はじめに
洛和会音羽記念病院で臨床工学技士として患者さんの人工透析に当たっています。人工透析についてお話しします。皆さんに人工透析について少しでも理解を深めていただけたらと思います。
人工透析とは何?
まず人工透析とは何かということから説明します。人工透析は、腎臓の機能を人工的に代替する医療行為です。英語では「ダイアライシス」といいます。腎不全に陥った患者さんが尿毒症になるのを防ぐためには、人工的に血液の老廃物除去や電解質維持、水分量の維持を行う必要があります。それを行うのが透析です。
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腎不全とは
透析を行う腎不全は、腎臓の機能が低下して正常に動かなくなった状態です。腎不全には急性腎不全と慢性腎不全があります。
急性腎不全は薬物中毒や脱水が原因でなりますが、すぐに回復します。透析の対象になるのは慢性の方で、糖尿病性腎症、慢性腎炎、腎硬化症などが原因で、回復は見込めません。
慢性腎不全の症状は?
腎臓の機能が落ちているため、水分が体の中にたまって尿が作られなくなり、尿の量が減ることで、むくみや高血圧などが起きます。
また、老廃物が体の中にたまり、疲労感や食欲不振、吐き気、頭痛などが現れ、進行するとけいれんや意識障害を起こします。
電解質が崩れると、吐き気やだるさ、呼吸困難といった症状が現れます。
その他、赤血球を作るホルモンが作られず貧血になったり、ビタミンが活性化されず骨がもろくなるといった異常も起きます。
慢性腎不全は治ることはありませんが、腎臓移植によって回復する人もいます。
どんな病気から慢性腎不全に
一番多いのが、糖尿病の合併症で起きる糖尿病性腎症です。この場合は急に尿が出なくなるのではなく、段階を経て病気が進行します。
腎臓内部の糸球体の炎症によってタンパク尿や血尿が出る病気が慢性糸球体腎炎(慢性腎炎)で、タンパク尿や血尿が長期間続きます。
高血圧が長期間続くと、腎臓の血管に動脈硬化が起きます。血管が狭くなり腎臓に流れる血液量が減り、腎臓そのものが硬くなると機能が低下します。これが腎硬化症です。
約半数が糖尿病性腎症
日本透析医学会の調査では、透析を行っている人のうち糖尿病性腎症の方が43.7%と約半数を占め、慢性糸球体腎炎が16.9%、腎硬化症は14.2%で、この3つの疾患で約8割になります。
全国の慢性透析患者数は2015年末で約32万5千人です。2005年ごろには毎年5万人ずつ増えていましたが、近年は増加が鈍っています。
2種類ある透析の方法
透析には血液透析(APD)と腹膜透析(CAPD)という2つの方法があります。
血液透析は、血液を対外に循環させダイアライザー(人工腎臓)に通して尿毒素を除去した後、体内に戻す方法です。週3回程度、透析治療を行う医療施設に通い、1回4時間程度かけて治療を受けます。
腹膜透析は、腹腔内に腹膜透析液を注入し、血液中の老廃物・水分・塩分などを透析液に移動させた後、透析液を対外に取り出す方法です。
腎臓の働きと透析の効果
腎臓の働きと腎不全の症状、血液透析などをした際の効果を分かりやすく図示しました。
腎臓は
- ①尿を作る
- ②老廃物の排せつ
- ③電解質(カリウムなど)の調整
- ④血圧の調整(ホルモン分泌)
- ⑤赤血球を作る
- ⑥ビタミンCの活性化
という機能を持っていますが、腎不全になると
- ①尿の量が減り体に浮腫ができる
- ②尿毒症症状が出る
- ③電解質が変動する(高カリウム血症)
- ④高血圧になる
- ⑤貧血になる
- ⑥カルシウム代謝異常
という症状が出ます。
それが血液透析を行うことで
- ①水を取り除き水分バランスが正常になる
- ②老廃物を除去
- ③電解質の補正
という効果が出ます。また、内服薬を飲み注射する治療で④~⑥の症状も改善されます。
透析液とは
人工透析に使う透析液は通常、1回120~150リットル必要とします。正常な血液に近い濃度の電解質を含んでおり、ナトリウム、カリウム、カルシウム、クロール、炭酸水素、ブドウ糖が主な成分です。
透析の原理は?
