研修指導医日記

医師臨床研修制度

皆さま、こんにちは・こんばんは。総合内科のTです。

Tは初期研修医の指導医ですが、“指導医の指導医”のときもあります。
それは、「臨床指導医講習会のスタッフ(タスクフォースといいます)」をするときがある、ということです。平成16年ごろから年1回程度させていただいています。(途中何年か飛んでいるときもあります)

そもそも、医師臨床研修制度とは、どのようなものでしょうか? これまでいくつかの変遷があります。

以下、厚生労働省のホームページから一部引用しています。

(1) 昭和21年 実地修練制度(いわゆるインターン制度)の創設
国民医療法施行令の一部改正により創設。昭和23年に現在の医師法が制定され、同法に基づく規定となる。
大学医学部卒業後、医師国家試験受験資格を得るための義務として、「卒業後1年以上の診療及び公衆に関する実地修練」を行うこととされた。

(2) 昭和43年 実地修練制度の廃止、臨床研修制度の創設
大学医学部卒業直後に医師国家試験を受験し、医師免許取得後も2年以上の臨床研修を行うように努めるものとするとされた。(努力規定)

(3) 平成16年 新医師臨床研修制度
診療に従事しようとする医師は、2年以上の臨床研修を受けなければならないとされた。(必修化)

平成16年のいわゆる研修義務化にともない、指導医講習会を開催することが多くなり、Tにもタスクフォースというお役が回ってきました。研修義務化により、その研修を受けた若手医師たちの基礎的な臨床能力が向上していることは、日常臨床の中で彼らと関わる中でひしひしと感じます。平成16年からの研修が医師としての基本的な能力の底上げをしたわけです。

ところで。

時代も変わっていっています。情報が瞬時に行き交うこの時代、非医療者でも医療情報が入手でき、医療に関する知識を相当持っています。治療法を本人が、またご家族が一層選択できる時代となっています。また超高齢社会に突入して久しい日本、治療する方がいいのか、介護はどうしたらいいのか。終の棲家はどうしたらいいのか…前代未聞の問題に直面しています。

そういった点から、来年令和2年度から、省令改正があり、以下のことが強調されました。
(令和2年4月1日施行の医師法第16条の2第1項に規定する臨床研修に関する省令の改正を踏まえて)

  1. 医学部教育を踏まえた指導方法(大学教育と初期臨床研修のシームレス化)
  2. 以下に重点を置いた指導医講習会を開催する
    地域医療研修、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)、医療安全

Tもこれらに重点を置いた指導医講習会に参加してきました。久しぶりの受講生の立場です。

地域医療については、指導医講習会でレクチャーさせていただいたことがあります。単に“訪問診療の話”ではありません。また「地域」は辺地な場所のことではなく「コミュニティー」という意味で、東京の大都会でも地域医療はあるわけです。厚生労働省の唱える地域包括ケア、ちまたでも話題となる「2025年問題」などは、大都会でも問題となっています。いわゆる地域、Localと英単語で表されるところはなおさら大変とは思います。

ACPは、高度化する、また高額化、長期化する医療のなかで、どのように治療してほしいかを決めることです。そして患者さんの意向はいつでも変えられます。単なるリビング・ウイルではありません。リビング・ウイルは“指示書”です。DNARはACPにおいての決定での救命措置はしないというオーダーです。こういった類似の用語の意味をとり間違えず、ACPを研修医に教えないといけません。ACPを指導医が熟知していないと、とんでもない間違いを教えてしまう、ということになります。

ACPは地域医療実習・訪問診療で教えたらいい、と短絡的には言えないわけです。もしかしたら、急性期病院の、たとえば、がんの治療前、手術前、化学療法前から始めないといけないかもしれません。
医療安全もそうで、患者さんの安全は当たり前、と一言で片付けられない項目です。

たとえば…この文章をお読みの方はドクターが多いかと思いますが、インシデントレポートをどれだけ書かれているでしょうか? しっかり書いてます! という方…失礼しました。
書いておられない方、研修医に指導する前に、まずはご自身が書かないといけません。

大きな事故は小さな事故がたくさん起こるところで生じるので(ハインリッヒの法則)、小さな事故の報告は大変重要です。そしてその小さな事故はかなり日常的にたくさん起こっていることから、各部署で定められた数の報告が無いことは、事故がないのではなく、インシデントそしてアクシデントのレポートの提出を怠っていると考えるわけです。

今回は異色な内容でお送りしています。書いている私自身、今、とても大変な時代に医者をしているんだなあ、と書かせていただきながら、改めて感じております。

わたしたち指導医は、これから医師になる、また医師として基礎を築いていく後進のために研修医制度をしっかり整え、それをよりどころにして指導医としての学びをして、変化をして進んでいかないといけないのです。

うそのような、本当の話

総合内科のTです。
今回のお題は「うそのような本当の話」です。

標題は、今後もありそうなので、第一弾、とかつけようかとも思いましたが、連続して続くシリーズものと誤解釈される可能性がありますので、標題のままにします。きっと、第二弾、とか、Part2とか、今後ありますがね…

では、今回の内容です。
何がうそのようなのか、いってみましょう!

