- 開催日:2016年9月21日
- 講師:洛和会東寺南病院 臨床検査部 主席課長 臨床検査技師 佐藤 晴久(さとう はるひさ)
はじめに
臨床検査技師とは、医師または歯科医師の指示により身体の構造や機能に関するさまざまな生理情報(検体検査、心電図検査、筋電図検査、呼吸機能検査、超音波検査など)を調べる専門家です。本日は、健康診断の際に受ける血液や尿などの検査のうち主なものについて、結果や見方をお話しします。
基準値と基準範囲
健康診断の検査結果には、基準値や基準範囲という言葉が記載されています。基準値とは、性別や年齢、生活習慣、検体採取条件などをそろえた健康な人たちから得られた計測値です。基準範囲(正常範囲ともいう)は、この人たちの95%が含まれる範囲をさします。
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毎年の検査結果は保管しましょう
健康な人でも正常範囲から外れた人が5%いるなら、検査結果をどう見たらいいのでしょうか。それは毎回の健康診断の結果を残しておいて、数値の変化を見比べることです。正常範囲であっても、今回と前回の値が大きく変動していたら注意が必要です。
医療機関で行われる検査の項目は2,000を超えていますが、その中でよく使われる検査項目を選んで、以下にご説明します。
主に肝臓の働きをみる検査は?
肝臓の細胞が障害を受けているかどうかは、AST(GOT)やALT(GPT)で調べます。細胞がつぶれていると数値が上がります。肝臓の働きが悪くなると、ChE(コリンエステラーゼ)の数値が低くなります。肝臓の中で体液の流れが悪くないかは、γ‐GPTやALPで調べます。
気になる脂質の検査
脂質検査には、総コレステロール(T-Cho),HDLコレステロール,LDLコレステロール,中性脂肪(TG)があります。コレステロールは嫌われ者ですが…大切なんです。コレステロールは脂質の一種であり、体にとっては必要不可欠なものなのです。増えすぎると、動脈硬化などの原因となるので良くはないのですが、細胞膜の材料となる大事な働きがあります。血管を丈夫にするには、コレステロールが必要なのです。以下、各項目ごとに説明いたします。
総コレステロール
総コレステロールが高値となる原因として、脂質の過剰摂取・肥満・喫煙などの生活習慣が考えられます。またコレステロールを運ぶ働きをするLDLコレステロールが血管に付着して動脈硬化を引き起こす原因となります。
総コレステロール値は、低ければ良い、というものではありません。過剰なダイエットや偏食などによる、栄養不足の可能性があります。コレステロールが低すぎると、細胞膜がきちんと作られずに血管が弱くなったりします。細胞の働き自体が弱くなると、栄養の吸収も悪くなり、さらに栄養不足になるという悪循環となります。
肝臓には、コレステロールを生産するという働きもありますが、肝硬変や肝炎など、何らかの肝臓疾患を抱えている場合に、総コレステロール値が低下することがあります。特に食生活などを変えていないのに、コレステロール値が下がっているなら、何か病気が隠れている可能性も考える必要があるかもしれません。甲状腺ホルモンの過剰でもコレステロール値が下がります。
LDLコレステロールとHDLコレステロール
LDLは悪玉、HDLは善玉コレステロールとも呼ばれます。
LDLは、肝臓で作られたコレステロールを全身にばらまく働きをし、余った分はHDLが回収して、体内のバランスを保っています。血管の膜が傷つくと、LDLが内膜にしみこみ、酸化されます。この酸化LDLを白血球が攻撃して食べてくれますが、白血球が最後まで消化できません。結果、血管内に粥状のプラークがたまり、動脈硬化を引き起こします。
- 長生き症候群:
HDLコレステロールは、血管に溜まってしまった余分なコレステロールを回収している途中のものですから、その値が高いほど良いことになります。例外はありますが、その数値が高いほど長生きすることがわかっています。HDL(善玉)コレステロールの検査値が非常に高い人は、ユーモアをこめて「長生き症候群」などと呼ばれることもあるくらいです。HDLを増やすには、運動が効果的で、オリーブオイルなどの食材も良いとされています。 - 総コレステロールは正常値が良い?:
総コレステロール値は、200mg/dl前後が理想とされていますが、大切なのは、HDLとLDLの比率です。LDL(悪玉)の割合が高いのなら、生活習慣病のリスクも高い、ということになります。
善玉と悪玉の比率をみる計算をしてみましょう。
- 悪玉(LDL)を、善玉(HDL)で割った場合:
2.0を上回れば、動脈硬化の恐れがあります。 - 動脈硬化指数を調べる:
総コレステロールと善玉の数値を使います。
判定は、
- 3.0未満=良好
- 3.0以上5.0未満=要注意
- 5.0以上=危険
です。
中性脂肪
中性脂肪は体内でエネルギー源となりますが、余分なものは肝臓や脂肪組織に蓄えられ、多くは皮下脂肪となります。中性脂肪が多いと動脈硬化へと進み、脳卒中や心筋梗塞などの循環器系の病気が発症する危険性が高まります。中性脂肪の値は食後上昇するので、検査では12時間以上絶食した空腹時に採血を行います。
痛風
尿酸値が高いと痛風の疑いがあるといわれますが、理由は以下の通りです。
尿酸は、卵やメンタイコなど、プリン体を含む食品に多いといわれています。
主に腎臓の働きをみる検査は?
