- 開催日:2018年2月23日
- 講師:洛和会音羽記念病院 CE部 係長 臨床工学技士 吉田 久美子(よしだ くみこ)
はじめに
人工透析、と聞くと「よく分からない」と思う方が多いのではないでしょうか。中には「透析を始めたら長生きできないのでは?」「医療費が高そう」など、あまり良いイメージをお持ちでない方もいるようです。でも誤解も多いと思います。本日は人工透析の内容や仕組みをお話しすることを通じて、人工透析に対する正しい知識と良いイメージを持っていただけたらうれしいです。
患者さまは増えています
国内の人工透析患者数は約33万人。患者さまは毎年、約5,000人ずつ、増え続けています(新規透析開始が約1万人、亡くなられる方が約5,000人)。高齢になってから透析開始となる人が多く、平均開始年齢は68歳です。
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人工透析って、何ですか
人工透析とは、腎臓の代わりをする治療(腎代替療法)の一つです。
腎代替療法には、本来腎臓が行う役割をダイアライザー(人工腎臓)や自分の腹膜を利用して行う治療法や、腎移植があります。腎移植は日本の場合、ルールが厳しいこともあり、あまり広まっていません。90%以上の方が人工透析を選ばれています。
腎臓ってどんな働きをしているんですか
腎臓は
- 尿を作る
- 血液を作るホルモンを作る
- 血圧を安定させる
- (骨のもとになる)ビタミンDを活性化させる
といった働きをしています。
「尿」についてご存じですか
尿の成分は、水と老廃物と塩です。
尿は1日に約180L作られます。最終的に排出されるのは1日に1~2Lです。
腎臓では尿の再吸収とろ過を何度も繰り返して、純度の高い「尿」ができます。
腎臓はすごい!
腎臓は尿を作り排泄することで
- 老廃物の排出
- 体内の水分量の調節
- ミネラルの調節
- 血圧の調節
- 丈夫な骨を作る
といった仕事をしています。
腎臓病の原因
腎臓の働きが悪い状態を腎臓病といいます。原因には
腎臓の部位に炎症が起きる場合
- 糸球体腎炎
- 腎盂(じんう)腎炎
他の病気が引き金となる場合
- 糖尿病性腎症
- 腎硬化症
- 痛風腎
などがあります。昔は糸球体腎炎が多かったのですが、現在は糖尿病性腎症が一番多くなっています。
腎臓は沈黙の臓器
腎臓病は、気付きにくい病気です。特に慢性腎不全は自覚症状がないまま、ゆっくりと病気が進み、気付いたときには既にひどくなっている場合も珍しくありません。腎臓病が進行して腎臓の動きが弱くなると腎不全といわれる状態になります。
保存期の治療
腎臓病の程度がステージ2~4の場合を保存期と呼びます。保存期の治療は、できるだけ透析開始を遅らせるようにする治療で、食事療法と薬物療法を行います。
食事療法
腎臓の負担を減らすために、十分なエネルギーの確保(1,800kcal以上/日)をしつつ、塩分やタンパク質の制限が必要です。
薬物療
利尿剤、昇圧薬、降圧薬、抗生物質などを状態に応じて使用します。
末期腎不全になったら
末期腎不全になると、次のような症状が現れます。
尿毒症
老廃物が蓄積して倦怠(けんたい)感、食欲低下、悪心(おしん)、嘔吐(おうと)、頭痛などが出現します。特有の臭いがします。
溢水
体液のバランスがとれなくなり、心不全や肺水腫を起こします(呼吸苦)。
どちらかの症状が出ると、あわてて病院へ、となりますが、末期腎不全は透析が不可避です。1回、透析開始となると、腎機能が戻ることはありません。
人工透析を開始する時期
次のような症状をもとに腎臓の機能を点数化し、人工透析を検討します。
透析の仕組み
腹膜透析の仕組み
透析液を交換する体内の腹膜を使って、血液中の老廃物や余分な水分を除去します。腹膜の中に透析液を入れ、腹膜を通って出て来る液を回収する方法です。毎日、自宅で患者さん自身が行います。4~5時間ごとにバッグの交換を行います。バッグの交換には20~30分かかります。
人工透析の仕組み
血液を体の外に取り出し、ダイアライザーと呼ばれる人工腎臓を介して余分な水分や老廃物を取り除き、必要な物質を補充して、きれいになった血液を再び体内に戻します。通院は週2~3回。治療時間は1回あたり4~5時間です。
以下、人工透析のポイントである、ブラッドアクセス、ダイアライザー、透析液について説明します。
ブラッドアクセス(シャント)
血液をからだの外に出して、戻す出入り口になる血管です。動脈とつないだ静脈を使用するのが一般的です。
ダイアライザー
中に多数の細い管(中空糸)が入っています。この管は非常に小さい孔があいています。血液は管の中を通り、透析液は管の周りを流れます。体に必要な血液やタンパク質は大きいためこの孔を通過することはできません。
透析液
透析液は正常な血液に近い濃度の電解質を含んでおり、血液との濃度差で物質のやり取りをします。透析液は1人に1回120~150Lを必要とします。(1分間に500ml)
透析中にはテレビを観ることもできます。座って透析をする患者さんもいます。足病変がある方も多く、爪切りや水虫治療なども透析中に行います。元気な方は、透析中にも自転車こぎなどの運動をします。透析している4~5時間を有効に使えるよう、治療現場も工夫をしています。
透析の合併症
透析を行えばある程度までは普通に生活することが可能です。
しかし透析療法そのものに腎臓を良くする作用はなく、腎臓の働きを完全に補うものでもありません。
透析は生涯続けていく必要があり、続けていくことでいくつかの合併症が生じてきます。
「透析が必要です」と言われたら…
透析が必要なときに透析を先延ばしにしていると心臓に負担がかかったり、透析導入期に体力を消耗したり、入院期間が長くなったりと、あまりいいことはありません。
透析にならない努力は必要ですが無理は禁物です。
透析の前の人生も大切ですが、透析のあとの人生だって大切です。
透析をしたら何もできなくなると思うのは間違いです。透析をしながらトライアスロンをしている人も、山登りを楽しんでいる人もいます。
質疑応答より
Q 人工透析を受けると、自己負担はどうなるのでしょうか。
A 昔はずいぶん負担が大きかったのですが、現在は月に1~2万円の自己負担で済みます。その分、医療保険全体には負担を掛けているので、人工透析の前で食い止めるのは、ご本人だけでなく医療財政の上でも重要です。
Q いつも同じ腕、同じ箇所で透析をしていたら、血管がボロボロになりませんか。
A 血管をつなぐ(シャントする)場所が傷んだら変えますが、手術が必要ですから、できるだけ同じ箇所を使えるようにしています。ただ、どれだけ使えるかは個人差が大きく、2週間でだめになってしまう人もいれば20年も同じ箇所を使えている人もいます。
Q 上手に血管を使い続ける工夫はありますか。
A 透析に使う腕は、それ以外の採血や血圧測定には使わないようにします。雑菌や出血の可能性を考えて、透析した日は入浴もやめてください。手洗いの際は、シャントの部分まで、清潔にするようにします。
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