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医療 洛和会音羽病院

下肢静脈瘤のおはなし ~診断と治療の最前線~

投稿日:2016年10月19日 更新日:


はじめに

足の血管がボコボコ膨れていたり、浮き出て見える。足がむくむ、重い、疲れる。寝ている間にこむら返り(足がつる)になる。皮膚が黒ずんでいる…こんな症状はありませんか? こういうケースは、下肢静脈瘤かもしれません。

下肢静脈瘤の原因は?

足の静脈は、主に深部静脈、伏在静脈、穿通枝(せんつうし)に分かれます。深部静脈は、深い(内側)場所にあって、足の静脈血のほとんどを心臓に送り出しています。伏在静脈は、浅い部分にあり、静脈瘤になるのはこの静脈です。穿通枝は、深部静脈と伏在静脈をつなぐバイパスです。足先から心臓まで静脈血を送り返すのに重要な働きをしているのが、100個以上ある「弁」と、ふくらはぎの筋肉です。この「弁」がきちんと閉じなくなり、血液が逆流する病気が下肢静脈瘤です。

※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。

静脈瘤の発生率は、大伏在系の逆流が約8割、小伏在系は約2割です。

下肢静脈瘤の種類

下肢静脈瘤には、以下のような種類があります。

  1. 伏在静脈瘤
    足の表面近くにある静脈のうち、本幹となる太い血管である伏在静脈がこぶのように拡張した状態です。
  2. 側枝静脈瘤
    伏在静脈より枝分かれした、さらに先の部分が拡張してきたものです。比較的、膝から下に見られます。
  3. 網目状静脈瘤
    径2~3ミリの、皮膚の真下の小さな静脈の拡張で、網の目状の広がりを示します。比較的鮮明な青色となります。
  4. クモの巣状静脈瘤
    皮膚の表面(表皮)の下の、径0.1~1.0ミリの極めて細い血管が拡張したものです。盛り上がりが少なく赤紫色になります。

このうち、1.と2.の静脈瘤は、重症化する恐れがあるので、手術を考えた方がいいでしょう。3.と4.は、美容上の問題はありますが重症化はまずしません。弾性ストッキング着用や硬化療法で対応します。

どんな方にできやすいの?

家族に静脈瘤がある方や、立ち仕事に従事する方(調理師、美容師、理容師)、女性に多いです。女性は妊娠、出産をきっかけにできやすく、特に2度目の妊娠でできる方が多いです。出産後軽快する人も多いです。

静脈瘤を放っておくと…

静脈瘤が進行すると、痛みやだるさが出てきます。このような状態になると、いずれ皮膚炎が起き、潰瘍になってしまうことがあります。


赤かった皮膚の盛り上がり(左)が、進行すると右のように黒ずんできます。こうなると、元の白さに戻すのは無理になります。このような状態になる前に、急いで外来を受診してください。

下肢静脈瘤の診断は

診断は、エコー検査でほとんどが分かります。さらに、1割以下の患者さまには下肢静脈造影やCT検査も行います。実際の治療に際しては、血液検査なども行い、他に病気がないかも確認します。

どんな治療があるの?

以下のような治療法があります。静脈瘤のタイプや病態により、治療法を選択します。

下肢除脈流の手術治療

手術による治療には、以下のようなものがあります。

ストリッピング術(静脈除去術)

100年以上前から行われてきたスタンダード治療で、昨年までは国内でも一番多い手術でした。ストリッパーという器具を足に挿入し、静脈瘤を生んでいる静脈を、引き抜いてしまう手術です。

高位結紮(けっさつ)術

ストリッピング手術の簡易法です。エコーで逆流の見つかった静脈部位を結紮(糸でくくって)切離(きりはなす)します。

静脈切除術

ストリッピング手術やレーザー手術で処理できない蛇行した小さな静脈瘤をとる方法です。単独ではあまり行いません。

下肢静脈瘤の新しい治療法

血管内にレーザーファイバーを挿入して、静脈瘤をレーザーで焼く手術法(血管内レーザー焼灼(しょうしゃく)術)です。ラジオ波で焼くラジオ波焼灼術もあります。どちらも保険適用されています。レーザーの温度を70°以上にすると、数ミリ先の血管内でタンパク質の変性が起き、血管がふさがって逆流を止めることで静脈瘤をなくせます。傷が小さくて済み、日帰りが可能、早期社会復帰が可能で、近年はこの方法が多用されるようになりました。洛和会音羽病院では最新型のレーザー治療装置を用いて、手術をしています。

