- 開催日:2017年3月7日
- 講師:洛和会音羽病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 部長 医師 荒木 倫利(あらき みちとし)
はじめに
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鼻は、基本的には骨でできています。骨の間にある空間には、鼻腔や副鼻腔があります。鼻腔に炎症がある症状を鼻炎、副鼻腔に炎症がある症状を副鼻腔炎(別名・蓄膿症)といいます。
鼻のはたらき
鼻の働きには、呼吸器としての機能(ろ過、加湿・加温、抵抗器)と、感覚器としての機能(嗅覚)があります。ろ過機能としては、空気に含まれる細かい粒子を鼻の粘膜層で吸着し、線毛運動で胃に移送します。この結果、直径3~5マイクロメートルの粒子は80%、直径2マイクロメートルの粒子の50%を除去できます。加湿・加温機能としては、呼吸により空気が鼻を通り抜ける間に温度37度、湿度100%に調整されます。抵抗器としての機能では、粘膜下に静脈が発達し、これが膨らんだり縮んだりして通過する空気の量を調整します。肺の機能を高める役割も担っています。
鼻の病気の診察手順
まず問診で、症状の程度や変化、期間をはじめ、環境や季節との関係、他の症状がないかを伺った後、診察、検査に移ります。診察は鼻鏡や内視鏡で、検査は血液検査や画像検査、生理機能検査、アレルギー検査を、必要に応じて行います。
血液検査では、白血球数やIgE抗体(アレルギーの有無)、特異的IgE抗体(スギ花粉やハウスダストへの抗体)を調べます。アレルギー検査では、鼻汁中好酸球の数値や抗原誘発検査などを行います。画像検査では、CT撮影により、鼻の構造を正確に知ることができます。
アレルギー性鼻炎
アレルギー性鼻炎の治療は、
- 抗原の除去と回避
- 薬物療法
- 手術療法
- 免疫療法
- 治療薬の選択:症状によって薬の効果が違いますし、医師の処方が要る薬もあります。例えば、抗ヒスタミン薬はくしゃみや鼻水には効きますが、鼻づまりには効きません。鼻づまりに効く薬の中で、点鼻血管収縮薬は、長く使い過ぎると薬剤性鼻炎の恐れがあります。全般的な症状に有効なのは鼻噴霧用ステロイド薬で、きっちり使えば、1日1回の噴霧で高い効果があります。副作用はほとんどなく、くしゃみ、鼻水、鼻づまりの3症状のどれにも効く薬です。ところが、使う人の理解不足が多いのが問題です。「症状が出てから使えばいい」と思う人が多いため、せっかくの効果が上がらないのです。定期的に噴霧しておくことが大事なので、医師の指導どおりに使うことが大事です。
- 免疫療法:毎日、薬を飲んで、2年後に7~8割の人に効果が出る療法です。長期寛解(かんかい)、治癒が期待できる唯一の治療法ですが、アレルゲンの特定が必要、定期的な投与・診察が必要、まれに重篤な副作用がある、といった側面もあり、全員にお勧めできるとは言い難い治療法です。
- 鼻洗:1日に1~2回、生理食塩水(塩分濃度0.9%)で鼻の中を洗います。水道水で洗うと、鼻の粘膜の機能が侵されることがあるので、水道水はやめましょう。
- 温熱療法:43℃の蒸気が出る器具を鼻に当て、1回10分、1日2~3回、行う療法です。薬の影響がないので、妊婦さんには良い療法といえます。
- 薬剤性鼻炎:市販の点鼻血管収縮薬を多用する(1日に3~4回も点鼻)と、粘膜がパンパンに腫れて炎症を起こし、鼻づまりがひどくなります。リバウンドの鼻づまりが苦しいため、また点鼻することを繰り返すと、さらに悪化します。治療には、鼻内噴霧ステロイド薬を併用して、徐々に血管収縮薬を減らしてやる、または手術で治療します。
鼻副鼻腔炎(蓄膿症)
多くの場合は感染をきっかけにして、鼻副鼻腔の粘膜の働きが悪くなってしまい、その結果、鼻の自浄作用が低下し、副鼻腔の炎症が起こります。鼻とつながった空洞に膿や粘液がたまり、感染を排除できない、膿汁や粘液が鼻やのどに流れ続ける、といった症状が起きます。1カ月程度症状が続くのを急性鼻副鼻腔炎、3カ月以上を慢性鼻副鼻腔炎と呼びます。小児の場合は、かかりやすいですが治りやすいのが特徴です。特殊な型としては、真菌性、歯性、航空性、潜水性、好酸球性の副鼻腔炎があります。
原因としては、ウイルスや細菌などによる感染をはじめ、副鼻腔の形態による換気、排泄障害、アレルギー(アレルギー性鼻炎や喘息(ぜんそく)、生活環境、遺伝などがあげられます。
