- 開催日:2017年8月25日
- 講師:洛和会音羽リハビリテーション病院 リハビリテーション部 課長 理学療法士 大西 裕樹(おおにし ひろき)
はじめに
リハビリテーション(以下、リハビリ)という言葉は、よく知られています。しかし、リハビリには、病院で行う急性期リハビリと回復期リハビリ、在宅や施設などでの生活期リハビリという違いがあることをご存じでしょうか。本日は、回復期リハビリテーション病棟の活動を中心にお話しします。
宇宙飛行士でも
宇宙飛行士と言えば、健康な人しかなれない仕事です。しかし、実際に宇宙に行ってしばらく滞在すると、無重力の影響で、健康な体にもさまざまな障害が起きてきます。宇宙に4カ月間滞在した宇宙飛行士は地球に帰還した際、バランスが取れずに立って歩くことができません。その後、マッサージやストレッチ、水中歩行や自転車こぎ、ランニングなどのリハビリプログラムをこなし、1~2カ月で元の健康体になります。
宇宙飛行士に起きた体の変化は、寝たきりの人や、活動量の衰えた高齢者にも当てはまる点があります。横になって足元に重力がかからない状態が続くと、体にさまざまな障害が起きてくるのです。
リハビリテーションの役割
長期臥床による障害は、このように多くの変化を体にもたらしますが、これらの障害を防ぐのがリハビリの目的です。リハビリは、障害を予防することにもなります。早い段階からリハビリを行うことにより、障害の発生を予防し、障害が残存してもその程度を最小限にとどめることが重要です。
何らかの疾患で入院治療が必要になった場合、病院では、患者さまやご家族のニーズを中心に、生活再建、社会参加、心の問題への対応も含めて、包括的、全人的にアプローチします。一般的には急性期治療→回復期治療→在宅または施設ケアへと移行しますが、それぞれの段階で、必要なリハビリが行われます。
回復期リハビリテーション病棟の機能と役割
回復期リハビリ病棟では、寝たきり予防、ADL(日常生活動作)向上、家庭復帰を目指し、早期より集中的なリハビリを行い、身体機能・認知機能の回復に努めます。それにより、在院日数の短縮や在宅復帰率の向上につながります。対象病名と在棟期限は、以下の通りです。
全国回復期リハビリテーション病棟の現状
高齢化の進展を受けて、国は医療制度の再編を急速に進めています。そのなかで、回復期リハビリに関わる病棟は年々、増えていくことが計画されています。
洛和会音羽リハビリテーション病院
病院の概要は以下の通りです。
当病院の回復期リハビリ病棟では、平均して毎日2時間48分のリハビリを患者さまに行っています。それにより、在宅復帰率は84.9%と、全国平均(78.3%)を上回る成果を上げています。
回復期リハビリ病棟の流れ
患者さまが入院されてから、退院までの流れは以下の通りです。
症例紹介
60歳代の男性。脳梗塞後に在宅介護を受けていたが、車いすからベッドへの移乗時に転倒し、左大腿骨頸部骨折で入院。観血的骨接合術を施行された後、リハビリ目的で当院リハビリ病棟に入院した。
入院時訪問指導
入院7日目に入院時訪問指導を行い、以下のような評価を行いました。
入院時訪問指導を実施することにより、自宅復帰に向け自宅環境および生活様式を多職種で情報共有することが容易となり、リハビリの目標やプログラムがより具体的になりました。また、入院前の自宅でのADLの想定から病棟ADLに再現を行い、自宅環境に応じた訓練を実施することにより退院時のADLは向上し、自宅退院につながりました。
外出訓練
- 移動の手段の獲得を目的に、道路の横断やエレベーター、エスカレーターの利用、券売機、改札機の利用、バス、電車、乗用車などへの乗降時の訓練をします。
- 特殊な器具や設備を用いた作業を行う職業への復帰の準備に際して、当該器具や設備を用いた訓練を行います。
- 家事能力の獲得が必要な場合に、店舗での日用品の買い物や居宅における掃除、調理、洗濯などの訓練をします。
退院に向けての環境調整
退院後の生活を想定し、入院中から地域スタッフとの連携を図り、在宅生活の定着に向けた準備を進めます。退院後の生活場面を想定した介助方法の検討・練習を実施し、介助者の能力を見極めながら介助が安全に実現できる方法を提示します。
今後のリハビリスタッフとしての活動
高齢社会の到来によりリハビリの対象となる患者さまが増えることによって、リハビリは注目と期待を集めています。
医療と福祉の広域にわたる診療・サービスとして、我々リハビリスタッフは病院や施設のなかだけではなく、地域での活躍が求められています。
医療経済的視点からも、リハビリ医療は入院期間の短縮→病床削減や、在宅復帰率の向上→施設増加の抑制、薬剤費の削減、寝たきり(要介護者)の減少、社会参加者の増加などに貢献でき、医療・介護に費やす総費用増加の抑制につながります。
進化するリハビリテーション
医療現場ではすでに、ロボットスーツのHAL(生体電位信号を読み取り、動作をアシストする)や、低周波刺激により筋収縮を補って動作を学習するIVESなど、自立支援用の機材が用いられています。
医療の高度化・進歩に伴い、リハビリの対象は、従来の脳疾患や骨関節疾患に加え、呼吸器疾患、循環器疾患、メタボリックシンドローム、がん、移植医療などへ拡大しています。
さらに、回復が困難とされてきた成人の脳における可塑性・再生医学の進歩に伴うリハビリの役割も再認識され、新たな領域や可能性が広がりつつあります。
洛和会音羽リハビリテーション病院
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