- 開催日:2017年7月14日
- 講師:洛和会音羽病院 脈管外科 部長 武田 亮二(たけだ りょうじ)
講演 ~動画版~
講演 ~テキスト版~
足がむくむ だるい
立ち仕事や長い間座ったままだと足がむくんだりしますよね。内科疾患(肝臓や腎臓、甲状腺が悪い)がベースにある場合も多いですが、内科疾患がなくても「そういえば、足の血管が出てきた」などという人の場合、そのむくみやだるさは簡単に治せます。
こんな症状ありませんか?
- 足がむくむ、重い、疲れる。
- 寝ている時にこむら返り(足がつる)になる。
- 皮膚が黒ずんでいる。
- 足の血管がボコボコ膨れていたり、浮き出て見える。
こういうケースは下肢静脈瘤かもしれません。
なぜ静脈瘤になる?
下肢静脈瘤は、腰痛や内痔核(イボ痔)と同様、人間に特有の病気です。
なぜかというと、人間が二足歩行しているからです。
人間の血管には心臓から全身へ血液を送る動脈と、心臓への帰り道である静脈があります。
寝ている時以外は人間の足は心臓のいつも下にあるため、常に負担がかかっているわけです。
足の静脈には弁がある
静脈の中で、血液を送るのに重要な働きをしているのが「弁」とふくらはぎの筋肉です。血液を送るポンプにあたるのが筋肉で、血液が逆流しないように働いているのが弁です。片足に100個以上の弁があります。
※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。
下肢静脈瘤は弁の病気
静脈の「弁」が悪くなると、心臓に戻る血がいつも足にうっ滞し、静脈がコブのように膨れてきます。だるく感じたり、かゆくなることもあります。
足の静脈
足の静脈には、たくさんの種類がありますが、簡略化すると、「深部静脈」と、「伏在静脈」「穿通枝」の3種類に大別されます。深部静脈は、足の静脈血のほとんどを心臓へ送り出している太い血管で、伏在静脈は浅い部分にあります。静脈瘤になるのは、この伏在静脈です。穿通枝は、深部静脈と伏在静脈のバイパスです。
下肢静脈瘤の種類
以下のような種類に分けられます。このうち治療の対象となるのは、伏在静脈瘤と側枝静脈瘤です。網目状静脈瘤とクモの巣状静脈瘤は重症化せず、美容上のみの問題となる場合が多いです。
どんな人にできやすいの?
- 家族に静脈瘤のある方にできやすい。
- 立ち仕事に従事する方に多く、進行しやすい。
- 女性に多い。
- 妊娠・出産をきっかけにできやすい。特に2度目の妊娠でできる方が多い。
ふくらはぎの筋肉が収縮する際にポンプ機能が働くため、動くことの多い農家はならず、動きが少なくて立っている調理師や美容師がなりやすい疾患です。
静脈瘤を放っておくとどうなるの?
静脈瘤が進行すると痛み、だるさが出てきます。このような状態になると、いずれ皮膚炎がおき、潰瘍になってしまうことがあります。
必要な検査
静脈瘤の検査は、ほとんど、超音波検査(エコー)だけで診断できます。
日常生活の注意点
- 長時間じっと立つことを避け、足踏みしたり歩いたりしましょう。
- 足がだるくなったら、短時間でも横になり、足を心臓より高くして休息しましょう。
- 弾性ストッキングを正しく着用しましょう。
- 夜寝る時はクッションなどで足を高くして寝ましょう。
- ささいな傷が色素沈着・潰瘍の原因になります。足を清潔に保ちましょう。
- 体重を適正に保ちましょう。
どんな治療があるの?
圧迫療法
弾性ストッキング・弾性包帯を着用します。
硬化療法
手術(ストリッピング・高位結紮術)
血液が逆流しないように静脈を抜き取ったり、縛ってしまう手術
血管内焼灼術
血管の内側から静脈を焼いてふさぐ手術
潰瘍症例の場合
内視鏡下筋膜下穿通枝手術
レーザー照射による焼灼メカニズム
レーザー治療は、5ミリぐらいの範囲でできる利点があります。
レーザー治療のメリット
- ストリッピング手術(標準的な根治術)と同等の治療効果が得られる
- 日帰り手術が可能
- 早期に社会復帰が可能(手術後1〜2日)
- 手術の傷跡がほとんど残らない
静脈瘤治療(手術)の合併症
- 出血
- 感染
- 血管損傷:鼠径部や膝窩は動脈が近い。残すべき静脈も近くを走行
- 神経損傷:下腿ではおきやすい。通常6カ月から24カ月で軽快します。
- 肺塞栓症・深部静脈血栓症
大きな合併症は、ほとんどおきません。
静脈瘤にならない、悪化させないコツ
- 筋力をつける:ジョギング、自転車などで、ふくらはぎや下半身の筋肉を鍛える。無理なら足関節の運動をしましょう!
- 体重を適正に保つ
- 弾性ストッキングの着用
皮膚炎がすすんでしまったら…
以下のような症状まで皮膚炎が進行すると、簡単には治りません。洛和会音羽病院では、内視鏡下筋膜下穿通枝手術(SEPS)という方法で、治療を行っています。
静脈瘤とは関係なさそうな症状
- 朝より夕方が楽。
- 痛くて歩けない。
- 腰から足先にかけてだるい。しびれる。
- 足が冷える。
- 足の裏に一枚布をかぶったような感じがする。
- こういう症状は下肢静脈瘤ではおきません。
よくある質問
Q 静脈瘤に効く飲み薬はあるの?