副鼻腔炎の治療:治療には、
- 掃除をする(鼻処置、吸入療法、洗浄)
- 飲み薬(抗菌薬、粘液調整薬、副腎皮質ステロイド)
- 手術をする(内視鏡手術)
鼻炎の手術
手術には、
- 鼻粘膜の縮小と変調を目的とした手術(電気凝固、凍結手術、レーザー手術など)
- 鼻漏の改善を目的とした手術(後鼻神経切断術など)
- 鼻腔通気度の改善を目的とした鼻腔整復術(鼻中隔(かく)矯正(きょうせい)術、下鼻甲介粘膜切断術、粘膜下下鼻甲介骨切断術など)
があります。
手術は、
- 反復する発作の結果、粘膜が不可逆的に変化した場合(粘膜の不可逆的肥厚)
- 薬物治療に抵抗する症状(アレルギー反応が非常に強い場合)
に行います。
ただ、手術は基本的には破壊的な内容ですので、やりすぎないことが大事です。昔は、鼻の中をすっかり取ってしまうような手術もありましたが、後になって鼻が詰まった場合、既に何もないので治療のしようがない、といった結果を招くことになります。手術の直後にはよくなっても、20年後に困る、といったことにならないよう治療します。
レーザー治療:比較的マイルドな手術といえます。炭酸ガスレーザーで、内視鏡下に下鼻甲介側面、下面の粘膜を蒸散します。手技が容易で、10分程度で両方済みます。外来で、局所麻酔でできる点が長所です。効果が出るまで1カ月ぐらいはかかるので、年末までに手術を受けると翌年のシーズンには楽に過ごせます。短所は、数年で再発することです。
外側後鼻神経手術:鼻粘膜の働きの6~7割を司る神経を電気で焼いてやることで、分泌物が減り、楽になります。近くに太い血管が通っているため、安全のために入院治療で行います。
副鼻腔炎の手術
慢性副鼻腔炎と急性副鼻腔炎の違いがあります。慢性副鼻腔炎の場合は、鼻茸(はなたけ)が生じている(粘膜が腫れて飛び出してくる)など薬で治りきらない場合や、繰り返し悪化する(急性反復性、航空性、潜水性)場合に手術を行います。一方、合併症を生じた急性副鼻腔炎は緊急手術が必要です。眼窩膿瘍(がんかのうよう)(目の中に膿が出る)や髄膜炎、脳腫瘍の場合(鼻や顔の構造上、不利な形態をしている人で、膿が脳に行ってしまうケース)です。
内視鏡下手術:副鼻腔炎の手術では、できる限り粘膜を保存します。内視鏡を鼻の穴から入れて、広範囲に手術を行います。20年ほど前までは病的粘膜を摘出する古典的な根治手術も行っていましたが、上にも述べた理由から、現在ではほとんど行っていません。
内視鏡手術の効果:音羽病院では2013年~2015年に106例の内視鏡下鼻・副鼻腔手術を行いましたが、片側性副鼻腔炎、慢性副鼻腔炎、好酸球性副鼻腔炎とも、非常に良好な術後経過をたどっています。手術の効果は大きいといえますが、もっとも、手術直後に治るのではありません。直後は悪化したように感じる場合もあります。粘膜の機能回復にも時間が必要(最短で3カ月程度、長ければ1年以上)です。このため、頻回の通院は不要ですが経過を見させていただくことが大切です(粘膜癒着切離などの処置や小手術を行うことがあります)
手術の合併症:手術に伴う出血や疼痛は、避けられませんが、それ以外の合併症として視力障害や髄液漏、鼻中隔穿孔(びちゅうかくせんこう)などが起こる例が報告されています。
入院期間:鼻・副鼻腔内視鏡手術の場合は6日間、鼻中隔矯正術、下鼻甲介手術は5日間で退院となります。入院した翌日に手術をし、翌日か翌々日に止血材料(メセロル)を除去します。術後の出血が問題ですので、安全第一に1~2日様子を見てから退院となります。洛和会音羽病院の場合、アレルギーのレーザー手術は日帰りですが、それ以外の手術は入院で全身麻酔をして行っています。
プロフィール
洛和会音羽病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科
部長
荒木 倫利(あらき みちとし)
- 専門領域
内視鏡下鼻副鼻腔手術、神経耳科 - 専門医認定・資格など
日本耳鼻咽喉科学会専門医/専門研修指導医
大阪医科大学臨床教育教授
日本めまい平衡医学会認定めまい相談医
日本がん治療認定医機構がん治療認定医
臨床研修指導医
医学博士
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