- 開催日:2018年7月4日
- 講師:洛和グループホーム山科小山 主席係長 介護福祉士 竹内 一博(たけうち かずひろ)
はじめに
昨日の晩ご飯のおかずは何だったのでしょうか? 皆さんは思い出せますか。私は、施設で働き始めて12年になります。この間、忘れっぽくなった人や怒りっぽくなった人、行き先もはっきりしないまま、あちらこちらを歩き回る徘徊(はいかい)を繰り返す人など、たくさんの人に接してきました。本日は、多くの皆さんが発症を心配している認知症についてお話ししたいと思います。
認知症とは?
認知症については、今も研究が進み、その対応や治療法について次々と新しい成果が生まれています。認知症は、人によって症状の現れ方が違い、一口で説明するのは難しいものです。「認知症」という病名があるわけではなく、いろいろな症状を併せ持つ「症候群」なのです。ただ、一つの定義としては、「さまざまな原因で、脳の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなったりしたために、複数の障害が起こり、生活するうえでの支障が出ている状態」を指すとされています。
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認知症の主な原因となる疾患
認知症を引き起こす病気というものがあります。最初は皆さんもよく聞かれる「アルツハイマー病」です。アルツハイマー型認知症とも呼ばれていますが、これは脳の記憶を司る「海馬(かいば)」を中心に脳全体が萎縮するものです。脳の中にβアミロイドと呼ばれるたんぱく質がたまることが原因の一つとされます。次は脳血管障害です。脳梗塞や脳出血などの発作によって、脳の血流が悪くなったり、血管が破れたりすることで認知症を引き起こすと言われます。3つ目はレビー小体病と呼ばれるもので、脳の大脳皮質や脳幹にレビー小体という特殊なタンパク質が多く集まることで、神経細胞が壊れ、認知症の症状が出てきます。これら3つの疾患をまとめて「三大認知症」と呼んでいます。全体の60%がアルツハイマー型だといわれています。
認知症は治らない?
認知症は、治せるのでしょうか。認知症を治療する、あるいは症状を改善するための治療薬や投薬はない、といわれています。しかし、治療によって症状を軽減する、もしくは治る認知症の原因疾患はあるのです。正常圧水頭症がその一つです。正常圧水頭症は、脳のせき髄液が脳室に過剰にたまり、脳を圧迫しています。次に慢性硬膜下血腫です。頭をぶつけたときに、頭蓋骨と脳の間に血の固まりができて、それが脳を圧迫しているために認知症の症状が出るものです。その他にも、脳腫瘍や薬物、アルコールを原因とする認知症や栄養障害などは治療ができます。症状を軽減したり、症状の進行を遅らせる薬はあります。次々に新薬の開発も進んでいます。認知症は治らないとは考えるべきではないでしょう。
認知症の症状
脳の細胞が死ぬことによって引き起こされる認知症の症状は、さまざまな形で表れます。脳の細胞が壊れ、脳の働きが低下することによって、現れる直接的な症状が中核症状と呼ばれるものです。中核症状の代表的なものは、記憶障害です。物事を覚えられない、すぐに忘れることです。次の見当識障害は、季節ごとの感覚が薄れることから現れます。何回も時間を尋ねる、季節感のない服を着たり、自分の年齢が分からなくなってしまいます。道に迷ったり、遠くに歩いて行こうとするのも見当識障害です。周囲の人との関係が分からなくなり、亡くなっているはずの母親が心配しているからと、遠く離れた郷里の実家に帰ろうとしたりします。過去に獲得した記憶を失う段階まで進行することによって起きる症状です。記憶障害と見当識障害は、ともに早期から症状が現れ始めます。中核症状がもとになって、行動や心理に現れるものが、認知症の行動・心理症状というものです。不安や抑うつ、徘徊や暴力・暴言などで、本人の性格や環境、心理状態によって出現します。
行動障害を理解してみよう
認知症を発症した本人の気持ちになって、考えてみましょう。あなたは外国を訪れ、砂漠を1人で道に迷うシーンを想像してみてください。さあ、大変です。道もなく、目の前には、広大な砂漠が広がっているだけです。今のあなたの気持ちはどうでしょう。「誰も人が見えない」「周囲に誰もいない」と焦ります。「みんな、どこに行ったのだろうか」不安を感じます。「どうしよう」と考えても、混乱は深まるばかりです。そのとき、あなたはどのような行動をとるでしょう。知っている人を探す→とにかく人のいる町まで歩く、でしょう。これが、認知症の「徘徊」なのです。
軽度の認知障害を見逃さない
最近、注目されているのが健常者と認知症の中間に当たる軽度認知障害(MCI)という段階にある人です。認知機能(記憶力、言語能力、判断力など)に多少の問題が生じていることは確認できても、それが日常生活に支障がない状態をいいます。認知症の発症を早期にとらえ、早期に適切なケアを受けることが、より良き老後を迎える上で何より大切です。
認知症を予防しよう
現時点では、認知症を予防すること、すなわち「こうすれば認知症にならない」という絶対的な方法は見当たりません。しかし、最新の研究では、「どうすれば認知症になりにくいか」ということが少しずつ分かってきました。認知症になりにくい生活習慣を心掛けることがそのひとつです。まず、食生活では野菜と果物、魚と赤ワインがいいようです。運動習慣を持つことも重要です。週に3日以上は軽い運動に努める。対人接触も大切です。人とよくお付き合いをする人は認知症になりにくいといわれています。そして、知的行動習慣も身に付けましょう。文章を書く、読むことがポイントです。出掛けるなら博物館です。睡眠習慣も良いようです。30分未満の昼寝と起床後2時間以内に太陽の光を浴びることも重要です。
3つの能力を鍛えよう
予防法の2つ目は、認知症で落ちてくる能力を今のうちに鍛えておくことです。まず、自分が体験したことを記憶として、しっかりと思い出すことです。エピソード記憶と呼ばれています。次に、注意分散機能と呼ばれるもので、複数のことを同時に行うときに、適切に注意を配る能力をいいます。関連付ける作業が重要です。そして、計画力も鍛えましょう。何か新しい事柄をしようとする際には、さまざまな段取りを考えるはずです。そんな段取りまで考えておくトレーニングが認知症対策にもなるのです。
まとめ
認知症を予防することを目的としたゲームには、たくさんの種類があります。ただ、これらのゲームを日課として毎日こなすのではなく、当事者の方が楽しく、前向きに行うことが一番効果のあることです。ぜひ、ご家族やご近所の方と楽しく、認知症の予防に取り組んでください。資料に示した「口」の字を含む漢字を1分間でいくつ思いつくかなどのゲームを自分で考えて、暇を見つけて楽しんでください。
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