何年か前(もっと前?)のとある病院の救急室です。研修医というにはちょっと年季の入った研修医先生が混み合った救急室のカーテン内の一角で意識障害と思しき患者さんを診ていました。私は別の患者さんの初療にあたっていました。私は、その研修医先生の指導医でした。

研修医先生「〇〇さーん! ここはどこですかーーー!!」
患者さん「……かた…かた…」
研修医先生「あー、だめだ、すっかり意識障害に陥っていてうわ言を言ってる…」
Tの頭の中「(声が大きすぎてうるさいなー。あとぼんぼんたたきすぎだよ)」

すると、とある先生が「△△先生。もしかして、肩をたたいてないか?」
研修医先生「……」

肩をぼんぼんたたいておられました…
氏名、日時や場所、生年月日を訪ねると、その程度の質問には、ちゃんとお答えくださいましたとさ。

確かに「かた、かた」と言われると、すぐにはうわ言と思ってしまいますが…強くたたきすぎたのも一因でしょうか…肩をたたかれてここはどこ? と聞かれたら、患者さんによっては「肩」と言いますよね。

うそのような経験はTにもあります。

T「指を追いかけてみてください」

外眼筋の検査ですね。すると、ちゃんと動きました。「EOMI(extraocular movement intact;外眼筋運動問題なし)」と電子カルテに入力しようとすると…
患者さんが身を乗り出してさっき見つめていた私の指を見つめて追いかけているのです!
「もういいですよ」と言っても…差し出した手の人差し指をじーっと見つめているのです。認知症のある方の脳神経所見をとっていたのですが…同伴のご家族の方に「もういいんですよ」と促されても私の指に穴があくまで見つめておられました…

さらに。ちょっと話はずれているのかもしれませんが、もう一つ。

高熱と、意識障害でぼーっとされているがご家族の介助で独歩できる中高年男性がwalk-inで来られたときのことです。神経所見をとる一環で、麻痺のチェックで手を握ってもらって検査をしていた頃があるのですが…

T「では手を握ってください……!!!!」

とても痛かったのです! 痛さのあまりいすから立ち飛び上がり両手を振りながら苦悶様表情を呈しながら部屋の中をぐるぐるしてしまいました…相手は体格のいい農夫さんでした…結果的に髄膜炎疑いで腰椎穿刺をして(男性4・5人がかりで抑えて検査したのを覚えています)、最終的には肺炎球菌性髄膜炎の診断となったのですが、この診察法は思慮が足りませんでした。

いろんなうそのような本当の話があると思います。今後もeducational、はたまた、とほほ…も含めてお送りしてまいります。

二次検診で来られたのですが…

皆さん、こんにちは・こんばんは。総合内科のTです。

たった4つの腹部疾患を書かせていただいたのですが、いろいろな分野の腹部疾患があるもんですねえ。これが胸部、頭部・中枢神経系、などなど…となると、いろんな病気があるわけですよ。世界中の医師たちが日頃知力の限りを尽くし、診療にあたっているのに頭が下がります。(自分も医者ですが…思わず第三者的にそう思ってしまいます)

さて、今日のお題は…二次検診です。しかし、二次検診自体が焦点ではありません。いわゆる「ついで」が問題でした。いってみましょう。
くどいですが、患者さんの特定を避けるために、所々実際の症例と変えていることをお伝えしておきます。

55歳、女性。

毎年職場の健診を受けており、脂質で異常を指摘され、毎年受診をしている。健診結果を見ると今回も同じだ。名前をお呼びして、患者さんが入ってくると、座るやいなや「コレステロール値がちょっと高いですけど、食事療法を頑張っているから薬はいいです」とのご発言。…それについてこちらからお答えする前に、彼女はさらに続けた。
「右の背中が痛いんですよ、時々。20年以上痛い」

20年以上痛い背部痛。右側。20年という時間で重症疾患ではないと分かるが、何だろう。触診しますと…
「そこです。それです。なんかあるでしょう? 癌でしょうか?」

癌が20年もあるわけないので、それは考えないのですが……これは!
何だと思います? 答えが見えないように、数行開けておきますから、考えてみてください。

 

