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医療 洛和会音羽記念病院

家族の誰かが人工透析になったら

~透析について考えてみませんか~

投稿日:2018年6月21日 更新日:


はじめに

腎臓という臓器は尿をつくるとともに、体内の老廃物を体の外に出すなど、大切な役割を持っています。重要な臓器だけに、いったん腎臓の機能が低下して、正常に働かなくなった場合は、腎臓の機能を人工的に代替しなければなりません。医療行為として行われる人工透析という治療も、その一つです。専門的な治療であり、もし身近な人が急に人工透析することになったときに備え、腎臓病や透析について、本日はお話ししたいと思います。

腎不全とは

腎臓の機能が低下し、正常に働かなくなった状態を腎不全と呼びます。腎不全には急性腎不全と慢性腎不全の2種類があります。急性腎不全は1日から数週間の間に腎臓の機能が急激に低下し、脱水症状やショック状態が現れます。急性腎不全は回復の可能性がありますが、慢性腎不全は回復が見込めません。こちらは腎機能が低下し、数カ月から数年をかけて、症状が進みます。暴飲暴食が原因の一つとされています。

慢性腎不全

腎臓の働きは、まず尿を作ることです。次に、体内の老廃物を体の外に排泄します。この他、体内の電解質の量を調節し、ホルモンの分泌によって血圧調整も行います。腎臓が悪くなると、まず尿の量が減り、水分が体の中にたまります。体のむくみが現れ、血圧も高くなります。老廃物が体の中にたまるため、疲労感や食欲不振、吐き気や頭痛を感じます。症状が進行すると、けいれんや意識障害を起こします。電解質のバランスが崩れることで、吐き気、だるさを感じ、呼吸が速くなることで、呼吸困難の症状が出てきます。

腎不全の原因は

腎不全の主な原因となる原疾患には、次のような病気があります。代表的なものは、糖尿病性腎症です。糖尿病の合併症で、急に尿が出なくるのではなく、段階を経て病状が進行します。慢性糸球体腎炎は、腎臓の中の糸球体の炎症によって、タンパク尿や血尿が出る病気の総称です。腎硬化症は、高血圧症が長く続いた場合、腎臓の血管に動脈硬化が起こるときに現れます。血管の内腔が狭くなり、腎臓に流れる血液量が減ってしまい、腎臓そのものが硬くなって、機能低下を起こします。

人工透析患者の現状

腎臓病が進み、人工透析を受けている患者さんは、年々、増えています。わが国の人工透析患者数は、2015年末に32万4千人を超えました。しかし、2005年ごろまでは年間に約1万人ずつ増えていた患者数は、近年増加が鈍っています。ただ、人工透析を始める年齢は、かなり高齢化しています。
人工透析を導入する患者を原疾患別にみると、第1位は糖尿病性腎炎で、43%あまりで、2位は糸球腎炎です。3位の腎硬化症を加えると、だいたい3つの原疾患の人の8割が人工透析を受けていることになります。

血液透析と腹膜透析

血液透析は、血液を体外で循環させ、ダイアライザー(人工透析器)に通して尿毒素を取り除いた後、体内に戻す仕組みです。週に3回から4回、透析治療を行う医療施設に通院して治療を受けます。1回の透析に必要な時間は4時間程度です。これに対し、腹膜透析は、おなかの中に腹膜透析液を注入して、血液の中の老廃物や水分、塩分などを透析液に移動させた後に、透析液を体外に取り出す方法です。こちらは自宅で行うことも可能です。

※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。

透析液とは

血液透析に使う透析液は、濃い透析液をきれいな水で薄めて使います。通常、透析液は1人に1回で120~150リットルを必要とします。このように作成された液は、正常な血液の成分に近い濃度の電解質を含んでおり、ナトリウムやカリウム、カルシウム、ブドウ糖などを含んでいます。

透析の原理

限外濾過(ろか)というのは除水のことです。水分を取り除くには、血液側と透析液側に圧力の差があることが必要になります。血液側の圧力が高いと、水分は透析液側に出ていきます。実際の血液透析治療では、ダイアライザーという機械によって透析液側の圧力を低くしてやり、圧力差をつくっています。水分の移動とともに、電解質も一緒に取り除きます。

人工透析の実際

これまで述べましたように、血液を透析するには、1分間に約120~300ミリリットルもの大量の血液を体内からダイアライザーという外部の機械に取り出します。ダイアライザーの中には数多くの細い管(中空管)が入っています。この管は、非常に小さな孔があいています。血液は管の中を通り、透析液は管の周りを流れます。体に必要な血液やタンパク質は大きいため、この孔を通過することはできません。
その血液の取り出し口(ブラッドアクセス)のうち最も一般的なのが、シャントと呼ぶものです。手首のあたりで静脈と動脈をつなぐ部分で、前もって手術を行います。シャントは、生涯にわたって使用できるわけではなく、血流が悪くなったり、圧力が高くなる、詰まるなど、シャントトラブルと呼ぶ機能不全が避けられません。また、シャント付近から細菌に汚染されることもあります。透析治療を受けた当日の入浴は控え、十分な注意が必要です。

水分と体重変化

腎臓の機能が低下すると、尿が出る量が健康なときよりも少なくなります。尿の量が少ないということは、体にその一部が残っているということです。そこで、体調を知る目安として体重の増減が重要になります。体に水分が不足している場合、血圧低下や全身の倦怠感、めまい、息切れという症状がでます。逆に水分が多すぎると、血圧上昇や心臓機能の低下や息切れ、むくみの症状が現れます。
医療機関では、透析患者にDW(ドライウェイト)を設定します。体液量が適正で、透析治療中に過度の血圧低下を生じることなく、かつ長期的にも心血管系への負担が少ない体重です。目標体重とか適正体重とも言われます。顔や手足に浮腫(ふしゅ・むくみ)がない、心臓と胸郭の比率(心胸比)が大きくない(男性で50%以下、女性で55%以下が目安とされます)、心エコーでうっ血がない状態を保つためで、一般的に人工透析治療では、体重増加率を1日あきでDWの3%以内、2日あきで5%以下になるように指導しています。

まとめ

以上をまとめますと、人工透析治療のあらましは次のようになります。血液を体内から取り出し、血液中の老廃物や余分な水分を取り除き、浄化された血液を体内に戻します。透析だけでは限界があるため、食事制限と水分・塩分の制限も必要です。人工透析の功罪は確かにありますが、透析のために入室されてから透析の準備中、透析中、透析が終了してから止血するまで、私たちスタッフは患者さんとの会話を絶やさず、親身に接することを心掛けています。安心して、ご来院ください。

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