研修指導医日記

ほんとにご無沙汰です。

皆々さん。総合内科のTです。

前回の投稿が3月でしたから、半年以上ぶりです。

何をしていたかといいますと…普通に診療などをしていました。病気で倒れたわけでも、消えていたわけでもありません。

では、どうして更新がなかったのかと言いますと…3月以降、新型コロナウイルス感染症がひどくなりつつあり、呼吸器科・感染症科の先生方が忙しくなってきておりました。われわれ総合内科医も新型コロナウイルス感染症の患者さんを直接みることはあまりありませんでしたが、「銃後の守り」的な対応を迫られ、忙しくしていた面が大きいと思います。

なので、初期研修医の感動の卒業ネタも書かせていただきたかったのですが気が付くと4月になって、まったく旬を逃してしまい、とても書けなくなってしまいました。

さらに、その4月に当総合内科も新しい戦力を得て本年度は一層、臨床・教育に力を入れていこうとしていたので、それもネタにしたかったのですが、組織づくりやいろいろな実働で、ブログ更新のことも忘却の彼方へ行ってしまい…今となった次第です。

まったくの言い訳です。寝坊した小学生が担任の先生にしているのと同レベルですね…すみません。

この間、珍しい疾患の患者さんが続いたり、顕微鏡的多発血管炎が続いたり。山科はこれらを蔓延させるウイルスでも流行しているのか、なんて冗談を言ったりしていました。また、昨年できなかった学会発表も成し遂げることができました!

さて、われわれ総合内科の陣容はといいますと…

4月から日本呼吸器学会専門医の資格を持つW医師が加わり、急性期・膠原病診療に勢いが出てきています。昨年助っ人で来てくださっている八面六臂のオールラウンダーN医師(おそらく彼はこういう表現は好まないでしょうが)は今年も健在で、当科を陰に日向に支えてくださっています。さらに、10月にはバリバリの外科系専門医のS医師が内科のトレーニングを積むべく当科に合流してくださっています。

近い将来の話として…来年も2人当科に力添えをくださる素晴らしい医師が来られます。

外来診療、病棟診療、後方支援・地域包括ケア(当会の関連病院内科・訪問診療部門との連携も含む)、初期研修医教育、医学生教育、…などなどでさらなる充実が期待できるようになります!

松村総長・二宮院長をはじめ、これまで当院の総合内科を築き上げてきてくださった先輩方のバトンをしっかり握ってこれからもまい進してまいりたいと思います。

今後とも、よろしくお願いいたします。

勇気の要る診療行為

皆々さん。総合内科のTです。
あ! という間に、前回から1カ月くらい経ちました…何か時間が経つのが早くて驚いています。最低月2回書かせていただくのをノルマにしていたのですが…。

さて、今日のお題です。

「勇気の要る診療行為」

こう聞かれて、皆さんはなんと答えますか? 研修医の先生方なら、「動脈採血」とか「胸骨圧迫」とかでしょうか…逆に年季の入った先生でも、侵襲的医行為は長らくしてないので、することになったら勇気が要ります、とおっしゃるかもしれません。

いろいろあるでしょう。しかし、ここで取り上げたいのは、これです:
感染症で抗生剤治療中だが発熱が持続、または再燃したときの、抗生剤を中止して24時間後培養を採りなおすことです。

侵襲的医行為ではないですが、これって、勇気要りませんか??

特にこのブログで取り上げるに値すると思うんです。というのも、研修医の先生にできるだけ早いうちに身に付けておいてほしいし、後からでは身に付けにくいことだからです。

たしかに動脈採血、縫合、胸骨圧迫、など勇気要りますよね。でも、ある種の「なにもしない」という“医行為”はもしかしたら、もっと勇気が要るかもしれません。

患者さんが重篤でないなら、一旦抗生剤フリーにして診察、培養採りなおしはしないといけないプロセスです。また、少なくともその抗生剤は効いていないので、一旦中止するのは理屈です。ただ、感染性心内膜炎の治療初期などでレジメンを変えてはいけないときや、バンコマイシンの薬剤熱(late-onset feverなんていいます)で発熱を容認して使い続けるときがある、などの例外はあります。

医行為だけでなく、病状説明(いわゆるIC)、などでも自分を奮い立たせて勇気をもって対応しないといけないことがありますね。

今回は、研修医に必要な“医行為”である“24時間抗生剤フリー”についてお話ししました。

新規感染症

今回のお題は「新規感染症」です。

これは研修医も無関係ではありません。
夜間や日・祝日のERの最前線で戦いつつ勉強している研修医は、もしかしたら危険にさらされる可能性があります。でも、これはこの「新規感染症」に限った話ではありませんが…

