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洛和会音羽病院 医療

ストレスとの上手なつきあい方

~マインドフルネス瞑想のおすすめ~

投稿日:2019年1月17日 更新日:


はじめに

私が内科医になって27年たちました。今回お話しするのは「ストレスとのつきあい方」ですが、実は私はストレスに弱い人間です。私は茶道を勉強していまして、先日も正月恒例の初釜に出席しなければならなかったのです。初釜の前夜、しまっておいた和服を引っ張り出してみたのですが、明日の朝、1人で和服を着ることができるのか不安でいっぱいでした。とうとう前夜はよく寝られなかったのです。

そんな私ですが、本日はストレスと上手につきあい、精神的にもより健康な日々の過ごし方を考えてみたいと思います。

心身不二、心身一如の精神

「心身不二」「心身一如」は、共に禅語です。人間の心と体は、二つに分かれて存在しているわけではありません。心と体は二つに分けることができないものだということです。私たちが病気になって体の調子が悪くなったとき、日ごろの生活習慣を改めるほか手術などで体を治すことが大切です。それと同時に、自らの「心」をより良い状態にしようとすることも大事なのではないでしょうか。

もともと、ストレスのない生活などありません。問題になるのは、ストレスのある生活の中でどのように自分の心の状態を健康に保つかということです。そのためには、自分自身の心の内面をより良いものに、より安定した状態に変容させていく必要があります。

※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。

身不二、心身一如

体に悪い「考えぐせ」

過去の嫌な出来事、または過去のミスを何度も思い出してしまう。そんなことはありませんか。こうした振り返りは、昔の嫌な思い出を熱心に「復習」しているようなものです。また、どうなるのか分からない将来を心配して不安なることはありませんか。健康問題でも同じです。自分の今の健康状態に関する不安を雪だるま式に大きくしてしまうこともあります。ちょっとした症状でも、本当は何か悪い病気があるのではないかと、心配ばかりしてしまう。物事を悪い方、悪い方へと考えてしまう。

また、自分の症状をインターネットで調べ、他人の不確かな情報をもとに心配をさらに強める。ありがちなことです。病気になったとき、一日中、自分の体に生じる症状のことばかりを考えることも健康的ではありません。短気でイライラしやすい。恨みを持ち続け、小さなことを根に持つ。愚痴ばかり言っている。他人を非難ばかりし、「自分が不幸なのは○○のせいだ」とまで口にすることも、体に悪い「考えぐせ」です。

体に良い「考え方」とは

体に悪い「考えぐせ」の話はこれくらいにして、次は体に良い「考え方」についてお話ししましょう。そのためには、常に感謝の心で生活し、報恩を行動で示すことです。

今、自分が生きているのは、大自然(太陽や雨、風、動植物など)や、両親、兄弟、先祖、職場の同僚、地域の人々、世の中のすべての人々のおかげだと考えます。世の中は、全てのものが互いに依存し、助け合いながら存在しているのだと気付きます。太陽は万物万生に等しく光を与え、決して見返りを求めません。雨や風、空気なども同じです。それこそが慈愛そのものです。

こうした考え方に立った上で、さらに、自分の健康については必要以上に心配しない、心配し過ぎている自分や不安を大きくしている自分に気付いたら、心のブレーキをかける、そして自分の体のこと以外のポジティブなことを考えるようにすることが体に良い考え方です。さらに、自らの心の中にある怒りや恨み、ねたみ、おごり、非難、愚痴、嫉妬、貪欲の要素に気付き、反省し、より良い心の状態に変容していくよう努力するということが大切です。

「今」に意識を集中させる

本日お話しするマインドフルネス瞑想では、「今」という瞬間に意識を集中させます。「今」に意識を集中させることで、前向きでポジティブな思考ができるようになります。心の中で、自分の今現在の心の動き、体に注意を集中させます。心の中で何を感じているのかに意識を集中させます。

これは、頭の中を空っぽにすることではありません。心の中や体で何を感じているのか、それをありのままに、良い、悪いの判断をせず、思いやりの心をもって受け止めます。

マインドフルネス瞑想の特徴

この子犬を見て、何を感じますか?