 

 

 

第十二肋骨先端、でした。

同年に施行された胸部レントゲンがあったので、それをお見せして説明(どうして施行されたかまで調べてません)。通常の方より第十二肋骨が長く、右側腹部にまでかかろうかという位置にあり、そこを押したり肋骨にtensionをかけると同部に痛みが誘発されました。しかし肋骨に沿って押しても痛みはありません。骨折ではなさそうです。転倒などもしていないとおっしゃります。なんで痛いのでしょうか? しかしその腫瘤が問題がないものと知って安堵されてました。明らかに入室時の突き刺さるような言い方ではなく「何十年も悩んでいました。原因がはっきりしてよかった。初めて聞いたんです。検診と関係ないけど、相談してよかった」と安堵感満載の発言でした。

ちょっと良い気持ちですね。世界中の医師たちもこうした患者さんの言葉が一番の励みで最前線に立たれているのだと思います。

ところで、痛みではありませんが、こういうのも経験しています。50歳代男性、やせ型の方が、胃癌ではないか、と来られました。テレビで心窩部に腫瘤を触れ胃癌が見つかった、とやっていたので自分も触ってみると、あるではないか、心窩部に腫瘤が! と、来院されました。
なんでしょう。同じように考えてください。また答えが見えないように数行開けておきます。

 

 

 

 

剣状突起、でしたとさ。

以上、今回はここまで。

腹部疾患四連発! ~その4~

総合内科のTです。
腹部疾患四連発。お付き合いありがとうございます。とうとう最終章です。
いろいろありまして、第四弾が遅くなってしまいました。心待ちにされていた方(!??)お待たせしました☆

では、いってみましょう!

あ、これまでもそうですが、患者さんが特定されないように、また、お伝えしたい部分がボケないように、病歴などは変えている部分があることを今更ながらお伝え申し上げます。

30歳代女性、立ちくらみ、腹痛、下痢

特に既往疾患のない方。起床はいつも通りで、家事を済まし、朝食もいつも通り摂取。昼前に突然立ちくらみが起こり、気を失いそうになった。こういうことは初めてであった。下腹部痛・下痢もあった。腹痛が増強するため午後当院ERを受診。

ERにて、バイタルサイン 血圧 80/50 脈拍110、整 酸素飽和度97%(室内気) 体温37.0度。
意識レベル 見当識は保たれているが、ぼーっとしている。外観 苦痛そうではない。
さらに心電図施行、問題なし。収縮期血圧(SBP)<脈拍であり、ショックの可能性があるが、明らかな外出血は病歴上・診察上なし。吐血・喀血なし、下血なし。血尿なし。

よって、内出血精査でエコーをしたところ、胸腔内は問題なさそうだが…腹腔内に多量の液体貯留を認めた! 循環血液量減少性ショックと考えられた。

どこからの出血か? 大動脈は瘤状ではなくいわゆるAAAはなさそうだ。AAD(急性大動脈解離)はエコー上flapはなさそうだが、エコーでは完全否定はできない。卵巣も腫大はなさそうだが、technician dependentであるエコーでは腕が良くないと骨盤腔内は分からないことも多い。月経については、規則的にあり、現在月経が終わり1週間程度経過しているとのこと。

特に既往のない30歳代女性。病歴上はこれまで出血傾向もない。Gravida1 Para1(妊娠1 出産1)で、分娩時も出血は多くなかったとのこと。卵巣出血も今のところなさそう。何が起こっているんだ??? 失神して腹部外傷でも起こしたのでは、と何度も失神してないか尋ねるも、ないとのこと…

ショック状態にて精査と蘇生行為を行いABCを安定せしめるのは疾患によらず同様に行うべきこと。それをいつも通り履行しつつも、そう思わざるを得ない。
バイタルの安定化をはかって、造影CTへと急いだのであった…

原因不詳の腹腔内出血―――特発性腹腔内出血(abdominal apoplexy)という表現もある。精査するなかで、出血源が判明すると特発性とは言わない。造影CTでも血管造影しても試験開腹しても原因が分からないと、特発性腹腔内出血といえるだろう。報告レベルでは肝動脈・胃大網動脈からの出血、小動脈瘤からというものも散見される。小動脈瘤は原因不詳のものや結節性動脈炎などによる、との報告がみられた。

