- 開催日:2016年7月29日
- 講師:洛和会音羽病院 心臓内科 副部長 医師 万井 弘基(まんい ひろき)
はじめに
不整脈と聞くと、心配される方も多いようです。確かに急な治療を要する不整脈もありますが、放置しておいても大丈夫なものもあります。本日は、不整脈について、できるだけ易しくお話しします。
心臓の働き
心臓は、全身に血液を送るポンプの役割をしています。車でいえばエンジンにあたる働きです。心臓は不眠不休で働いており、1日に約10万回、一生では約30億回も拍動を続けます。
心臓の構造
心臓は、握りこぶし2個分ぐらいの筋肉の塊です。3本の冠動脈が表面を走行しており、心臓に酸素や栄養分を供給しています。心臓の内部は4つの部屋(2つの心房と2つの心室)に分かれており、4個の弁がついています。心臓は電気信号で動いており、その歩調取りをしているのは右心房内にある洞結節と呼ばれる部分です。この洞結節が体の動きや感情に合わせて電気的興奮を作り出し、それが心臓全体に伝わることで脈が速くなったり遅くなったりします。この電気的な流れを表したものが「心電図」です。
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心臓の病気
心臓の病気は、心臓のどこかが異常を起こすことで起きます。以下のように大別されます。
- 狭心症・心筋梗塞:冠動脈が狭くなったりつまったりする病気です。
- 弁膜症:弁に異常が起きる病気です。
- 心筋症・心筋炎:心臓の筋肉が太ったりやせたり、炎症などを起こす病気です。
- 不整脈:心臓を動かしている電気信号に異常がおきる病気です。上記1~3の病気が原因でおこることもあります。
これらの病気の結果、心臓のポンプ機能が低下した状態が「心不全」です。心不全は病名ではなく、心臓の状態を示す言葉です。心不全になると死亡の恐れが高まりますが、不整脈の中には、心不全になる前にいきなり死亡(突然死)してしまうものもあり、それが怖い点です。
不整脈とは
洞結節から正しく電気信号が出て、心臓がトン、トン、と正常に脈を打っている状態を「正常洞調律」と呼びます。これに対し、洞結節以外のところからも電気信号が出て、脈拍を乱す状態が不整脈です。不整脈は、多種多様にありますが、簡単に言えば「洞調律以外は不整脈」です。診断の基本は、どの不整脈かを突き止めることです。以下、代表的な不整脈について説明します。
上室性期外収縮
心房の中で洞結節以外にも電気信号を出すところがあり、脈を取ると、トン、トン、トトン…といった具合にとびます。
心室性期外収縮
心室から余計な電気信号が出て、脈がとびます。
心房細動
年齢を重ねると増えてくる最も頻度が高い不整脈です。心房のあちこちで電気的興奮が起き、バラバラに心室に伝わって脈が乱れます。心房全体がけいれんを起こしている状態で、血の流れがよどみ、心房内に血栓が出来ると、脳梗塞の原因にもなります。
心室頻拍
心室のどこかに異常な興奮が起き、脈拍が非常に速くなります。こうなると、心臓が空うち状態となり、頭に血が送られず、ばたっと倒れる(失神する)こともあります。
心室細動
心室のあちこちで異常な興奮がおき、心室全体がけいれんを起こしている状態で、こうなると100パーセント失神します。除細動器により停止可能ですが、この状態が10分も続けば死亡してしまいます。
洞性徐脈
洞結節が弱って、脈が作れなくなったり、遅くなります。体に十分な血液が送れないと失神することもあります。治療にはペースメーカの植込みが必要となります。
全ての不整脈が治療の対象となるわけではない
不整脈には、放置可能なものから、致死性のものまであります。不整脈の見極めが大切です。
不整脈の原因
- 心臓疾患:虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞など)や、心筋症(拡張型、肥大型など)、弁膜症(閉鎖不全、狭窄など)、心不全、高血圧(血圧が高い=心臓に負担がかかるため)
- その他の疾患:肺疾患、甲状腺疾患(ホルモンが出過ぎても不整脈が起こる)など
- 生活習慣・自律神経の乱れ:ストレス、睡眠不足、疲労、不安感、怒り、過度の運動、過剰なアルコールやカフェイン摂取など。
- 加齢
不整脈の症状
- 脈が飛ぶ
- 動悸(脈が速い、脈を強く感じる)