下の絵をご覧下さい。かわいい子犬ですよね。この子犬を見て、何を感じますか?この犬は、部屋のあちこちを歩き回り、時にはお漏らしをしたり、せっかく片付いた部屋の中を散らかすかもしれません。それでも、犬を責める、あるいは批判することはできない気がします。

マインドフルネス瞑想では、自分の心の中にある不安や怒り、イライラなどの感情に対しても、ありのままに観察し、良いか悪いかの判断をせずに、思いやりのある心でそのまま受け止めることが大切なのです。

この子犬を見て何を感じますか

慢性的な病気や痛みに改善効果

マインドフルネス瞑想は、慢性的な病気や痛み、うつ病、パニック障害などの症状に改善効果があることが米国での調査結果などから科学的に証明されつつあります。

このほか、免疫を高める、慢性的な炎症を和らげる効果があることが分かりつつあります。さらに、マインドフルネス瞑想により対人関係が改善し、仕事の集中力が増すと言われます。想像力を高め、企業の業績を上げる効果があることが示されており、世界的な企業であるグーグルやアマゾン、インテル、ヤフーなどの会社で社員を対象に活用されています。

瞑想は心のトレーニング

マインドフルネス瞑想は、心のトレーニング方法です。西洋医学的な治療に加えて、マインドフルネス瞑想を行うことによって病気や症状のさらなる改善につながるのではないかと、私は考えています。マインドフルネス瞑想には主に4つの方法があります。

  • 1つ目は呼吸の瞑想(呼吸に意識を集中させる練習)です。
  • 2つ目は歩く瞑想(歩くことの感覚に意識を集中させる練習)です。
  • 3つ目は食べる瞑想(食べ物を見て、口に入れて、ゆっくりと感じながらかむ練習)です。
  • そして、4つ目はボディースキャン(体のあちこちの場所に意識を集中させることで、全身のリラックスを図ること)です。

例えば「食べる瞑想」では食物がどう栽培され、どのように収穫されたのかなどに思いをはせ、心で感じたものを確認します。また、ボディースキャンでは、まず左足の先に意識を集中させ、つま先から足の裏、膝、すねなど順番に体の一部を思い浮かべながら全身のリラックスを図る方法です。他にも多くの方法があります。

マインドフルネス瞑想4つの方法

瞑想をするときの姿勢は

最初は、いすを使うのがいいでしょう。背もたれにはもたれません。背筋を伸ばし、足は床に付けます。ゆったりと座ることが大事です。私は、寝る前に、床に座布団を敷いて、その上に座って瞑想します。時間は、だいたい20分くらいです。

次に、瞑想しているときの呼吸法ですが、深呼吸はしないでください。自分にとって、楽な、ゆっくりとした呼吸でいいのです。「吸って」「吐いて」と頭の中で唱えながら、呼吸することだけに意識を集中させます。目は閉じ、おおむね3分間続けてください。呼吸などの瞑想を続ける中で、「顔がかゆい」や「部屋のエアコンの音がするな」「これって、意味があるのかな」「今日の夕方、ご飯は何にしようかな」など、瞑想とは何の関係もないことを思い浮かぶかもしれません。こんなときや、別の不安が心をよぎった場合は、まずは呼吸以外のことを考えている自分に気付くことが大切です。その上で、再び意識を呼吸に集中すれば良いのです。

瞑想をする時の姿勢

呼吸の瞑想の続け方

瞑想は最初、難しいかもしれません。そんなときには毎日、朝夕3分ずつから始めてみましょう。あるいは、町を歩いている際には、信号待ちの時間を使ってみるのも有効です。信号待ちで、まず1回だけ呼吸に意識を集中してみるのです。1回の呼吸ができたら、2回、3回とやってみる。このほか、バスに乗っているときや、自宅でお風呂に入っているとき、トイレに座っているときでも呼吸瞑想は可能です。時間を見付けて挑戦してください。

空気がいつでも、ただで吸える幸せを感じながら、呼吸することもできます。この空気が作られるために、太陽や海、川、湖、森の緑、風土、動物など、すべての存在が必要であることをイメージしてください。植物の光合成の結果、空気に欠かせない酸素が生み出されていることを不思議に思い、感謝の気持ちを感じながら呼吸の瞑想を行っても良いのです。

呼吸の瞑想の続け方

最後に

マインドフルネス瞑想に即効性はありませんし、劇的に効くものでもありません。半年から1年、2年かけて徐々に安定した心を育てていくものです。生活習慣を改善するほか、薬や手術などによる治療を受けることは、もちろん大切です。

ご自身の心の不安定さ、不健康な考え方を反省し、心がより安定した状態になっていけるように、時間をかけてご自身を変容させていくことにも目を向けてみてください。マインドフルネス瞑想は、その一つの手助けになりうると考えています。

最後に


プロフィール

洛和会音羽病院 副院長
総合内科兼感染症科 部長
神谷 亨(かみや とおる)

  • 専門領域
    内科学、感染症学
  • 専門医認定・資格など
    日本内科学会認定内科医/総合内科専門医
    日本感染症学会感染症専門医/指導医
    米国内科学会専門医
    米国感染症学専門医
    米国ユタ州医師免許
    臨床研修指導医
    日本プライマリケア連合学会認定医/指導医
    インフェクションコントロールドクター(ICD)
    京都大学医学部臨床教授

洛和会音羽病院

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