手術は

  1. 超音波エコーで手術をスムーズに実施するために足に目印をつけ
  2. 局所麻酔をして光ファイバーを入れるためのガイドワイヤーやシース(管)を血管内に入れ
  3. 痛みとやけどを抑えるための麻酔液を血管の周りに200~300cc程度注入し
  4. レーザーを照射して血管内を焼き(5分程度)
  5. 超音波カラードプラで焼灼した静脈の閉塞状態の確認などを行い、手技を終了します。

手術時間は、通常40~50分、長くても1時間で終わります。術後は、穿刺(せんし)部の処置を行い、圧迫包帯・弾性ストッキングの着用をします。その後は、定期的な超音波検査で症状を確認します。100人中、99人までは異常が出ていません。

レーザー治療のメリット

  • ストリッピング手術(標準的な根治術)と同等の治療効果が得られる。
  • 日帰り手術が可能。
  • 早期に社会復帰が可能。(術後1~2日)
  • 手術の傷あとがあまり残らない。

皮膚炎が進んでしまったら…

下肢静脈瘤が悪化してただれた足が黒ずむほどに進んでしまった場合は、簡単には治りません。でもあきらめる必要はありません。全身麻酔の下で、内視鏡を使い、少し遠くから潰瘍の下にある悪い静脈を処置する「内視鏡下筋膜下穿通枝手術」という方法があります。2014年4月から保険適用となり、関西では洛和会音羽病院や京都第二赤十字病院などで治療を行っています。手術の翌日には帰れます。

よくある質問をいくつか

Q 静脈瘤に効く飲み薬はあるの?
A ありません。

Q 一番安全な治療法はどれ?
A 症状は人それぞれなので、一概には言えません。7~8割はレーザー向きですが、医師とよく相談してください。

Q 手術は入院しなければならないの?
A 日帰りでできる場合もあります。

Q 足が冷えやすいのですが、静脈瘤でしょうか?
A 一般に、動脈の流れが悪くなると足が冷えます。静脈瘤の患者さまの足は熱を持っています。足の冷えは静脈瘤を治療しても治りません。

Q レーザー治療は保険が効きますか?
A 2011年より保険適用されました。機器が保険対応である限り保険で治療できます。個人負担は、3割負担の場合で、通常の手術なら45,000円前後です。

Q 歩くと足が痛くなって歩けません。静脈瘤でしょうか?
A 特殊な静脈瘤以外で、痛くて歩けなくなるケースはほとんどありません。整形外科的疾患(変形性膝関節症、変形性腰椎症、脊椎管狭窄症)や動脈性疾患(閉塞性動脈硬化症)など、他の病気が隠れていることがあります。

Q 静脈瘤は放っておけば肺塞栓症になるのですぐ手術しないといけないと言われましたが?
A まれに肺塞栓を起こすことがありますが、むしろ下肢静脈瘤治療をしている際の方が要注意です。

Q 静脈瘤の硬化療法は何度しても大丈夫ですか?
A 通常、片足に硬化療法する回数は1~3回程度です。

Q 母が静脈瘤だったので、遺伝で私もなるのでしょうか?
A 下肢静脈瘤は生活習慣に関係がある病気です。お母様と同じ生活習慣だと、なりやすいことはありますが、必ずしも遺伝するわけではありません。

日常生活の注意点

  • 長時間じっと立つことを避け、足踏みしたり歩いたりしましょう。
  • 足がだるくなったら、短時間でも横になり、足を心臓より高くして休息しましょう。
  • 夜寝るときはクッションなどで足を高くして寝ましょう。
  • 弾性ストッキングを正しく着用しましょう。履いたり履かなかったりでは、効果がありません。
  • ささいな傷が色素沈着・潰瘍の原因になります。足を清潔に保ちましょう。
  • 体重を適正に保ちましょう。

下肢静脈瘤? と思って受診する場合は

  • かかりつけの先生がいれば、紹介状をお持ちください。(お薬手帳は持って行きましょう)
  • 受診が不安なら、誰かについてもらってもいいかもしれません。
  • 弾性ストッキングをお持ちなら、持ってきてください。できれば、はいてきてください。

プロフィール

洛和会音羽病院
脈管外科 部長
武田 亮二(たけだ りょうじ)

  • 専門領域
    消化器外科(肝臓)、内視鏡外科(消化器系一般、胃・大腸)、脈管外科(主に下肢静脈疾患)
  • 専門医認定・資格など
    日本外科学会認定医/外科専門医
    日本静脈学会評議員

洛和会音羽病院

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