- 胸部不快感、胸痛
- 息切れ
- ふらつき、失神
- 突然死
また、無症状も多いです。(不整脈は出ているが、異常を感じない)
自己検脈の方法
不整脈を自分で調べる方法です。手首の橈(とう)骨動脈(親指側)に沿って指を3本そろえて当てると脈を触れます。15秒間の脈拍数を4倍して1分間の脈拍数を確認します。脈のリズムが整っているか、不整かも大事です。
不整脈の診断
まず、心臓そのものに異常がないかを調べます。心電図や胸部レントゲン写真、採血(BNP=心臓にどれだけの負担がかかっているのかチェック、甲状腺ホルモンなど)、心臓超音波検査(動き、大きさ、壁厚、弁などをチェック)。そのうえで、不整脈の有無や種類などを調べます。そのためには、不整脈が出ているときの心電図が必要で、各種の測定機器や検査方法があります。
このほか、スマホアプリを利用した計測方法、運動負荷心電図、心臓電気生理学検査、皮膚の下に植込むUSBメモリー大の計測器などの方法があります。
不整脈の治療
治療には、
- 電気的除細動
- 薬物療法
- 経皮的カテーテル心筋焼灼術(カテーテルアブレーション)
- 植込み型デバイス治療
があります。
電気的除細動
不整脈による意識消失・ショック状態の人に対し、緊急に行う治療です。薬物治療が無効で準緊急的に行う場合は、事前に麻酔薬を投与し鎮静下に行います。
薬物治療
薬物治療の種類は以下の通りです。
- 抗不整脈薬:不整脈が起こらないようにする(抑制)、不整脈を止める(停止)。
- 心拍数調整薬:不整脈は止めずに心拍数が速くならないように調節。
- 抗凝固薬:血をさらさらにして、血のかたまり(血栓)ができにくくする。
内服方法には、1日1回から数回決まった量を毎日内服する「定期内服」と、不整脈発作が起こったときだけ不整脈を止めるために内服する「頓服」があります。
薬物療法の長所は、飲むだけでよく簡単で、外来で対応でき、比較的安価なことです。短所は、抑制・停止効果は50%前後で、だんだん効かなくなることがあることや、脈が遅くなったり血圧が下がる、血が止まりにくくなるなどの副作用があることが挙げられます。
経皮的カテーテル心筋焼灼術(カテーテルアブレーション)
主に脈が速くなる不整脈が対象です。
脚の付け根の太い静脈から電極カテーテルを入れ、心臓まで導き、心臓に電気刺激を加えて不整脈を誘発したり、心臓内各部の心電図を記録します。その後、不要な電気信号を出している心筋をカテーテル先端の電極で焼灼します。焼灼といっても、50~60度の熱で、心筋の表面に電極を押し当てて深さ5ミリ程度までの心筋細胞に傷害を与え、変性させる処置です。この治療の長所は、根治治療であり、成功すれば内服不要、通院不要となる点です。薬剤抵抗性の場合でも根治できる可能性があります。短所は、入院が必要なことや、治療費の問題、頻度は少ないですが合併症の可能性があること、また適応できない不整脈もあることです。入院期間は、当院では心房細動の場合3泊4日、心房細動以外は2泊3日または1泊2日です。
植込み型デバイス治療
500円玉大のペースメーカを胸の前あたりの皮下に植込み、リード線を血管内から心臓まで導いて脈拍を正常に保つ治療法です。また、心室細動時に自動的に電気ショックを起こして細動を停止させる植込型除細動器もあります。
まとめ
- 不整脈の種類は多様であり、全てが治療対象ではありません(放置可能なものも多いです)。
- 自己検脈をお勧めします。
- 不整脈を見極めるために、さまざまな診断方法があります。
- 治療が必要な場合、方法は個々の症例に応じて相談しながら決定します。
- ご自身の脈に不安がある方は、お気軽にご相談ください。
プロフィール
洛和会音羽病院
不整脈科 副部長
万井 弘基(まんい ひろき)
- 専門領域
心臓電気生理学、不整脈、カテーテルアブレーション、心臓植込み型デバイス - 専門医認定・資格など
日本不整脈心電学会認定不整脈専門医
植込み型除細動器/ペーシングによる心不全治療研修修了
日本循環器学会認定循環器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
日本医師会認定産業医
博士(医学)
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