- 開催日:2018年1月25日
- 講師:洛和会入居相談センター 課長 社会福祉士 明石 理之(あかし まさゆき)
はじめに
医療ソーシャルワーカーとして11年間、病院で患者さまの退院援助や施設入所などのお手伝いをしてきました。本日は、その経験も交えながら、昨今の医療・介護情報や、「困ったとき」とはどんなときか、困らないための秘策は…などについてお話しします。
昨今の医療・介護情勢
昨今の医療や介護情勢は、以前とは大きく異なっています。ご自分や知人が病気で入院した際、入院期間が非常に短くなり、早い段階で退院や転院を促される経験をした方は多いのではないでしょうか。それには、国の医療・介護政策が大きく関わっています。
背景には、「できることなら自宅で最期を迎えたい」という国民が多いことがあります。実際には病院で死を迎える人が大半ですが、国は多くの国民の望む「在宅」に、医療・介護の重点を移していこうとしているわけです。高齢化の進展で、増え続ける病人を病院だけでは支えきれない事情もあります。「治す医療」から「治し、支える医療」への転換です。
「医療や介護が必要な状態になっても、できる限り住み慣れた地域で安心して生活を継続し、尊厳をもって人生の最後を迎えることができるようにしていく」(国の専門家会議の資料=2015年6月より)
そのために進められている医療政策が「病院の機能分化」と「在宅復帰率の向上」です。
病院の機能分化って?
病気で入院した場合、治療の流れは、急性期治療→回復期治療→維持期治療となります。急性期には救急治療のようにすぐ必要な治療が、回復期には体力や体の機能を取り戻す治療が、維持期には回復した体の機能を維持する治療が行われます。
従来は、これらの治療をすべて行ってきた病院(ケアミックス型と言います)が大半でした。現在、国はこれら3つの機能ごとに病院を分けていく政策を取り、医療・介護の効率化を図っています。
※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。
在宅復帰率って?
在宅復帰率とは、病院や施設から退院・退所する人の中で、在宅に帰る人の割合をさします。国は一定の指標を示して達成を促し、達成したら加算(収入増)をあげよう、と誘導しています。
ただし、在宅と言っても「自宅」には限定していません。自宅に準ずる場所ならOKです。具体的には、後述する高齢者向けの施設が自宅に準ずる場所として「在宅」とされています。
高齢化の進展と医療・介護事情
日本は超高齢時代の進展に伴い、高齢者人口の比率が高まっています。逆に言えば、20歳~64歳の生産年齢人口(税金を納める世代)の比率が低下しています。その結果、国の財政に占める社会保障費の割合が高まり、財政状況の悪化を招いています。社会保障費の伸びを少しでも抑える政策の一環として、医療や介護の効率化が図られているわけです。
「困ったとき」とはどんなとき?
医療・介護政策の変化のもとで、患者さまやご家族の「困ったとき」も変化しています。
医療の機能分化を受け、「とりあえず入院を続けさせてもらおう」ということができなくなっています。「え? もう退院?」と言う人が多いのです。
こんな場合もあります。私たち相談員のところには、正月明けやゴールデンウィーク明け、お盆休み明けに相談にこられる方が多い。離れて暮らす両親のもとに久しぶりに帰省してみると、どうも様子がおかしい。最近転倒することが増えた、時々おかしなことを言う、介護保険サービスを使っているが、どうも心配…というわけです。
いざ施設を探そう! でも…
自宅での生活が難しそうだとなれば、適当な施設を探すことになります。でも、施設といっても、いろいろな種類があるようだし、どの施設がご本人に向いているのか、リハビリはしてもらえるのか、どこに見学に行っても似たようなところだし…と悩まれる方が多いと思います。
困らないための秘策
では、病院の相談員(医療ソーシャルワーカー)や、地域のケアマネジャーは、どうやって施設や病院を提案しているのでしょうか。以下の図をもとに、説明します。
図は、白い枠内が病院、グレーの枠内が施設です。
まず、家に帰るのは難しい(在宅困難)方の場合、一定期間後に在宅復帰が可能な方は、上の4つの枠に、長期的にも在宅復帰は難しい方は下の選択肢となります。その場合でも、日常的な医療的管理が必要な方(医療依存度が高い方)と、医療依存度が低い方によって、選択肢が分かれます。
以下、それぞれの病院や施設について説明します。
老健(介護老人保健施設)
病院と在宅の中間施設の位置づけで、医師や看護師がおり、リハビリが行われます。入所期間はおおむね3カ月が目安です。従来は特養の入所待ちで老健に入っている人も多かったですが、最近は本来の趣旨である在宅復帰に向けて頑張ろうという施設が増えてきました。
特養(特別養護老人ホーム)
長期入所ができること、費用が比較的安いことが特徴で、待機者が非常に多い施設です。ただ最近は、他にも選択肢が増えたことなどで、以前より待機者は減ってきています。また費用面でも個室対応で必ずしも安くない特養も出ています。
有料老人ホーム
「住宅型」と「介護付き」に分かれます。住宅型有料老人ホームは、高齢者向けマンションの趣で、元気な人でも入れます。必要な場合は、外部の介護保険サービスの利用が可能ですが、国は最近、このタイプは推奨しておらず、数は減ってきています。「介護付有料老人ホーム」は、常駐するスタッフにより介護サービスが提供される施設で、要介護認定を受けている人を対象としているところが多いです。看護師が常駐している場合も多いです。
グループホーム
認知症の方が、家庭的な雰囲気のもとでともに暮らす施設です。残存機能を生かすことが重視されており、一緒に食事の支度をしていただいたりします。医療依存度の高い人は入れません。
サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)
一般の賃貸住宅と似た形態ですが、食事付きのワンルームマンションの趣です。各部屋にはナースコールが付いていて、事務所には24時間、スタッフが常駐し、何かあったときには対応してもらえます。介護サービスは外部を利用することが多いです。国土交通省の管轄で、国はこれを推奨しており、着工件数は増え続けています。
おわりに
金銭的にも、施設面でも、すべての希望をかなえることは難しい、というのが実情です。施設ごとにメリットやデメリットがあります。
その人にとって、何を優先すべきかが重要だと思います。例えば医療的ケアが必要なら、それに適した施設を選ぶのがいいでしょう。
自宅での介護を「美学」と考える方もいますが、美学とは思いません。家族も共倒れしてしまうケースを見てきました。介護する人、される人の双方が「その人らしく最後まで」暮らせることが一番重要です。
質疑応答より
Q 今の年金制度では、いくら良い施設でも入れない人が多いです。そういう人は、どうしたらいいのですか。
A 特養や老健の場合は、その方の年収によって一定の減額制度が受けられるケースがあります。有料老人ホームやサ高住の場合は、そうした制度がないので、選択の幅は狭いですが、社会福祉法人が経営する施設では料金を抑えたところもあります。どの形態の施設でも、値段はピンからキリまで、というのが実情です。
Q サ高住に入居しても、介護度が重くなったら退去を迫られるのですか。
A 医療依存度が高くなった場合、他の施設に変わっていただくことがあります。その場合、他の法人も含めて施設間のネットワークを持っていますので、調整をします。洛和会ヘルスケアシステムでは、調整を途中で放り出すことはしていませんし、他の法人でもそういうところが多いです。
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