よく使う検査項目は、BUN,CRE(クレアチニン)です。腎臓のろ過する働きが悪くなると上昇します。腎臓の機能が30%程度、悪くなると数値が上昇していきますが、自覚症状がないため、健康診断の結果をよくチェックすることが大切です。
尿検査でわかること
尿検査は健康診断や病気の原因を探るときなど、広く一般的に行われる検査です。試験紙の色が変わることで尿たんぱくなどの異常を見つけます。糖の検査だけでなく、尿検査では酸性、アルカリ性のチェックでさまざまなことが分かります。
糖尿病を早く見つけましょう
糖尿病の検査は、血液中のブドウ糖(血糖)を調べて行います。血糖値を計る際、早朝空腹時血糖、随時血糖、食後血糖は、それぞれ値が違います。糖尿病の診断には、早朝空腹時血糖値を用います。
- 126以上=糖尿病域
- 110~125=境界域(糖尿病の疑いがあります)
- 110~100=正常高値(糖尿病になりやすいかもしれません。要注意です)
- 70~99=正常域
ばい菌から身を守る血液
血液の中には酸素を運ぶ赤血球と、ばい菌から身を守る白血球が含まれています。基本的には白血球は5種類あります。最も多いのは好中球、次はリンパ球、単球、好酸球、好塩基球、の順です
好塩基球や好酸球は、アレルギーや寄生虫に反応します。リンパ球は、ウイルス感染に対し抗体を産生します。単球は、細菌などの異物を捕食します。
生理的変動
個人の検査値は食事、生活習慣、たとえば飲酒や喫煙、生理、運動、体位、時間、日、季節、年齢によって変動します。
日内変動
- 朝高・夜低=Fe、ヘモグロビン、ヘマトクリット、総ビリルビン
- 昼高・夜低=尿酸、カリウム
- 夜高・昼低=アミラーゼ(AMY)、ALP,BUN,無機リン(IP)
食事依存
- 上昇するもの=血糖(Gul)、中性脂肪(TG)、白血球数
- 低下するもの=無機リン(IP)
性別による
- 女性のほうが高い=血沈、ZTT,TG
- 男性の方が高い=尿酸、BUN、クレアチニン、血液一般、総ビリルビン、γ-GTP、CPK
運動
- 上昇する=CPK、アルドラーゼ、GOT、LDH
前夜の通常量以上の飲酒
- 上昇する=中性脂肪(TG)、γ‐GTP
喫煙
- 上昇する=CRP,CEA、白血球、中性脂肪(TG)
- 低下する=HDL,コレステロール
- インフルエンザと喫煙=インフルエンザに、2.42倍罹患しやすくなります
重症化する確率は、非喫煙者が30%なのに対し、ヘビースモーカーは54%です。また、喫煙者は非喫煙者に比べ、早期に抗体価(ワクチンの効果)が低下します。
放置しないで
私たちが、健康診断で知ることができる情報は、ごく限られたことだけです。しかし、そこに少しでも異常値や大きな変化が見られたときには、病院でのさらに詳しい精密検査が必要となります。健康診断は、病気を見つけるのではなく、身体の変化に気付くためです。早期に発見して早期に治療すれば治る病気はたくさんあります。そのために、健康診断の結果を見て、異常値や大きな変化が見つかった方は、必ず病院で検査を受けるようにしましょう。
質疑応答より
Q 健康診断や血液検査は、どのぐらいの頻度で受けたらいいのですか。
A 特に異常がなければ半年か1年に1回受ければいいでしょう。健康診断で異常が見つかれば、すぐに再検査を受けてください。
Q 母がコレステロール値を下げる薬を飲んでいます。健康診断の日には薬は飲まないで行った方がいいのですか。
A いつも通り、飲んでから行ってください。診断の際、薬を飲んでいることを言ってください。
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