研修医が診察する前、さらにトリアージナースがトリアージする前に、窓口でチェックしておかないといけないわけですが、さまざまな理由により素通りしてくることもあり得ます。

研修医の先生には、4月の入職の時点でさまざまな研修を受けてもらっています。ICLSコースもその一つで、私が担当しています。そのほか、この感染対策も当然入職時に身に付けてもらっています。

当院には感染症科があり、かなり優れたICTがありICNもいます。ですので感染対策、また万が一暴露されてもその後のフォローもしっかりしています。

皆さんもご存知の通り、幸い感染率や致死率はSARSほどではないようです。慌てないことです。名前も「COVID-19」と決まったようです。地名を入れて不要な風評被害を与えることなく、またきっとこれからもコロナウイルスは形を変えて襲ってくるので、年号を入れたわけです。

中世ヨーロッパの黒死病(ペスト)、20世紀最悪のスペイン風邪(インフルエンザ)、今世紀のSARS、MERS、そして2019年の新型インフルエンザなどなど、私たちは新しい感染症にさらされてきました。
大切なことは正確な情報把握と、適切な感染対策です(情報が隠蔽されるようでは対策が練られないのですが…)。報道も正確に伝えてもらわないと、ただただ非医療者の不安をあおるだけなので、今回の感染症を通して、今後来るであろう新型鳥インフルエンザ、その他の感染症対策に役立てていただきたい、と思います。

あ、間に合った!??

皆さん、新年…あ、間に合ったかな??

洛和会音羽病院は洛和会ヘルスケアシステムのグループの一つであり、その当会の理事長先生が、1月11日(土)の新年会で、「あけましておめでとうございます。関東の松の内は7日までだが、関西は15日までだ」とおっしゃっていました。

ですので『間に合った』です。

改めまして、
あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

さて、この指導医日記ですが、新年一発目のネタは何で行きましょうか。
執筆しています総合内科Tは、研修指導医という顔もありますが、ICTという顔もあります。ICTとは、Information Communication Technologyではありません。Infection Control Teamの方です。こっちのほうが古いんです。先なんです。

ICTの話題を出してきましたのは、毎年年末年始の長期休暇中にインフルエンザが病院で流行することがあります。いくら休みでも、放置するととんでもないことになりますので、必要に応じて出勤し、対策をしてきました。

しかし、今年はそれがなかったのです。

なぜか。例年より京都市では流行が少なかったことと、看護師さんの意識が定着し、早々に対処してくださりTが出てくるまでもなく落ち着いたからです。
その代わりといいますか、お隣の中国で新型の肺炎が流行しているようです。
どうも、コロナウイルスによる新型の肺炎のようです。コロナウイルスの新型の肺炎というと、SARSやMERSを思い出します。今回はどうやらSARSではなく、違うコロナウイルスのようです。

当院では、初期研修医の先生には、特に病歴聴取は大事にしていただいています。洛和会京都医学教育センター 所長のS先生を筆頭に、カンファレンスではしつこく聞かれます。
ただの感冒、と思われても、非典型的な症状のインフルエンザもありますので、接触歴は聞く必要があります(比べて軽症となるインフルエンザB型も見つかりました)。そこに上記の新型の肺炎のチェックで渡航歴を聞く必要があります。いたずらに騒ぐ必要はなく、冷静に渡航歴を聞きます。中国は広いですので、武漢方面でないなら通常通りの対処で良いと思われます。Tは、以前勤めていた国立病院で1例だけSARS疑い例を診察したことがありますが、SARSではありませんでした。仰々しい空気感染予防策にSARS対策独自のコスチューム(?)で診察したことを覚えています。

さて、4月の新入職者が来られた頃に感染対策の話をすることがありました。標準予防策に三経路予防策、そして血液感染予防策のお話をします。

標準予防策は良いとして、三経路とは飛沫感染・空気感染・接触感染です。血液感染とは針刺しなど、血液にまつわる感染のことで、職業感染とも言われます。事務系の新入職者には直接関係ありません。医師・看護師・技師・薬剤師・療法士聴覚士が関わる可能性があります。
特に強調するのは手洗い。つまり接触感染予防策ですが、時として大事なのは飛沫感染です。空気感染も急性期病院だけではなく、慢性期病院でも結核患者さんが見つかったりしていますので油断できません。
飛沫感染は上記の武漢の新型の肺炎でも重要な対策です。

