- 開催日:2018年3月1日
- 講師:洛和会音羽病院 形成外科 医員 医師 土岐 博之(とき ひろゆき)
はじめに
乳がん手術後の乳房再建は、保険も適用され、近年、患者さまが増えています。本日は、乳がん手術後の乳房再建をテーマに、手術時期や再建方法、入院期間や術後ケア、仕事復帰などについてお話しします。
乳房再建って何?
乳がんの手術は、乳腺科医が行います。
乳がんの手術で乳腺を摘出し、命は救われますが、胸のふくらみや乳輪乳頭が失われると…
- 乳房の喪失感がある
- パッドで補正がわずらわしい
- 左右のバランスが崩れ肩がこる
- 大衆浴場や温泉に足を運びにくくなる
などで悩まれる方が少なくありません。
このような患者さまのために乳房再建が行われるようになってきました。乳がんの治療により変形したり失った乳房を再び取り戻すことが乳房再建で、形成外科医が行います。
※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。
乳房再建って、具体的には?
失った乳房をどう補うか
- 自分の他の部位から脂肪や筋肉などを移動させて乳房を作る⇒自家組織再建
- シリコンなどの人工物で乳房を作る⇒人工物再建
乳腺科の医師による乳がんを含む乳腺摘出手術の範囲に応じて、乳房再建の方法は違ってきます。
再建の時期
乳房再建には、一次再建と二次再建があります。一次再建は、乳がん摘出日に同時に乳房再建を行います。二次再建は、乳腺摘出手術後に、いったん落ち着いてから別の日にあらためて再建手術を行います。それぞれ利点と欠点があります。
再建の方法 自家組織再建(自分の他の部位を用いる方法)
おなかや背中など、他の組織をそのまま胸に入れても生着せず、必ず組織に血流がなければ腐ってしまいます。そのため、多くの場合、筋皮弁、遊離皮弁の形で血流を確保し、再建を行います。皮弁術とは、皮膚と脂肪と、場合によっては筋肉を他の部位から移動させ欠損部を覆う術式のことです。植皮の平面的再建に対して皮弁は立体的な再建に用いられます。
皮弁は、皮膚や脂肪、筋肉への栄養血管が含まれているため、立体的に大きな組織でも栄養が行きわたり新しい部位で生着します。植皮は、皮膚のみを切り離されたあと、血管が再度新しく伸びてくるのを待つため、薄くないと生着しません。植皮は傷を閉じる上では有効な手段ですが、立体の再建を行うには皮弁が有効です。
有茎皮弁と遊離皮弁術
皮弁には、有茎皮弁と遊離皮弁という2種類があります。
有茎皮弁術では、皮弁を取った場所から移植先まで、皮下脂肪と筋肉の間に“トンネル”をつくり、その中に皮弁を通すことで乳房まで導きます。有茎皮弁は大きく分けて2つあります。背中の広背筋からとる広背筋皮弁と、お腹からとる腹部皮弁(腹直筋皮弁など)です。いずれも筋肉は切り離さないまま、血流を保ったままの皮膚組織を移植先まで導き、縫合、再建します。
使用する皮弁は、乳がんの切除範囲や乳房の大きさなどによって選択されますが、それぞれ利点と欠点があります。広背筋皮弁は、血流の安定や筋脱落症状が少ない利点がありますが、大きな胸には不向きで、しばらく手が挙げられない、背部に傷跡が残るのが欠点です。腹直筋皮弁は、当院での自家組織再建では一番多い方法で、大きな組織が採取できる、おなか周りがすっきりする、術中体位変換が必要ない利点がありますが、術後しばらく前かがみ歩行となる、腹壁ヘルニアになる可能性がある、腹部に傷跡が残る、妊娠を希望する際には選択できない欠点があります。
遊離皮弁術は皮膚および皮下組織を一塊にして血管を切り離し、再度血管をつなぎ直す方法です。筋肉の犠牲は少ないですが、難易度が高い手術です。
再建の方法 インプラントを用いる再建
シリコン製のインプラント(人工乳腺)を用いる再建です。インプラントには、おわん型のほか、しずく型があります。切除した部分にエキスパンダーという水風船のようなものを入れて胸の筋肉を3~6カ月かけて伸ばし、その部分にシリコンを入れ直して再建します。
インプラントにも利点と欠点があります。利点は、日常に早期復帰できることや、体内の他の組織を犠牲にしないで済むこと、それなりにきれいな乳房ができる、巨大な乳房の作成が可能なこと。欠点は、既製品でサイズが決まっていることや、ごくまれに異物アレルギーが出ること、破損のおそれ、加齢変化が生じにくい、下垂乳房を再現しにくい、10年に1回の交換が必要なことです。
このほか、乳頭や乳輪の再建も可能です。
入院期間と術後ケア
入院期間は、以下の通りです。
退院後の生活の目安では、家事や仕事(事務)復帰は術後3週間で可能となります。運動や激しい仕事は、術後4週間で可能となります。個人差もありますので、医師と患者さまが相談しながら、最終的に時期を決めていきます。
乳がん手術後も豊かな人生を
乳がんの手術を受けても、乳房を取り戻すことで明るく前向きに人生を送られている患者さまが大勢おられます。洛和会音羽病院では、乳房再建の専門外来(担当 形成外科・土岐 博之医師)を毎週月曜日午後に行っています。
乳腺科との協働作業で患者さまの健康と術後の人生を豊かにするお手伝いをいたします。乳がん手術を今後受けられる方、乳がん術後で悩んでおられる方は、ご相談ください。
質疑応答より
Q 乳房再建に、年齢的な制限はありますか。
A 特にありません。これまでの最高齢は85歳でした。
Q 術後の放射線治療が必要な場合、乳房再建はできるのですか。
A 再建後に放射線治療が必要な方の場合は、自家組織による再建に限られます。一次再建で基本的にはシリコンは入れられません。
プロフィール
洛和会音羽病院 形成外科[京都下肢創傷センター 兼務]
医員
土岐 博之(とき ひろゆき)
- 専門領域
形成外科、乳房再建、陥入爪 - 専門医認定・資格など
日本形成外科学会専門医
乳房再建用エキスパンダー/インプラント責任医師
洛和会音羽病院 ホームページ
〒607-8062
京都市山科区音羽珍事町2
TEL:075(593)4111(代)