- 開催日:2018年7月11日
- 講師:洛和会音羽病院 薬剤部 課長
大森 清孝(おおもり きよたか)
はじめに
あなたの家の中に病院で渡された薬が残っていませんか。日本で医薬品を含む医療費の総額は1年間で41兆円にも上ります。もちろん、医薬品には保存できる期間があり、どこで保管するのかも問題です。余った薬品は、どうすればいいのか。本日は病院の薬剤師の立場から、飲まないまま残った医薬品についてお話ししたいと思います。
年間に8,744億円が無駄になっているかも
先ほどもお話しましたように、日本で1年間に使われる医療費の総額は約41兆円です。このうち8,744億円が、使われないまま家などに残っている薬代だと推計されています。なんという無駄でしょうか。ある報告では、そのうちの6,523億円は、上手に薬を使えば浮いた薬代かもしれないといわれています。また、この無駄になった薬のうち、皆さんと薬剤師との関わりで薬の費用をいくら減らせると思われますか。1人あたり約2,000円になるかもしれません。
薬の保存はどこで
薬は種類によって保存する温度が違います。一般の薬は室温保存といい、1度から30度くらいの温度で保存できます。これに対し、坐薬や目薬の多くは冷所保存が必要です。冷所とは1度から15度ですが、多くの薬は2度から8度と記載されています。多くの人は、冷蔵庫に入れているでしょう。では、もらった薬は開封後、何日もつのでしょうか。薬の種類にもよりますが、使用中のインスリンは30度以下で保存しますが、使用可能なのは4週間から8週間といわれています。そして温度以外にも条件があります。内服薬は湿度管理のため乾燥剤を入れた缶で保管します。光による分解を考えると、必ず遮光することが必要な薬もあります。
薬の有効期限は
薬には有効期限があります。粉薬や顆粒は3カ月から6カ月です。このほかの錠剤やカプセル、坐薬、軟膏などは6カ月から1年間です。保管方法や使用期限は、薬によってさまざまです。有効で、かつ安全に薬を服用するためには、薬剤師やかかりつけ医に相談するのがいいでしょう。
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薬を知っておくために
病気やけがを治すために、薬は必要です。しかし、程度の違いはあるにせよ、どんな薬にも副作用を引き起こす危険性があります。クスリを逆から読むと「リスク」になります。正しく薬を使用しなければ、思わぬリスクがあることを知っておく必要があります。薬の正しい飲み方や副作用の有無などを知るためには、薬の袋(薬袋)のほか、薬剤情報提供書が参考になります。そして、病院から手渡された「お薬手帳」も大切です。災害で自宅を離れた際にも、お薬手帳は役に立ちます。旅行に出かける際も、携行すれば急に別の病院にかかる場合も安心です。こうしたものは必ず身に付けておいてください。
残った薬で起こりやすい問題
では、飲み残した薬が、どんな問題を起こすのでしょうか。薬は病院などで個人ごとに適量が処方されます。外見上の薬の違いは目に付きにくく、いろいろな薬を同じ場所で保管することで、思わぬ取り違いが起きやすいものです。薬には、それぞれ有効期限があり、古い薬と新しい薬が混じってしまうと、危険です。期限切れの薬の服用は禁物です。重複も要注意です。副作用を考えると、余った薬を安易にひとまとめにして保存することは避けてください。
引用:日本薬剤師会
目薬と外観がよく似た薬も
薬の中でも、点眼薬のように小型の容器に入った薬は外見上、非常に似通っています。写真の例は、国民生活センターが公表した水虫や便秘の薬を目薬と間違って、実際に点眼したケースです。冷所保存が必要ということもあり、冷蔵庫の扉の裏側に保存している方も多いと思いますが、目薬と水虫の薬では、薬効はまるっきり違います。笑い話にもならない誤りで、危険です。使いきれなかった薬は、早めに処分しておくべきでしょう。
薬は整理しておこう
薬が余ってしまう原因は何でしょうか。飲み忘れが重なった、飲む回数を間違えたというのが代表的なものでしょう。このほか、新たに別の薬が処方された、別の医療機関で同じ薬が処方された人もいるでしょう。なかには、自分で判断して飲むのをやめたという人がいるかもしれません。自分では判断しないでください。薬は医師が必要だと判断して処方しています。無用な薬はないのです。薬を個人で整理し、管理する方法もあります。薬店などでも売ってる「お薬カレンダー」「お薬ケース」と呼ばれる容器に、服用日ごとに飲むべき薬を小分けする方法です。朝、昼、晩の食事ごとに分けるタイプもあり、曜日ごとに飲んだのか、飲まなかったかが明確に分かり、飲み忘れを防げます。
知ってますか、自分の薬のこと
自分が普段もらっている薬のことをきちんとご存じですか。薬の名前、いつ何回・服用しているのか。分量は。その薬の効果は。どんな副作用があるのか。飲み忘れたときは、どうすればいいのか。基本的なことは、お薬手帳や調剤時にもらう薬剤情報提供書で、常日頃から確認しておいてください。もし緊急災害時に、避難所で過ごすことになれば、さっそく困ります。必要な薬は、正しい分量をしっかり飲むことが大切です。
治療に積極的に関わる
薬の内容や分量は、医療者と患者さんが一緒に考え、相談のうえ決定する必要があります。患者さんが薬を正しく服用するには、医療従事者の指示をいかに守ってもらうかだけではなく、患者さんやご家族に病気や治療の意義をきちんと理解してもらい、患者さん自身が治療に積極的に参加し、実行可能な薬物療法を計画し、実行することが必要なのです。
薬剤師にできること
ポリファーマシーという言葉があります。臨床的に必要以上の薬が投与されている状態のことです。言い換えれば、不必要な薬が処方されている状態でもあります。一般的には、4~6剤以上の薬が処方された状態を指すといいますが、併用する薬が何剤以上を指すかは明確な定義はありません。こうした過剰な薬物投与が、家にたくさんの薬が残る一因でもあります。処方の内容を適正化することも私たちの仕事です。今の症状や薬に対する不安があれば、薬剤師にご相談ください。薬の必要性や薬を減らせないかなどについて、皆さんと一緒に考えるお手伝いをさせてください。不要な薬を減らし、必要な薬を確実に飲むことが何より大切です。
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