透析は、拡散と限界ろ過という2つの原理で行われています。
拡散は、液体の中に水に溶けるものを入れると均等に広がっていく現象です。これを利用して、不必要な物質は血液中から透析液側に移動し、逆に必要な物質は透析液側から血液に移動します。
限界ろ過は除水のことで、血液側と透析液側の圧力差を利用します。血液側の圧力が高いと、水分は透析液側に出て行きます。実際の治療では、機械により透析側の圧力を低くして圧力差を作ります。水の移動とともに、小分子の電解質も一緒に除去されます。限界ろ過の推進力は圧力差です。
人工透析に使うダイアライザーは図のような仕組みになっています。
シャント
血液透析を行うためには、1分間に約120~130ミリリットルの血液を体からダイアライザーに取り出し、老廃物や余分な水分を取り除いて体に返さなければなりません。
そのための血液の取り出し口が必要になります。この取り出し口が「バスキュラーアクセス」と呼びます。
バスキュラーアクセスには
慢性期には
- 内シャント
- 人工血管(人工血管を入れる)
- 動脈表在化
という3つ方法があります。
緊急時には
- 動脈表在化
- カテーテル
という方法があります。
慢性期の方法で一番よく使われるのが内シャントです。手首で動脈と静脈を直接つなぎ、大量の血液が通るようにします。その血管を「内シャント」と呼びます。
シャントトラブル
内シャントは生涯使用できるわけではなく、血流が悪くなったり、圧力が上昇したりして機能不全に陥ることがあります。
次のようなシャントトラブルがあります。
- シャント狭窄(狭い部分ができる)
- シャント血管瘤(シャント血管がこぶ上に膨らむ)
- 過剰血流シャント(流れすぎの状態)
- シャント閉塞(詰まる)
- 感染(細菌感染)
病院では私たち臨床工学技師がこういったトラブルを警戒しながら、透析に当たっています。
DW(ドライウエイト)
体の水分バランスが良く、体に負担が少ない状態を「DW(ドライウエイト)」と呼びます。透析中に過度の血圧低下を生ずることがなく、長期的に血管系への負担が少ない状態です。「目標体重」「標準体重」ともいいます。
DWのときは以下のような状態を示します。
- 顔や手足にむくみがない。
- 心胸比(CTR)が大きくない。
- 心エコーで、うっ血がない。
- 血圧が正常範囲内でコントロールされている。
- 透析中に急激な血圧低下や筋肉の痙攣を起こさない。
胸部レントゲンも重要
注意が必要なのは、胸部レントゲンで分かる心胸比です。
図で示される比率で、この比率が大きいほど心臓に負担がかかっています。目安は男性で50%以下、女性で55%以下です。
体重増加率も重要
透析される方は体重の増加率にも注意が必要です。
1日おきに透析される方で、DWの3%以内、2日おきに透析される方で5%以内の増加に抑えておく必要があります。
体重が増えすぎると、透析で血液を十分ろ過できなくなり、血液内に体液量がたまり胸水貯留、肺浮腫、浮腫などを引き起こします。
透析中の血圧低下に注意
透析中には血圧低下を招く恐れがあり、注意が必要です。
血圧低下を招くのは以下のようなことが原因です。
- 心疾患合併症
- 高齢者
- 糖尿病
- 長期透析
- 無腎
- 貧血亢進
などです。
私たちは患者さんが血液低下を起こさないか注意しながら透析に当たっています。
食事にも注意を
透析を受けている方は食事にも注意が必要です。
1日あたりの食事摂取の基本は、総カロリーが標準体重(身長・メートル×身長・メートル×22)1キログラム当たり30~35キロカロリーです。塩分は6グラム未満。食事以外の水分はできるだけ少なくし、カリウムは2,000ミリグラム以内です。
カリウムに注意を
カリウムをとりすぎると、手足のしびれや、唇のしびれ、不整脈、心停止などを起こします。カリウムを多く含む食品は、ジャガイモ、里芋、アーモンド、納豆、ホウレンソウ、カボチャ、インスタントコーヒーなどです。注意してください。
まとめ
正常な腎臓が1週間168時間かけて行うことを、透析患者さんは1週間で計9~15時間で代行しています。それが人工透析です。当然、患者さんの体に大きな負担がかかります。
そのため透析だけでは限界があり、食事制限や塩分制限が欠かせません。DWも目標体重として、透析を受けている方には非常に重要な数字です。しっかり守っていただきたいと思います。
洛和会音羽記念病院は透析中心の腎疾患対応に特化した病院で、血液浄化ベッドが148床あり、京滋で有数の大規模透析センターです。外来透析の登録患者さんが510人おられます。相談したいことがある方は、一度お越しいただけたらと思います。
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