研修指導医日記

腹部疾患四連発! ~その4~

総合内科のTです。
腹部疾患四連発。お付き合いありがとうございます。とうとう最終章です。
いろいろありまして、第四弾が遅くなってしまいました。心待ちにされていた方(!??)お待たせしました☆

では、いってみましょう!

あ、これまでもそうですが、患者さんが特定されないように、また、お伝えしたい部分がボケないように、病歴などは変えている部分があることを今更ながらお伝え申し上げます。

30歳代女性、立ちくらみ、腹痛、下痢

特に既往疾患のない方。起床はいつも通りで、家事を済まし、朝食もいつも通り摂取。昼前に突然立ちくらみが起こり、気を失いそうになった。こういうことは初めてであった。下腹部痛・下痢もあった。腹痛が増強するため午後当院ERを受診。

ERにて、バイタルサイン 血圧 80/50 脈拍110、整 酸素飽和度97%(室内気) 体温37.0度。
意識レベル 見当識は保たれているが、ぼーっとしている。外観 苦痛そうではない。
さらに心電図施行、問題なし。収縮期血圧(SBP)<脈拍であり、ショックの可能性があるが、明らかな外出血は病歴上・診察上なし。吐血・喀血なし、下血なし。血尿なし。

よって、内出血精査でエコーをしたところ、胸腔内は問題なさそうだが…腹腔内に多量の液体貯留を認めた! 循環血液量減少性ショックと考えられた。

どこからの出血か? 大動脈は瘤状ではなくいわゆるAAAはなさそうだ。AAD(急性大動脈解離)はエコー上flapはなさそうだが、エコーでは完全否定はできない。卵巣も腫大はなさそうだが、technician dependentであるエコーでは腕が良くないと骨盤腔内は分からないことも多い。月経については、規則的にあり、現在月経が終わり1週間程度経過しているとのこと。

特に既往のない30歳代女性。病歴上はこれまで出血傾向もない。Gravida1 Para1(妊娠1 出産1)で、分娩時も出血は多くなかったとのこと。卵巣出血も今のところなさそう。何が起こっているんだ??? 失神して腹部外傷でも起こしたのでは、と何度も失神してないか尋ねるも、ないとのこと…

ショック状態にて精査と蘇生行為を行いABCを安定せしめるのは疾患によらず同様に行うべきこと。それをいつも通り履行しつつも、そう思わざるを得ない。
バイタルの安定化をはかって、造影CTへと急いだのであった…

原因不詳の腹腔内出血―――特発性腹腔内出血(abdominal apoplexy)という表現もある。精査するなかで、出血源が判明すると特発性とは言わない。造影CTでも血管造影しても試験開腹しても原因が分からないと、特発性腹腔内出血といえるだろう。報告レベルでは肝動脈・胃大網動脈からの出血、小動脈瘤からというものも散見される。小動脈瘤は原因不詳のものや結節性動脈炎などによる、との報告がみられた。

まれではあるが、結合組織疾患で出血がみられることがある。マルファン症候群やエーラス・ダンロス(Ehlers-Danlos syndrome;EDS)の血管型(IV型)によるものが代表例である。マルファン症候群は常染色体優性遺伝(AD)であり、両親・親族におられないか、確認する必要がある。ただし、遺伝性でない例も25%程度あるともいわれている。身体的特徴があり、高身長そしていわゆるarm spanが身長よりも長い・クモ肢・クモ状指である。大動脈瘤破裂で腹腔内出血がきうるが大動脈解離、とくにバルサルバ洞破裂によるものは、マルファンで特徴的である。EDS IV型は報告レベルで胸腔内・腹腔内出血が散見される。気管支出血による喀血の報告もある。EDS IV型も常染色体優性遺伝(AD)であるが、通常のEDSにみられる、古典型のような結合組織や関節の脆弱性はなく、通常のEDSの特徴が定かでなく気付いていない例がある。前腕皮膚過伸展テストもほとんど正常であることも多い。諸外国では“medical alert”の疾患としてbraceletの着用が勧められる。したがって、EDS IV型が否定できないなら、積極的な介入をしないといけない。

マルファン症候群・EDS IV型による腹腔内出血は、原因がはっきりしないときは疑う必要がある。これらも可能性が低いなら特発性腹腔内出血となるのであろうが、どこまで疑うかなど悩ましい問題である。