まれではあるが、結合組織疾患で出血がみられることがある。マルファン症候群やエーラス・ダンロス(Ehlers-Danlos syndrome;EDS)の血管型(IV型)によるものが代表例である。マルファン症候群は常染色体優性遺伝(AD)であり、両親・親族におられないか、確認する必要がある。ただし、遺伝性でない例も25%程度あるともいわれている。身体的特徴があり、高身長そしていわゆるarm spanが身長よりも長い・クモ肢・クモ状指である。大動脈瘤破裂で腹腔内出血がきうるが大動脈解離、とくにバルサルバ洞破裂によるものは、マルファンで特徴的である。EDS IV型は報告レベルで胸腔内・腹腔内出血が散見される。気管支出血による喀血の報告もある。EDS IV型も常染色体優性遺伝(AD)であるが、通常のEDSにみられる、古典型のような結合組織や関節の脆弱性はなく、通常のEDSの特徴が定かでなく気付いていない例がある。前腕皮膚過伸展テストもほとんど正常であることも多い。諸外国では“medical alert”の疾患としてbraceletの着用が勧められる。したがって、EDS IV型が否定できないなら、積極的な介入をしないといけない。

マルファン症候群・EDS IV型による腹腔内出血は、原因がはっきりしないときは疑う必要がある。これらも可能性が低いなら特発性腹腔内出血となるのであろうが、どこまで疑うかなど悩ましい問題である。

腹部疾患四連発! ~その3~

皆さま、こんにちは・こんばんは。総合内科のTです。
腹部疾患四連発の第三弾です。飽きずにお付き合いください。

60歳代後半の男性。

右下腹部痛を主訴に当科を受診された。1週間程度前より胴部の違和感を自覚。時々ピリピリするようになった。下着を上げたり更衣で痛みが増強するようになったとのこと。思い当たる外傷など誘因はない。

[右下腹部痛]→[急性虫垂炎]は当然考えないといけないこと。しかし。病歴で「歩行の振動による同部位の疼痛の増悪なし」と、いわゆるheel drop testに相当する病歴はなく、局所性腹膜炎の可能性は低そうであった。嘔気嘔吐もなし。

身体所見。
バイタルサインに異常なし。時々痛みが起こるのか苦痛様の表情をして右下腹部を抑える。

診察上同部位含め、胸腹部に皮疹なし。右上腹部・左上下腹部など、他の腹部に自発痛なし、圧痛なし。右下腹部の自発痛の部位は指で指し示すことができる。疼痛部位は狭く、圧痛はかなり限局していた。圧痛部位は触覚が落ちているようであった。表在覚の左右差を認めた。他の腹部、背部(dermatomeでTh10-L1レベル)の知覚異常なし。Carnett兆候陽性。

さて。皮疹がないことから帯状疱疹ではなさそうであった。皮疹のない帯状疱疹(zoster sine herpete)は否定できないが、知覚異常の範囲が狭くあまり帯状でないことから可能性は低いと思われた。

「痛い部位は指で指し示すことができた」「自発痛部位は狭く、また圧痛もかなり限局した狭い範囲であった」から、虫垂炎よりは狭い範囲の圧痛となると憩室炎や腹膜垂炎が頭をよぎった。しかし「圧痛部位は触覚が落ちているようであった」とのこと。さらにCarnett兆候陽性であることから、腹壁疾患の可能性が考えられた。Carnett兆候は虫垂炎でも陽性となることがあり(以前の投稿にも書きましたが)、腹壁に接した虫垂炎の炎症の波及でも起こることが知られている。腹膜垂炎でも同様でCarnett兆候が陽性になることをこれまで経験している。しかし、圧痛部位の知覚異常があることからやはり腹壁疾患であろうと思われた。

診断:前皮神経絞扼症候群

(ACNES;anterior cutaneous nerve entrapment syndrome)

前皮神経が腹直筋・筋鞘を貫く部位で絞扼(entrap)され、その支配領域で疼痛や知覚異常を起こす疾患。誘因は外傷や急な運動といわれるが、原因不明のことも多い。
特徴は、狭い範囲の自発痛・圧痛であり、時としてなぜか反跳痛を認めることもある。Carnett兆候が特徴的である。神経の絞扼のため、異常知覚(触ると熱く感じる、痛みを感じる)を生じることもある。

あまり聞かない名前だが、意外と多いとする報告もある。

治療は、同部位へのトリガーポイント注射である。リドカイン5cc(~10cc)程度、筋膜に近い皮下組織に注入すると5~10分程度で痛みが取れる。治療的診断にも使える。(あまりお勧めの考え方ではありません)
ブロック後、3~4週間して再発するときは再度リドカインを皮下注するが、ステロイドを加える方法もある。何度も繰り返す例は手術が選択される。

この方は1度きりで来院されませんでした。1回で完治したと信じています…。