A 静脈瘤を治す薬はありません。足がつりやすい人には、芍薬甘草湯を処方します。
Q 一番いい治療法はどれ?
A 病状は人それぞれなので、一概には言えません。医師とよく相談してください。静脈瘤の手術は昔に比べて、安全で簡便になっています。どの治療も安全と言えます。
Q 手術には入院が必要ですか?
A 必ずしも入院は必要ありません。ほとんどの場合は、日帰りで治療可能です。下肢潰瘍まで進展した重度の下肢静脈瘤の方でも、数日の入院で治療できます。
Q 足が冷えやすいんです。静脈瘤でしょうか?
A 一般に、動脈の流れが悪くなると冷えます。静脈瘤の患者さまの足は熱を持っています。足の冷えは静脈瘤を治療しても治りません。「冷え症」は、冷えを感じているが実際医学的にはあまり異常のない状態です。血管・内臓疾患の異常がなければ、洛和会音羽病院 漢方内科 山崎医師とご相談ください。
Q レーザー治療は保険が効かないの?
A 2011年より保険収載されました。美容目的レーザー機器などは保険は承認されておらず、その類の危機を使用している病院やクリニックでは自費(保険外)治療となります。現時点ではあえて保険外のレーザー機器を使用する意味はありません。
Q 歩くと足が痛くなって歩けません。静脈瘤でしょうか?
A 特殊な静脈瘤以外で、痛くて歩けなくなるケースはほとんどありません。整形外科的疾患(変形性膝関節症、変形性腰椎症、脊柱管狭窄症)や、動脈性疾患(閉塞性動脈硬化症)など、ほかの病気が隠れていることがあります。
下肢静脈瘤と間違えやすい疾患
- 閉塞性動脈硬化症:一定の距離を歩くと、足の裏やふくらはぎが痛くなり、歩けなくなります。しばらく休むとおさまって、また歩けるようになります。糖尿病・動脈硬化のある方、特に喫煙者に多いです。
- 深部静脈血栓症:歩いていると調子が良いが、歩き終わって休むと足が痛くなる。長期入院したことがある方、整形外科で手術を受けた方、まひのある方に多いです。
- 脊椎管狭窄症:一定の距離を歩くと足がしびれて痛くなり、前かがみになって休むとまた歩けるようになります。
- 全身疾患に関連する浮腫(心不全、腎不全、肥満)
Q 静脈瘤はほっておけば肺塞栓症になるのですぐ手術しないといけないと言われました。
A 下肢静脈瘤が進むと、血栓性静脈炎(ふくれたコブの中で血が固まること)を起こす場合があります。血栓性静脈炎の場合、肺塞栓症を起こすことがありますが、非常にまれです。筋肉の中の静脈=深部静脈に血栓ができる場合が要注意です(エコノミークラス症候群)。その場合は、静脈瘤手術より抗凝固療法(血を固まらせない薬を飲む)が必要となります。
Q 静脈瘤の硬化療法は何度しても大丈夫ですか?
A 硬化療法は悪い治療ではありませんが、1回で数カ所(片足)に打ちますので、通常、片足に硬化療法する回数が1~3回程度です。
Q 動静脈瘻が原因で、静脈瘤になっていると言われました。動静脈瘻って、どんな病気?
A 心臓から流れ出た血は動脈を通り、末梢血管を通って、静脈を通って、また心臓に帰ります。動静脈瘻は、先天的奇形や、外傷、医原性でおきる通常3~4ミリ以上の動脈と静脈の異常な道筋です。この場合は、静脈のみ治療しても治りません。この疾患であれば治療前に、CTやMRIや血管造影で必ず動脈と静脈両方を調べます。
Q 編み目タイプやクモの巣タイプ静脈瘤があります。レーザーで治療できますか?
A 編み目タイプとクモの巣タイプは、皮膚の中の静脈怒張で、いわゆる下肢静脈瘤レーザー治療=血管内治療のファイバーが入っていかない血管です。通常は硬化療法で治療します。
Q 静脈瘤って遺伝するのでしょうか?
A 下肢静脈瘤は、生活習慣に深く関係がある病気ですから、家族と同じ仕事、生活習慣だとなりやすい傾向にあります。ご家族に静脈瘤がある人はなりやすいというデータがあります。静脈瘤は非常によく見かける病気ですから、ご家族になっている人がいて、自分も静脈瘤が出てきたら悪化させずに早めに来院してください。
下肢静脈瘤?と思って受診する場合…
かかりつけの先生がいれば、紹介状を持ってきてください。(自分が飲んでいる薬のノート=おくすり手帳は、持っていきましょう)
病院に受診するとき、自分1人で不安なら、誰かについてきてもらってください。弾性ストッキングをお持ちなら、はいてきてください。
かかりつけ医からの紹介状があれば…
通常、外科 武田の外来は、毎週水曜日、木曜日の午前中です。
かかりつけの先生の紹介状がある場合、月曜日、火曜日、金曜日の午前中に紹介枠があります。かかりつけ医の先生から当院の地域連携課に連絡いただければ、予約日時をお知らせします。
プロフィール
洛和会音羽病院
脈管外科 部長
武田 亮二(たけだ りょうじ)
- 専門領域
消化器外科(肝臓)、内視鏡外科(消化器系一般、胃・大腸)、脈管外科(主に下肢静脈疾患) - 専門医認定・資格など
日本外科学会認定医/外科専門医
日本静脈学会評議員
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