ちょっと冗長な文章となりすみません。正月気分が抜けていないのでしょうか? 正月は家よりも病院にいる時間の方が長かったのですが(苦笑)。

こんな感じでゆる~く話題性のあること、研修に関わること、たまに関係ないこともあるかもしれない、といった内容で大串したいと思います。

そろそろ、T以外の最前線の指導医たちにも登場いただこうとも思っています。

非典型的な症状のコモンな病気

皆さま、こんにちは・こんばんは。総合内科のTです。

Tだけのブログでは飽きてこられた方も多いかもしれません。そろそろ当院のポテンシャル高き指導医たちに登場いただくことを考えていますが、今回は我慢してTにお付き合いください。

今回のお題は、「日点綴的な症状のコモンな病気」です。
これまでもそうですが、実際に研修医がファーストタッチした、または関わった事例を年月や背景、年齢などをぼやかしたりして個人の特定に至らないように配慮して書いていますので、かっちり診断推論されたい方には焦点が定まらないかもしれません。

患者さんは77歳男性。

「とにかくだるい!」が主訴です。既往歴は治療によるコントロールされている高血圧と、経口血糖降下剤内服中のA1c7.5%程度の糖尿病があります。
この日の朝起きた時はなにもなく、いつも通りの生活をされていたとのことです。朝の散歩、朝食・昼食も通常通り食されました。

午後3時ごろに急にだるくなって、座るのがやっと、とのことでした。嘔気までではないが気持ち悪く、頭痛・胸痛・背部痛・腹痛はないとのことでした。発熱もありません。麻痺もなく、意識はいつも通りにほぼ保たれています。

夕方、午後7時ごろ、救急車で同居の妻とともに来院されました。バイタルは血圧170/90、脈95整、酸素飽和度92%(室内気)、体温35.6度でした。意識はほぼ清明です。

冬のことで、インフルエンザが流行しかかっていましたが、迅速検査はER受診の時点では陰性でした。先に書いてしまいますと、動脈血ガス、採血は特に優位な所見はありませんでした。身体所見は、上記バイタルサインに、thoroughにとってみましたが、頭部・胸腹部・神経学的所見に大きな問題はありませんでした。

さて、どうしましょう。なにが起こっているのでしょうか…? 当院のバイブルで、カリスマドクターの医学教育センター長S先生ならば、もっと病歴や身体所見を詰めにかかられると思います。ですが、双方向性に議論できないブログですし、このくらいで勘弁していただいて、話を進めます。

上記の所見に加え、ER到着時点で12誘導心電図もとっていたこと、血圧の左右差を見ていたことを追加記載しておきます。心電図は正常洞調律(心拍数98とやや頻脈傾向)、右心不可所見の右脚ブロックや、SⅠQⅢTⅢ、右房Pなどは認めません。血圧の左右差もありませんでした。要するに、だるい、以外の症状はほぼなく(軽い嘔気程度)、バイタル、検査所見も有意なものはありませんでした。

…………

研修医Hは言いました「先生、なんか汗かいてませんか?」
T「……!??」

これは大きな所見でした。CK、トロポニンIをとると高値でした!
病名は急性心筋梗塞でした。

典型的な胸痛はなく、心電図もほぼ正常でした。いわゆるST上昇のないものでした。
CKはER受診時の病歴と心電図で急性心筋梗塞を大きく疑わなかったので、とっていませんでした。

今ならば、全身倦怠感だけでももっと急性心筋梗塞/急性冠症候群を詰めていきますが、当時はあまあま指導医だったので、こんな感じでお粗末でした。

急性心筋梗塞の25%は典型的な像を示さないとか、急性大動脈解離は血圧左右差や痛みの移動、胸部レントゲンで縦隔拡大を認めないものを18-25%あるとか、いろいろ言いますが、これらの数字を克服するように、たとえ夜でもするのが救急と思っています。

非典型的な症状のシビアな疾患は見つけたとき、また見落としたときは一層背中がぞーっとします…。

急性虫垂炎も嘔気のみなど、ほんとは? もしかして? と思ってエコーなどして発見したときは安堵感と、ぞーっとした気分が同時に襲ってきます。

ERだけでなく、一般外来でも同様のことはありますが、この診断推論が総合診療医にとっては醍醐味でもあるわけで、その中毒性にやられて今に至っております。恐れず邁進していこうと改めて思いました。