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医療 洛和会音羽病院

子宮が下がっちゃった? ~骨盤臓器脱(子宮脱、膀胱瘤)について~

投稿日:2016年6月17日 更新日:


はじめに

産婦人科の医師として30年以上働いてきたなかで、患者さまがみんな、大喜びで退院される治療が、子宮脱(骨盤臓器脱)の治療です。悩みを抱えていても、恥ずかしいからと我慢しながら不快な生活を続けておられる女性も多いと思われますが、お悩みの方は気楽にご来院ください。快適に過ごしていただけるお手伝いをいたします。

骨盤臓器脱(POP)とは

※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。

子宮の下垂・脱出と膣の弛緩・外翻の総称です。膣の前側には膀胱と尿道があり、後ろ側には直腸と肛門がありますが、子宮が下がることにより、臓器の一部が体外に出てしまう疾患です。子宮が下がることにより、膀胱や直腸も押されるため、おしっこや便が出にくくなったり、はみ出た臓器が下着にすれて痛んだり出血することもあります。

子宮下垂は、子宮が少し下がった状態です。後ろ側の直腸が押されて「直腸瘤」ができると便秘になりやすくなります。部分子宮脱は、子宮がもっと下がって一部がはみ出す状態で、前側の膀胱もはみ出す「膀胱瘤」も出現します。股の間に何かが当たる自覚症状を覚えます。子宮が完全にはみ出てしまうのが「完全子宮脱」で、かつてはその形状から「なすび」と言いました。

骨盤臓器脱の診断

骨盤臓器脱は、老化現象の一つです。患者さまのほとんどは、出産を経験しています。若い人でも出産後に一時的に子宮が下がる人はいますが、40歳ぐらいまでは女性ホルモンの分泌が盛んなので、エストロゲンの働きと産褥体操などで元の位置に戻ります。しかし、年を取ると体操だけでは戻らなくなります。以下のような質問をすると、出産した人の8割程度は「1」の自覚症状があり、「2」の人も珍しくありません。

骨盤臓器脱の治療

治療は大別して、保存的治療と手術療法に分かれます。保存的治療には、リングペッサリー法と、フェミクッションがあります。手術療法には、ポリプロピレン・メッシュを用いて修復する方法と、患者さま自身の組織を用いて修復する方法があります。

保存的療法

リングペッサリー法:
ペッサリーを膣内に入れ、骨や支持組織に支えさせて子宮の下降を止める方法です。約3カ月ごとの通院、交換が必要です。ところが最初はとても快適に感じる方が多いため、通院せずに放置している人もいます。そうなると、リングが膣粘膜に食い込んで、びらんや潰瘍が生じたり、最悪の場合には直腸に穴が開くこともあります。このほか、違和感や性交渉困難、帯下(おりもの)の増加などを覚える場合もあります。通院を忘れずに、膣内の洗浄とペッサリーの交換を定期的にしてください。

フェミクッション:
サポーター下着です。はみ出した臓器を押し込んでフェミクッションをはめます。外せば、また臓器が出てくるため、当面をしのぐだけですが、外出時などには便利で、自分で管理できる利点があります。骨盤臓器脱のほかにも合併症が多い方、高齢で手術に適さない方には、こんな方法もあります。

手術療法

ポリプロピレン・メッシュを用いて修復する方法(TVM手術)と、患者さま自身の組織を用いて修復する方法に大別されます。いずれも脱け出た子宮を全摘出し、膣中隔を修復・再建してやる方法です。

ポリプロピレン・メッシュを用いて修復する方法(TVM手術):
ポロプロピレン・メッシュを膀胱と膣の間に埋め込み、膣中隔の代わりをさせる手術。再発率が少なく、優れた方法ですが、人体にとっては異物なので、ばい菌が付くと感染を起こしやすく、術後合併症が増える恐れがあります。以前は人気の手術でしたが、重篤な合併症の報告が相次いだことから、2011年に米国のFDAが警告を発し、輸入ストップとなっています。

患者さま自身の組織を用いて修復する方法(膣式単純子宮全摘術および膣壁形成術):
子宮を全摘し、膣中隔を膣内に引き上げて修復・再建する方法です。膣中隔は非常に薄く、従来法では修復後の再発率が30~50%と高いのが欠点でした。


これに対し、膣中隔を巻き上げ、強度を増してから縫い付ける新しい方法「恥骨頚部筋膜再建術」(小辻術式)を、前福井大学産婦人科教室教授、現高槻病院総合周産期母子医療センター長の小辻文和医師らが開発されました。この方法で手術された336例中、再発したのは2例だけ(再発0.59%)で、非常に好成績を上げています。私も直接、小辻先生に教えを受け、この方法を洛和会音羽病院の治療で用いています。

洛和会音羽病院での手術療法のスケジュール


産婦人科外来を受診していただき、診察のうえで、手術日を決めます。診察では、術前検査として、血液検査や胸部X線撮影、心電図、心エコー検査、下肢静脈エコー検査、呼吸機能検査などのほか、合併症に対する各診療科受診、麻酔科受診、入院オリエンテーションなどを受けていただきます。入院が決まりましたら、以下のスケジュールで治療いたします。

最後に

子宮脱に代表される骨盤臓器脱は、生命を脅かす疾患ではありません。その羞恥心から、産婦人科受診がためらわれ、人知れずお悩みの方も多いと思います。同世代の女医が診療担当ということで、気軽にご相談くださればと思います。
30年近く、さまざまな産婦人科手術を手掛けてきて、数ある産婦人科手術の中で、子宮脱治療ほど術後の患者さまの笑顔がうれしい手術がほかになく、ぜひこの手術で快適な生活を取り戻していただきたいと願っています。
実際の診療に際しては、患者さまのライフスタイルに合わせた治療計画をご提案いたします。洛和会音羽病院 産婦人科を受診して、長年の悩みから解放されたと言っていただければ幸いです。


プロフィール

洛和会音羽病院 産婦人科・総合女性医学健康センター
副部長
横田 浩美(よこた ひろみ)

  • 専門領域
    周産期、腫瘍、更年期、思春期
  • 専門医認定・資格など
    日本産婦人科学会産婦人科専門医/指導医
    母体保護法指定医
    日本遺伝カウンセリング学会臨床遺伝専門医
    日本周産期・新生児医学会認定 新生児蘇生法「専門」コース インストラクター
    FMF NT資格
    臨床研修指導医
    緩和ケア研修会修了

洛和会音羽病院

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〒607-8062
京都市山科区音羽珍事町2
TEL:075(593)4111(代)

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