- 開催日:2016年5月31日
- 講師:洛和会音羽病院 アイセンター 所長 栗山 晶治(くりやま しょうじ)
はじめに
目の老化は、体の他の部分と同様、誰にも避けることができない現象です。本日は、さまざまな目の老化について、その仕組みや治療法についてお話ししますが、患者さまがご自分の老化をどうとらえるかも、治療法の選択に大きく関係しています。
眼球の構造と老化
目の前の物や景色が見えるということは、眼球を構成する角膜や水晶体、硝子体、網膜、視神経などが機能しあって可能にしています。老化に伴い、各部に変性が起きると、さまざまな目の病気が発生しますが、必ずしも病気とは言い切れない変化もあります。
老化に伴って発症する目の病気には、老視や緑内障、白内障、網膜剥離、黄斑疾患(黄斑円孔、黄斑上膜、黄斑浮腫、加齢黄斑変性)があります。このうち、明白な病気といえるのは、網膜剥離と黄斑疾患です。老視や白内障は、誰にでも起こる変化で、病気と呼ぶにはちゅうちょされます。緑内障は微妙、といったところです。
老視
水晶体の弾力が弱まり、網膜にうまく像が結ばなくなります。毛様体筋の筋力が低下するためですが、40歳を過ぎると誰でもなります。近視の人は焦点が合うようになるため、自覚しにくいですが、調整力が衰えることに変わりはありません。10歳代と比べると、調整力は40歳では4割に衰えます。
※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。
症状:40歳代くらいから、徐々に近くを見る作業の時に眼が疲れるなどの不快感を感じ始める。遠方のものに焦点が合うことの多い遠視では、老眼の症状をより早く自覚することが多いです。
治療:近用眼鏡(老眼鏡)を使用。
老眼鏡には①近用専用の眼鏡 ②二重焦点レンズ ③中間距離もみえるようにした三重焦点レンズ ④多重累進焦点レンズがあります。どれが良いかは、個人個人の選択です。どれが良いと決めることはできません。
緑内障
目の中では、防水という水分が毛様体で作られ、隅角という個所から外部に出る仕組みになっています。この出口が詰まったり閉じたりすると、水分が排出されないために眼圧が高まり、視野欠損などの障害が起こります。昔は、「緑内障とは眼圧が高い病気」と考えられていました。しかし実際の患者さまの半数以上は、眼圧は正常です。現在、緑内障は「視神経が委縮する病気」と考えられています。
症状:見える範囲(視野)が狭くなる症状が最も一般的。初期は視野障害があっても全く自覚しないことがほとんどです。多くの場合、病気の進行は緩やかなので、かなり進行するまで症状に気付かないことが多い。視野障害が進行した場合は、視力が低下し、場合によっては失明することさえあります。急激に眼圧が上昇した場合は眼痛・充血・目のかすみのほか、頭痛や吐き気を自覚することもあります。
治療:①薬物療法(眼圧を下げる目薬を点眼)②レーザー治療 ③手術(繊維柱帯切除術)
近年、緑内障の治療は、手術法も点眼薬も進化しています。眼圧を下げる良い薬も出ていて、この薬は正常眼圧緑内障にも効果があります。これらの結果、手術をしなくても薬だけで緑内障の進行を抑えられる場合が増えました。失明せずに寿命を全うできればいいということなら、目薬だけで大丈夫なケースが増えています。緑内障が病気と言い切れるか、微妙、というのはそういう意味です。
白内障
水晶体が濁ることで起こります。水晶体のどこが濁るかによって、症状が異なります。周辺部から濁る皮質白内障では、視力低下が起こります。水晶体の後ろ側が濁る後嚢下白内障では、視野がかすんだりまぶしく感じます。中央の核から濁る核白内障では、視野が暗くなります。
白内障の治療は手術です。手術では、水晶体を覆っている袋(水晶体嚢)を小切開し、超音波を使って中の水晶体を摘出し、水晶体嚢の中に眼内レンズを挿入します。手術する人がとても多い白内障ですが、決して簡単な手術ではありません。手術後の合併症として、約2割の人に後発白内障が起きますがレーザーで治せます。このほか、非常にまれではありますが、網膜剥離や術後感染性眼内炎が起こり得ます。
眼内レンズの種類
①単焦点レンズ保険が効きます。いくつかの種類があります。
②多焦点レンズ(保険外診療)最近、希望者が増えてきました。洛和会音羽病院 アイセンターでは、先進医療特約の適用施設となる準備を進めており、認可されれば民間保険の先進医療特約に加入している方は、それを使えます。ただ、誰にでも勧められるわけではありません。診察、相談の上で決めることになります。
③乱視矯正レンズ
④有水晶体眼レンズ
網膜剥離
眼球は、硝子体と呼ばれるゼリー状の液体が詰まっていますが、この硝子体の一部が老化のため溶けると、飛蚊症(ひぶんしょう)とよばれる症状が出ます。お風呂につかって水面を見ると、糸くずのようなものが見えるのが飛蚊症で、浮遊物の見え方にもさまざまな形があります。
硝子体が溶ける際、周囲を覆っている網膜を傷つけることがあります。出血したり、網膜の一部に穴が開いたり、網膜がはがれてしまう(網膜剥離)こともあります。穴が小さければ、レーザーで治療(光凝固)できますが、はがれてしまうと、手術しか治す方法がありません。
黄斑疾患
眼底にある黄斑という場所が、老化で悪くなる病気です。黄斑疾患には、景色の一部がゆがんで見える変視症や、一部が黒く見える中心暗点があります。診断は、アムスラーチャートで確認できます。
1.黄斑円孔:黄斑の真ん中に穴が開く。治療法は硝子体手術で穴をふさぎます。
2.黄斑上膜:黄斑に膜がはる。治療法は硝子体手術で膜を取ってやります。
3.黄斑浮腫:黄斑に水がたまる。糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症などが原因で起こる。治療法には、ステロイド注射や硝子体手術、レーザー治療、薬物療法があるが、決定的な治療法はありません。
4.加齢黄斑変性:黄斑が委縮したり血がにじんでくる。治療法にはレーザー光凝固や硝子体手術、薬物療法(抗VEGF抗体)などがあります。現在は薬物療法がほとんどです。研究段階ではiPS細胞を使った再生治療が始まりましたが、まだ10年以上はかかります。
まとめ
目の老化がもたらす状態と対応法は、以下のとおりです。
1.老視:眼鏡などで対応できます。
2.緑内障:治癒は困難ですが、薬で進行を抑えられるケースが増えました。決定的な予防法はありませんが、一般の内科的対応と同様、血液の循環をよくするための規則正しい生活や適度の運動などをお勧めします。
3.白内障:手術で治ります。
4.網膜剥離:手術で治ります。
5.黄斑疾患:黄斑円孔と黄斑上膜は手術で治ります。黄斑浮腫と加齢黄斑変性は、なかなか治癒が難しい疾患です。
プロフィール
洛和会音羽病院 アイセンター
所長
栗山 晶治(くりやま しょうじ)
- 専門領域
網膜硝子体疾患、白内障 - 専門医認定・資格など
日本眼科学会専門医/指導医
臨床研修指導医
京都大学医学部臨床教授
医学博士(京都大学)
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