)
- 専門医認定・資格など
日本リハビリテーション医学会認定臨床医/専門医/指導医
日本整形外科学会専門医/指導医/スポーツ医/リウマチ医
日本整形外科学会研修指導者
日本骨粗鬆症学会認定医
義肢装具等適合判定医
日本リハビリテーション医学会 代議員
日本リハビリテーション医学会 近畿地方会幹事
京都リハビリテーション医学研究会 理事
中部日本整形外科・災害外科学会 評議員
洛和会音羽リハビリテーション病院
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